アフリカ分野 2019年募集継続助成 選考委員長総評

2019年のノーベル平和賞は、エチオピアのアビー・アハメド首相に授与されました。過去20年近く続いてきたエチオピア・エリトリア紛争に終止符を打つとともに、民主化を進め、民族間の緊張緩和に貢献したことを祝しての受賞でした。翻れば、過去10年、アフリカでノーベル平和賞を受賞したのは4名と1団体(2011年サーリーフ・リベリア元大統領と市民活動家レイマ・ボウィ氏、2015年チュニジア国民対話カルテット、2018年コンゴ民主共和国のデニス・ムクウェゲ医師、2019年アビー・アハメド氏)。過去10年、世界のどの地域よりもたくさんのノーベル平和賞受賞者を出しているのがアフリカです。

2019年は、TICAD首脳会議が6年ぶりに横浜で開かれた年でもありました。アフリカ連合(AU)の加盟国すべてが参加し、1万人以上の規模で開催されたTICADのスローガンは「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーションで。」(英語:Advancing Africa's development through people, technology and innovation")で、アフリカでも生じているデジタル革命などの可能性と共に、経済成長と日本企業のアフリカ進出の促進が強調されました。

経済成長や、非連続的な形で生じているデジタル革命、科学技術イノベーションは、現代のアフリカの大きな可能性を示しています。ただ、アフリカの可能性を経済成長やデジタル革命の面ばかりに見いだすのは、かなりもったいない気がします。なにしろ、この10年間でノーベル平和賞受賞者をもっとも多く出している大陸です。貧困や紛争、環境汚染、人権侵害との闘いを最前線で担っている人々が、この大陸にはたくさんいます。そして、こうした人々が命懸けで取り組まなければならない問題がたくさんあるのも、この大陸なのです。

気候変動は、今年もこの大陸に大きな影響を及ぼしています。ここ数カ月、南部アフリカ18か国はここ十数年来で最悪の干ばつ状況にあり、5000万人が深刻な食糧不足に瀕しています。一方、11月下旬、ソマリア西部やジブチなどで突然の豪雨による洪水が生じ、50万人に上る人々が影響を受けました。それ以外にも、コンゴ民主共和国、ナイジェリア、ケニア、チャド等々で洪水が生じ、数十万の人々が家を奪われ、国内避難民となっています。

アフリカ連合や地域経済共同体(RECs)は、クーデターの防止や紛争の深刻化の防止のための調停などに非常に大きな役割を果たしてきました。「ビジネスと人権」の意識の高まりなどの関係で、紛争鉱物の管理なども一定進展しています。しかし、一方で、紛争がより激化するところも出てきています。カメルーン西部の旧英領地域では、以前からの紛争が極端に深刻化し、村の焼き討ちや虐殺が相次いでいます。マリやブルキナファソなどサヘル地域では、イスラーム聖戦主義の影響の拡大で地域全体が不安定化しています。ところが、「経済成長」の陰で、こうしたアフリカの紛争はあまり注目されなくなっています。

今回、継続案件として採択された「ダイヤモンド・フォー・ピース」の案件は、「紛争鉱物」の一つとされたダイヤモンドについて、コミュニティに根差した形で現地に利益を分配できるようにしていく、イノベーティブで、かつ粘り強い取り組みの一つです。こうした取り組みが広がり、集まることで、紛争が減り、現地コミュニティが正統な利益を得ることができる社会が実現できると思います。あわせて本ファンドの主眼とする「広報基盤の強化」に向けては、助成1年目に欧米市場向けにNPOの広報やソーシャルマーケティングについてのセミナーに参加し、英文ウェブサイトを再構築するなど「オンライン」の強化に取り組み、助成2年目には「オフライン」で使用する広報・啓発ツールを充実させてきました。助成最終年度となる今年度は、「オンライン・オフラインの両方」を強化し連携する施策に取り組まれます。さらに広報啓発活動の評価の仕組みを設計し、助成終了後も持続的に活動を継続するための基盤を築こうとしている姿勢も高く評価されました。

今世紀の20年、アフリカは大きく変化しています。アフリカで活動に取り組む日本のNGOも、アフリカの変化を見据え、自己刷新していくことが必要です。新しくなった「パナソニック NPO/NGOサポートファンド for SDGs」が、日本とアフリカの市民社会の新しい関係の発展に有効に寄与することを望んでいます。

アフリカ分野 選考委員長
稲場 雅紀

<選考委員>

★選考委員長

稲場 雅紀

特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会 国際保健部門ディレクター
一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク 政策顧問 ★

加藤 昌治

株式会社博報堂 PR局 シニアPRディレクター

松尾 沢子

認定特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター(JANIC) コーディネーター

奥田 晴久

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部
CSR・社会文化部 CSR・企画推進課 主幹