環境分野 選考委員長総評

選考委員長 粉川 一郎
(武蔵大学 教授)

今回の審査では、2011年に「組織診断助成」を受けた上で2012年にキャパシティビルディング事業を実施した団体の2013年のキャパシティビルディング事業計画と、2012年に「組織診断助成」を受けた団体の2013年のキャパシティビルディング事業計画を審査しました。
結果、それぞれ3団体から2団体を助成対象とすることができ、都合4団体への助成を決定しました。

1年間キャパシティビルディング事業を実施した団体の力強さ

2012年にキャパシティビルディングを行ってきた3団体は、いわゆる日本のNPOの平均的イメージからすると、かなりレベルの高い団体であるといえます。もちろん、それぞれの団体がもつもともとの組織体力、事業経験には差はあり、置かれている環境や経営規模も異なっていますが、いずれもじっくりと組織診断に取り組んだうえで、1年間キャパシティビルディングの事業を行ってきただけに、目に見える大きな課題についてはすでにクリアした団体であるといえるでしょう。それだけに、2013年にどのような「キャパシティビルディング」を積み上げていくことができるか、を発見することは、まだ未成熟な団体に比べて難しいテーマであったといえます。

そうした中で今回、評価されたのは、整理されてきた組織体制および事業メニューをさらに充実するための人づくりやコンテンツ作りを行うような事業や、団体の新しい可能性を切り開くための新分野へのチャレンジの事業でした。いずれも1年目で培われた力を、さらに広げていくための戦略性を踏まえた事業計画です。一方、今回低い評価にとどまったのは、団体のこれまで歩んできた路線の延長線上に描かれた事業でした。もちろん、重要な事業には違いありませんが、ここまでの組織診断や2012年のキャパビルの事業経験を踏まえると、若干の物足りなさが感じられました。
力のある団体、歴史のある団体は、どうしてもこれまでの取り組みの「慣性力」から抜け出ることが難しいものです。しかし、組織の基盤を常に充実したものにするには、時にその「慣性力」にあらがわなければいけません。2年目を迎えるキャパシティビルディングの計画には、そうした組織の覚悟のようなものが見られることが期待されます。

組織診断結果に見る「思い」と「ミッションの実現」の不整合

一方で2012年に組織診断を行ってきた3団体は、まだ、多くの課題を抱えている団体です。長い経験の中で、閉塞感を抱える団体、一気に成長し、日々の活動に忙殺されたがゆえに、組織の基礎体力がまだ十分に成熟していない団体、そして、人々の思いが空回りしてしまい、事業体としてのNPOに十分なりきれていない団体。いずれも、日本のNPOの典型的な姿といえるかも知れません。
今回、そうした団体に組織診断の機会を得ていただいたことは、非常に重要かつ有意義なものであったと思います。いずれの団体からも、組織診断による新たな「気づき」が得られたこと、そして、激しい「思いのぶつかり合い」があったこと、そして改めて湧き上がる「使命感」を感じたことが伝わってきました。

しかしながら、一方で、その組織診断の経験から得られた興奮が、冷静なキャパシティビルディングの事業計画を行う上での阻害要因になってしまっている様子も見られました。それぞれの団体の人々が、改めて自分たちのもつ強い「思い」に気づき、それをもとに2013年の事業計画をご提案いただいたのは良いのですが、第三者的な立場から一歩ひいて冷静に見つめなおしたときに、提案いただいた事業計画が、本当にミッションを実現するための団体づくりに資するようなキャパシティビルディングの計画になっているかという点では、疑問な点もありました。目の前の課題に対して、積極的に改善を行い、それに合わせた組織体制を作るというのは、一見妥当なキャパシティビルディングの方法に見えますが、NPOがミッションを実現する団体であるという性質を持つ以上、やはり当該団体のミッションを実現するために本当にその事業が必要なのか、本当に今かかわっている人々だけが顧客なのか、そうした根本的なところから組織や事業を見直し、基盤整備を行うことこそが、本来望まれるキャパシティビルディングのありようです。

組織診断の過程は、実にエキサイティングです。しかしその熱狂に酔ってしまってはいけません。冷静に組織や事業を見つめなおす視点は、持っておく必要があるでしょう。

やはり重要な「キャパシティビルディング」

NPO法ができて十数年がたち、歴史的な寄付税制制度の改革も行われ、日本のNPOはその存在感や社会的価値において、今、まさに輝くことができる環境に置かれているといえます。しかしながら、認定NPO法人数の鈍い伸びに代表されるように、その環境を活かすことができるNPOは残念ながらほんの一握りなのが現状です。せっかくのチャンスを活かすことができない、最大の理由は「組織体力」のなさ。
自分たちのマーケットも、キャパシティも、そして何よりも地域における価値にも気づかないまま、あるいは気づけないまま、日々の事業に忙殺されているというのが現実ではないでしょうか。

そうした状況だからこそ、改めて組織のありようを見直し、自分たちの思いを再確認し、そして冷静な視点を持って中長期の成長の過程を描くことが重要です。そのためには、自助努力だけでは難しいでしょう。ぜひ、「Panasonic NPOサポート ファンド」のような、優れたプログラムを活用し、新しいステージにチャレンジしていただきたいと思います。「思い」に酔うのではなく「ミッションを具体化」するために。

<選考委員>

★選考委員長

粉川 一郎

武蔵大学教授 ★

木村 真樹

コミュニティ・ユースバンクmomo 代表理事

冨田 勝己

パナソニック(株)モノづくり本部 環境・品質センター
環境経営推進グループ 環境企画チーム 次長