Panasonic NPOサポート ファンド キャパシティビルディング子ども分野総評

【子ども分野】選考委員長総評

昨年に引き続き、Panasonic NPOサポート ファンド 子ども分野の選考委員長を務めさせて頂くことになりました。どうぞ宜しくお願い申しあげます。
当ファンドは、2011年に組織診断助成を開始し、8法人を助成しました。各法人は、外部のコンサルタントを導入し、グループコンサルティングコースまたは個別コンサルティングコースに参加して、組織診断を行い、今般報告書を提出されました。この中の6団体が、組織診断結果をもとに、キャパシティビルディング助成に応募をされました。

選考委員3名は、事前に各団体から提出された組織診断結果報告書と、キャパシティビルディング計画書の書類審査を行いました。昨年の審査も担当していた委員としては、外部の診断を受け、どのような課題が提起されてきたのかとの興味をもって、まず報告書を読ませて頂きました。
報告書には、組織課題として、優先度の高かった5点について、その内容と解決の方向性がまとめられていました。例えば、意思決定プロセスが不明確であり、権限が一部の運営者に集中しているとか、世代交代がスムーズに行われていないという組織上の課題、全国各地への事業普及のバックアップが不足しているとか、委託事業が中心となり、団体の理念を実現する自主事業が弱体化しているという事業展開上の課題、活動を支える資金を十分に確保できない、広報ツールが不十分であるという支援者確保上の課題など、厳しい現実を直視する課題が報告されていました。

法人の内部で、どれだけ組織診断の意味、目的を共有できたか、そこから発見された課題について、どれだけ掘り下げて自らのものとできているかが、報告書の記述そのものに素直に反映されていたと思います。外部からの意見を受け止め、法人内部で議論が積み重ねられ、課題が整理され、これを法人全体の課題としてとらえようとしている法人の報告書は、課題とその解決指針が比較的わかりやすく、明確に記されていると感じました。
そのうえで課題の解決に、実際に取り組むことを決意した法人が、具体的なキャパシティビルディングの実施を計画したわけです。定款や理事会態勢の再構築、法人の理念の言語化による承継と全体での共有、中長期計画の策定、自主事業へのテコ入れ、ステークホルダーのニーズ、特性を意識した広報ツールの開発など、それぞれの法人の特色を踏まえた、興味深い計画がいろいろと記されていました。

選考委員長 坪井 節子
社会福祉法人
カリヨン子どもセンター

組織診断報告書が論理的かつ簡潔な法人ほど、計画書も具体的に作成されていました。これもまた当然のことかと思います。法人全体で課題が明確に受け止められているからこそ、これに対する解決策もまた、全体で論議をして、実現可能な具体策に練り上げられているということなのでしょう。
組織診断については、解決の方向が明確で合理的な説明ができているか、キャパシティビルディング計画については、目標が明確か、目標実現の手法が適切か、実施スケジュール、体制、外部協力者、予算の面で実現性が高いか、子どもの健やかな成長を支える社会に貢献することが期待できるかという観点から、ABC評価をしました。これはかなりの難作業ではありましたが、中身の濃い、委員自身が多いに啓発される時間となりました。

6月11日に開かれました選考委員会にて、各団体の代表の方においで頂き、12分という時間限定で、あらためて、プレゼンテーションをして頂きました。各法人パワーポイントを準備され、時間内で見事に報告をされました。その後10分程度、質疑応答の時間がありました。審査のための質疑というより、それぞれの法人が掲げている課題を実現するために、本当にその方法が適切であるのか、あるいは実現可能なのかという観点から、意見交換をするという時間でした。
プレゼンテーションを経て、法人の状況が、よりはっきり見えてきました。ただ書類選考における印象、意見が、それほど大きく変わるということはなかったように思います。法人が組織として強化されていくためには、理念、課題、プロセス、成果などが、言葉によって明確かつ論理的に表現され、法人内部で共有され、ステークホルダーに対して、発信されるということが、非常に重要であるということを、あらためて痛感した次第です。助成金の申請は大変な作業だと思います。しかしその過程自体が、組織の足腰を強くする一助なのだということを学ばされました。

組織診断結果とキャパシティビルディング計画に論理的整合性があり、中長期的見通しが立てられ、法人全体で、ある意味で痛みを伴う変革に踏み切ろうとしていると、各委員の評価が一致した法人の助成をまず決定しました。課題は明確であるが、手法の適切さや実現性に難があると判断された法人については、事務局がさらに面接をして確認を得たうえで、計画の一部について助成をする条件つき助成を決定し、組織診断の結果と計画に整合性がなく、法人全体で議論されたとは認められないと判断された法人についての助成は見送りました。
助成を受けた法人はもちろん目標達成に向けて、総力を尽くされることを期待します。また今回の助成自体を思い通りに得られなかった法人も、この報告、申請、審査過程そのものが、既にキャパシティビルディングの一部となっているという自覚のもと、これからの活動を維持展開されるよう、祈ります。

2012年度の組織診断、キャパシティビルディング助成への応募を考えておられる法人は、これからのNPOの活動は、意欲と情熱とアイデアだけではなく、これを支える理念や方策の言語化と、運営組織の基盤強化なくしては、継続的な活動を展開できないということを理解し、どうぞ果敢に組織診断を契機とする変革に取り組んで頂きたいと願う次第です。