環境分野 選考委員長総評

選考委員長 粉川一郎
武蔵大学 社会学部

今回は、組織診断助成を経て、すでに1年間組織基盤強化事業に取り組んできた団体の2年目の継続に関わる組織基盤強化事業の審査を実施しました。3団体からの応募があり、うち1団体を助成対象として決定することができました。

組織基盤強化が団体の意識をどう変えたか
今回はすべての団体が1年間の組織基盤強化の取り組みを経てきていました。どの団体もこの1年間の伸びは顕著で、団体の規模にあわせた形での成長を見ることができました。
これまでいわゆる「日本のNPO」的な、思いと熱意だけに支えられた団体も、1年間の組織基盤強化を経て、組織のミッションを強く意識できるようになり、構成員の継続的な社会的サービスの提供に対する感覚が鋭くなり、そしてプロフェッショナルな組織マネジメントを指向することができるようになっていたと評価できます。組織診断を行っていた段階では甘さがみられた事業計画には、計量可能な成果指標の設定が行われるようになり、成長を感じます。理事会と事務局の意思疎通が本当にうまくいっているのか、疑問に思うような記述は減り、ミッションを、そしてゴールを組織の構成員一人一人が共有しようとしている姿勢がそこかしこの表現に見られるようになっていました。

非常に単純に言えば、NPOとして一皮むけた、構成員一人一人の意識が変わった、審査していてそういう感想を抱くような変化が見られた、といえます。にもかかわらず、今回、3団体から継続の応募があったにもかかわらず、1団体しか助成対象とすることができませんでした。それはなぜでしょうか。

そのお金にこめられている思いは何か
NPOをはじめとする民間非営利組織は、多彩な収入源によってその経営が支えられます。自主事業収入、寄付金収入、助成金収入、委託事業収入、さまざまな収入を組み合わせて、その必ずしも楽ではない経営を支えていきます。
どのような形のお金でも、お金はお金。いったん組織に入ってくれば、色がついている訳ではありません。しかし、NPOの経営ではそうした考え方は許されません。本当はお金には色がついています。もっときちんというなら、人々の思いが、NPOに入ってくるお金にはこめられています。困っている人々を助けたい、そのために頑張っている団体の人々を支えたい、お金にこめられたそうした思いを、的確に判断し、それを尊重する使い方ができることが成熟したNPOには求められます。

Panasonic NPOサポート ファンドがもたらすお金には、まさにそうした思いが込められています。団体が社会問題を持続的に解決するための成長を遂げるためのお金、NPOに関心を持つ人々が、この団体がこんな風に成長するんだ、と思わず膝を打つような組織基盤強化を実現するためのお金。そんな色が、この助成金にはついています。
組織基盤強化の1年目の事業を実施してきた団体には、そうしたお金が持つ意味に敏感であってほしいと思います。そして、この敏感さが欠けた団体は残念ながら助成対象とすることができませんでした。

NPOは三角形なのか、それとも多角形なのか
NPOの社会的価値を語るときによく「専門性」というキーワードが出てきます。NPOはほかにはない専門性、つまりは尖った何かを持っているからこそ、評価されます。民間の頼りない団体かもしれないけれど、でも、この事業のノウハウを持っているのはこのNPOだけ、あるいは、この事業を支えるだけの人的ネットワークを持っているのはこのNPOだけ、そういう「尖った」部分があるからこそ、人はNPOに期待し、足りない部分を支えようと思ってくれます。
そうした「尖らせる」部分を見出すのが、組織診断や、組織基盤強化の初期段階です。組織基盤強化も2年目になれば、見出した「尖らせたい部分」を実際に尖らせたり、あるいは尖らせるためのツールを手に入れるための事業を実施しなければなりません。もちろん、余裕のある経営を行うために、いろいろな可能性を考え、あれもこれもと組織基盤強化のために様々な事業に取り組んでみたい、という気持ちはわかります。しかし、あれもこれもと取り組んで、本当に「この団体でなきゃダメだ」というエッジの効いた団体を作りだせるでしょうか。三角形のすべての角をバランスよく研げば、3つの鋭角を持つ三角形ができます。しかし八角形のすべての角を研いだとしても、それは鈍角しか持ちえません。
2年目の組織基盤強化においても、あれもこれも状態から抜け出せなかった団体は、残念ながら今回の助成対象とすることはできませんでした。

したたかな事業計画書
一方で助成対象とすることができた団体は、理想的な計画書を書くことができたのでしょうか。いえ、そうではありません。残念ながら、スケジュール感覚の甘さ、目指す成果を実現するために不足している事業要素、課題は散見されました。しかしながら、団体が提出された事業計画をもとにさらにパワーアップし、その団体の社会的価値をこれまでよりもずっと広く提供できる可能性が活き活きと伝わってきました。そして、その可能性を支えるための基礎部分を強化するための効率化の計画がきちんと位置づいていました。まさに成長と成長を支える基礎体力強化の両面が描かれた、組織基盤強化らしい計画だったといえるでしょう。そこには団体が自分たちの強みが何であるか、そしてこの助成金は何を狙っているのか、を十分理解している様子がうかがえました。

ある意味、したたかな事業計画書であったといえるでしょう。こうした助成金が何を助成対象に求めているのか、そうした点をきちんと想定しているように感じられる内容であったからです。
しかしながら、この「したたかさ」は歓迎すべきものです。ドナーのニーズはどこにあるのか、それを正しく想定できたということは、この団体が1年目の組織基盤強化事業で大きな成果を得たということの証左に違いないわけですから。