特定非営利活動法人 フリースクールみなもの組織基盤強化ストーリー

子どもたちのニーズに合わせて臨機応変に組織を変革。
3年で運営を効率化、冊子制作で価値を社会に発信

大阪市にある「特定非営利活動法人 フリースクールみなも」。
2004年11月に不登校の子どもたちの居場所・学びの場作りを目指して立ち上げたが、10年が経った頃から多角化した部門の運営に行き詰まりを感じ始めたという。課題解決のための3年間の取り組みを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第381号(2020年4月15日発行)掲載内容を再編集しました]

通信制サポート、個別指導塾も
ニーズに合わせ事業を多角化

「特定非営利活動法人 フリースクールみなも」が、不登校の子どもたちの居場所・学びの場作りを軸に活動を開始したのは、2004年11月のこと。大学生の頃からフリースクールなどでボランティア活動をしてきた理事長の今川将征さん、不登校経験のある学生、学校現場で子どもたちとかかわってきた教員、不登校中の子どもを持つ親などが集い、不登校の子どものサポートをするために立ち上げた。
当初は「フリースクール部門」と、不登校中の子どもを持つ親が集い、悩みを共有しながら知恵を分かち合う「親の会」の2本柱だったが、集う子どもたちのニーズに応えるうちに、2009年には通信制高校サポート校としての活動や、2013年には個別指導塾としての機能も加わった。

最初は5人ほどだった子どもが20人にまで増え、組織も多部門化していく中で、今川さんは従来のやり方で組織を運営していくことに限界を感じ始めたという。「当初からおもな事務作業は私が担っていたのですが、会社勤めの経験がなく効率的な事務ノウハウを持ち合わせていませんでした。組織が大きくなるにつれて事務量が増え、作業に無理が生じ始めていましたし、各部門間との情報共有も難しくなってきていました」
そこで、Panasonic NPOサポートファンドの助成に応募、2015年から3年間組織基盤強化に取り組んだ。初年度は、「まずは客観的に組織の状態を知る」ことを目指し、組織診断を行った。

写真
特定非営利活動法人 フリースクールみなも
理事長 今川 将征さん
写真:学習風景

そこから見えてきたことは、「ノウハウが共有化されていないこと」「部門間連携の不足」「法人ミッションが明らかでない」という3点だった。「常勤、非常勤合わせて10人ほどのスタッフがいますが、たとえばフリースクール部門と塾部門でそれぞれの今後の予定を把握し合えていないことや、子どもたちの様子を共有できていないことがありました。また、なぜここで働いているのか、スタッフの思いはバラバラでミッションの共有もできていませんでした。その結果、大阪府内でもフリースクールが増えてきた中で、自分たちの特色が外に伝わりにくい状態になっていることもわかりました」

他団体との研修でノウハウ共有
自分たちの組織を客観視

そこで、助成2年目には、組織内外とのコミュニケーション円滑化に取り組んだ。フリースクールは13時~20時、個別指導塾は13時半~21時40分と、活動時間帯に幅があることなどから、全員が顔を合わせての会議は難しかったが、さまざまなオンラインツールの活用やシステムエンジニアとの連携による独自システムの開発で、ネット上での連絡共有がスムーズになった。
「このシステムで事務効率が大きくアップしました。また、ホームページを誰もが操作できる仕組みに変更したことで、業務分担が可能になりました」と今川さんは言う。また2ヵ月に1回、コンサルタントとともに「『みなも』のミッションとは?」について考えるミーティングを重ねた。
「見えてきたことはスタッフ一人ひとりや集う子どもたちにとって、『みなも』は多様な意味を持つ場であり、『子どもたちのニーズに合わせて臨機応変に組織を変えていこう』という、活動当初から変わらない精神です。
子どもの声を聞きながら、居場所、個別学習、屋外活動……と違う方策を柔軟に試していけばいいんだと、組織のアイデンティティを再確認できました」

写真:サイクリングイベント
写真:キャンプイベント

これを受けて、助成3年目にはフリースクールの多様な価値と存在意義を社会に発信することに取り組んだ。まずは、コンサルタントも交え、ともにサポートファンドの助成を受けた兵庫県でフリースクールを運営する「NPO法人ふぉーらいふ」と合同研修を行った。「組織によって、運営形態や目的もさまざま。たとえば『ふぉーらいふ』は地域密着型ですが、うちは広域型なので、地域とのかかわり方や外への情報発信方法も異なります。フリースクールとしての共通点を探りながら、それぞれが蓄積してきたノウハウを共有することで、自分たちの組織を客観視することができました」

地域の支援団体を網羅した冊子制作
活動の機能面を伝えたい

その作業を経て制作したのが、大阪と兵庫にある支援団体の一覧を掲載した冊子『不登校のためのハンドブック 2018年版』と、書籍『学校に行かないという選択』だ。ハンドブックは2007年、2012年にも発行されており、学校関係者、教育委員会、NPOや中間支援団体などにも広く活用されていた。2016年には「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保などに関する法律」も成立し、不登校の子どもたちへの支援方法についてさらに関心が集まった。そこで2018年版では、支援団体の情報を網羅的に掲載。
また、「ふぉーらいふ」との連携事業としたことで、大阪府内の情報だけでなく兵庫県の情報を追加したほか、親の会の情報も拡充させた。

写真:冊子『不登校のためのハンドブック 2018年版』、書籍『学校に行かないという選択』

「不登校の子どもたちや保護者、かかわる人たちにできるだけ多くの情報を届けたくて、PDF版を無料でダウンロードできるようにもしました」
一方、同じく情報発信ツールとして制作した書籍『学校に行かないという選択』では、これまで日本社会が不登校の子どもたちをどう受け入れてきたかについて振り返りながら、「みなも」の活動を紹介している。
「不登校の子どもたちを支える市民活動が日本で本格化した1980年代は、学校へ行かないというだけで人格否定されかねない時代でした。当時必要とされたのは『不登校でも大丈夫!』というポジティブなメッセージで、フリースクールの長所ばかりがクローズアップされていた面もあると思います。フリースクールの存在や価値が認識され始めた今だからこそ、フリースクールの“思い”だけではなく、その使い方などの“機能面”を伝えるために執筆しました」

3年間の助成を受けた成果を今川さんはこう語る。「一般的なNPO像は、達成したい理想像があり、それに向かって邁進するというものだと思いますが、『みなも』では、まず子どもたちのニーズがあって、それに合わせて活動内容を多様化させてきました。
そんな私たちの組織のあり方、特徴を再確認したうえで、そのあり方はそのままに、“我流”を脱して運営基盤をより機能的なものへと作りかえる作業ができたことが一番の成果だと思います。まだまだ模索中ではありますが、これからもスタッフ一人ひとりの成長とともに、組織としても成長し、子どもたちの声を聞き続けていきたいと考えています」

写真:特定非営利活動法人 フリースクールみなも 理事長 今川 将征さん

(団体プロフィール)
特定非営利活動法人 フリースクールみなも
不登校の子どもたちや学校以外の学びの場を選択した子どもたちに、もう一つの学びの場と機会を提供することを通じて、子どもの自己実現を最大限に助け、あわせて社会にとっても優秀な人材を育成することを目指す。また不登校児などの親のサポートや学校以外の学びの場に対する社会の理解を深め、選択的な教育の場を認める社会の実現に寄与する。