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Panasonic NPOサポート ファンドの第3ステージ初年度の成果をはかるため、2012年に助成を受けた26団体を対象とする調査を行い、本事業が助成の受け手における組織基盤の強化、活動の充実による社会課題の解決の促進に与えた影響を検証した。また、組織基盤強化の手法として、組織診断を実施したことによる効果、および第三者によるコンサルティングの効果をはかった。
2012年助成は、26団体の助成実施団体のうち、新規助成の15団体が第三者の視点を入れつつ、およそ6か月間の組織診断を行ったことが特徴である。26団体の内訳は以下のとおりである。
公益財団法人 パブリックリソース財団
チーフ・プログラムオフィサー 田口由紀絵
助成の種類 |
団体数 |
調査対象となる助成期間と内容 |
|
---|---|---|---|
組織診断あり |
【第1グループ】 |
7団体 |
2011年11月~2012年5月(組織診断:7カ月間) |
【第2グループ】 |
8団体 |
2011年11月~2012年5月(組織診断:7カ月間) |
|
組織診断なし |
【第3グループ】 |
11団体 |
2012年1月~12月(基盤強化:24カ月~36カ月間) |
評価は、26団体に対するアンケート調査、および一部団体へのヒアリング調査、事務局ヒアリング調査、応募時点における各団体の申請書、組織診断報告書、助成事業報告書、組織診断の際のグループコンサルティング終了時に実施したアンケート調査の結果等をもとにして行った。
◆組織診断を行った15団体のうち14団体(93.3%)が、アンケート調査で「組織診断の取り組み自体が組織基盤の強化に役立った」と回答しており、組織診断のプロセス自体が組織基盤の強化につながることがわかった。
◆また第1グループでは、7カ月間の組織診断のみの取り組みだったにもかかわらず、73.3%の団体で助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題が解決した。
◆主要事業のアウトカム・インパクトについては、組織基盤強化に取り組んだ19団体全て(100%)で改善・向上がはかられた。
◆また、継続助成を受けた第3グループは、助成実施前に比べ実施翌年の総収入が15.3%の増加率を示したほか、有給スタッフの増加率は31.5%増、ボランティア数は4倍を超える伸びを示すなど、組織の基盤強化が進んだ。
以下、評価結果の概要を報告する。
1. 組織診断に取り組んだ目的
組織診断を実施した15団体に、組織診断に取り組んだ目的を訊ねたところ(複数回答)、「組織の課題解決の方向性について、外部の第三者の視点がほしかった」とする団体が最も多く、66.7%だった。次いで、「取り組むべき課題を明確にしたかった」が40%だった。
|
全体 |
環境分野 |
子ども分野 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
組織が優先的に取り組むべき課題を明確にしたかった |
6 |
40.0% |
2 |
28.6% |
4 |
50.0% |
組織が取り組むべき課題について団体内で共有したかった |
4 |
26.7% |
2 |
28.6% |
2 |
25.0% |
組織の課題解決の方向性を明らかにしたかった |
5 |
33.3% |
3 |
42.9% |
2 |
25.0% |
組織の課題解決の方向性について、外部の第三者の視点がほしかった |
10 |
66.7% |
4 |
57.1% |
6 |
75.0% |
キャパシティビルディング(組織基盤強化)のために何に取り組むべきかを明確にするために、組織診断に取り組む必要があると思った |
6 |
40.0% |
3 |
42.9% |
3 |
37.5% |
その他 |
1 |
6.7% |
1 |
14.3% |
0 |
0.0% |
2. 組織診断の有効性について
(1) 組織診断を行うことで、組織基盤強化の内容として取り組むべきことが明確になった
第1・第2グループの15団体に対して、組織診断に取り組むことで組織基盤強化の内容として何に取り組むべきか明確になったかどうかを訊ねたところ、全ての団体が「明確になった」と回答した。「大いに明確になった」「かなり明確になった」だけに絞ると、第1グループは71.4%であったが、第2グループは100%だった。
|
大いに |
かなり |
ある程度 |
あまり明確に |
全く明確に |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 |
6 |
40.0% |
7 |
46.7% |
2 |
13.3% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
第1グループ |
1 |
14.3% |
4 |
57.1% |
2 |
28.6% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
第2グループ |
5 |
62.5% |
3 |
37.5% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
(2) 組織診断に取り組むこと自体が、組織基盤の強化に役立った
組織診断に取り組むこと自体が組織基盤を強化することに役立ったかどうかを訊ねたところ、第1グループの28.6%、第2グループの62.5%が「大いに役立った」と回答した。また、「大いに役立った」「かなり役立った」「ある程度役立った」をあわせると、全体では1団体を除く全ての団体(93.3%)が「役立った」としている。この1団体に理由を聞いたところ、「団体内の十分な理解が得られず、診断結果が活かせなかった」と組織内部の理由を挙げた。
|
大いに役立った |
かなり役立った |
ある程度役立った |
あまり |
全く役立たなかった |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 |
7 |
46.7% |
2 |
13.3% |
5 |
33.3% |
1 |
6.7% |
0 |
0.0% |
第1グループ |
2 |
28.6% |
1 |
14.3% |
3 |
42.9% |
1 |
14.3% |
0 |
0.0% |
第2グループ |
5 |
62.5% |
1 |
12.5% |
2 |
25.0% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
3. 組織診断の方法について
(1) 組織診断において、外部の第三者(コンサルタント)のかかわりが有効であった
組織診断は、第三者の視点を入れて行う事を前提に実施された。組織診断の手法(進め方)について納得感があったかどうかを訊ねたところ、「納得感がなかった」と回答した団体はいなかった。今回、組織診断に入ったコンサルタントの手法は助成団体にとって適切であった。
|
大いに役立った |
かなり役立った |
ある程度役立った |
あまり |
全く役立たなかった |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 |
6 |
40.0% |
4 |
26.7% |
5 |
33.3% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
第1グループ |
2 |
28.6% |
1 |
14.3% |
4 |
57.1% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
第2グループ |
4 |
50.0% |
3 |
37.5% |
1 |
12.5% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
組織診断における外部の第三者(コンサルタント)の存在は、客観性、専門性、中立性などの点で有効であったほか、話し合いの時間をとるための強制力としてはたらくなどの効果も生んだ。コンサルタントの有効性に関する主な記述を列挙する。
- 「自分達の組織を客観視することはとても大変な作業。人の手を借りずにこの作業を行うのはほとんど不可能だった。」
- 「当初、団体内では一番に広報力に課題があると考えていたが、第三者が入った組織診断を行ったことで事務局の業務体制にも問題があることがわかった。」
- 「第三者が入ることで、後回しにせず時間をとって話をする機会を持てた。」
- 「内部だけだと関係性が入り込むが、第三者が入ることで課題について率直な議論ができた。」
- 「客観的な視点による考察を得ることができた。自分たちが見えていなかった団体の強み・弱みを知ることができた。」
- 「解決の方向性についてヒントをもらえた/専門性を提供してもらえた。」
- 「出た意見を客観的に整理分析するといった作業をしてもらえた。」
(2) グループコンサルティングは、ピアラーニングの良さが発揮された
第1・第2グループの15団体のうち、8団体は「Panasonic NPOサポート マネジメント イノベーション プログラム」により組織診断を行った。
「Panasonic NPOサポート マネジメント イノベーション プログラム」とは、パナソニック株式会社と特定非営利活動法人パブリックリソースセンターが協働で実施した組織診断を集合研修型で行うグループコンサルティングコースであり、3回の集合研修と、個別コンサルタントによるサポートから成った。
- 集合研修方式で行うのはよかったと思うかを訊ねたところ、アンケートに回答した8団体15名のうち14名が、「集合研修方式で行うのはよかった」と回答した。理由としては、「他団体の話が刺激になりとても勉強になった」「NPOとして共通の課題が見えた」「多様な考え方に触れることができた」「他団体の報告や第三者からのフィードバックから自団体のヒントを得られた」などがあった。
- グループコンサルティングの進め方についてとても役に立った点を訊ねたところ、回答者14名のうち、「コンサルタントの訪問」に7名、「診断シートによる内部環境分析」に7名、「ステークホルダー意見の収集」に9名、「重点課題と解決の方向性についての団体での話し合い」に10名が、「とても役に立った」と回答した。
4. 組織運営上の課題が解決された
助成申請の際に抱えていた組織運営上の課題が、事業を実施することによって解決されたかどうかを訊ねたところ、第1グループでは73.3%、第2グループでは75%、第3グループでは90.9%の団体が、目標の80~120%程度解決されたと答えた。全体では80.7%であった。回答団体においては、助成期間が長くなるにつれ組織運営上の課題の解決が進んだ。特に第1グループは、7カ月間の組織診断の取り組みのみだったにもかかわらず、73.3%もの団体で課題の解決がはかられた。
|
目標を上回って |
目標どおり |
ほぼ |
あまり解決 |
まったく解決 |
|||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 |
3 |
11.5% |
2 |
7.7% |
16 |
61.5% |
4 |
15.4% |
1 |
3.8% |
第1グループ |
1 |
14.3% |
0 |
0.0% |
4 |
57.1% |
2 |
28.6% |
0 |
0.0% |
第2グループ |
1 |
12.5% |
1 |
12.5% |
4 |
50.0% |
1 |
12.5% |
1 |
12.5% |
第3グループ |
1 |
9.1% |
1 |
9.1% |
8 |
72.7% |
1 |
9.1% |
0 |
0.0% |
5. 継続助成により、着実に組織基盤が強化された
助成実施前と実施翌年の総収入額を比べたところ、回答した団体では、継続助成を受けた第3グループの団体が15.3%と最も高い増加率を示した。
|
第1グループ |
第2グループ |
第3グループ |
|||
実施翌年 |
実施翌年 |
実施翌年 |
||||
増加率 |
n |
増加率 |
n |
増加率 |
n |
|
総収入額 |
-5.3% |
6 |
1.7% |
7 |
15.3% |
10 |
また第3グループは有給スタッフの増加率が高く、助成実施翌年に21.8%、現在は31.5%となっている。
ボランティア数においても、第3グループでは4倍を超える伸びとなっており、活動の担い手であるボランティア人材の増加率が高い。
|
第1グループ |
第2グループ |
第3グループ |
|||||||||
実施翌年 |
現在 |
実施翌年 |
現在 |
実施翌年 |
現在 |
|||||||
増加率 |
n |
増加率 |
n |
増加率 |
n |
増加率 |
n |
増加率 |
n |
増加率 |
n |
|
有給スタッフ |
4.6% |
6 |
-12.8% |
6 |
4.0% |
7 |
15.9% |
7 |
21.8% |
11 |
31.5% |
11 |
ボランティア |
12.5% |
2 |
33.3% |
2 |
100% |
3 |
39.6% |
4 |
22.6% |
8 |
458.1% |
7 |
6. 組織基盤強化の取り組みにより、主要事業のアウトカム・インパクトの改善・向上がはかられた
組織基盤強化の取り組みによって主要事業のアウトカム・インパクトの改善・向上がはかられたかどうか、以下の1~5の指標をもとに訊ねた。組織基盤強化に取り組んだ19団体全て(100%)が、少なくとも1つ以上の項目について改善・向上がはかられたと回答した。本助成による組織基盤強化の取り組みが、主要事業のアウトカム・インパクトの改善・向上に有効であったことを示している。
また、組織診断の後に組織基盤強化に取り組んだ第2グループと、組織診断助成を受けずに組織基盤強化に取り組んだ第3グループの団体とを比べると、アウトカム・インパクトの改善・向上の度合いに大きな差異は見られなかった。第3グループの方が組織基盤強化の取り組み期間が長いことから、回答団体においては、組織診断を行った方が主要事業のアウトカム・インパクトが早く改善・向上したといえる。
1.「受益対象者が拡大した」
|
大いに拡大した |
拡大した |
変化はない |
わからない |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2グループ |
3 |
37.5% |
3 |
37.5% |
1 |
12.5% |
1 |
12.5% |
第3グループ |
3 |
27.3% |
6 |
54.5% |
2 |
18.2% |
0 |
0.0% |
2.「社会課題の解決に影響を与えた」
|
大いに影響を与えた |
影響を与えた |
変化はない |
わからない |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2グループ |
3 |
37.5% |
5 |
62.5% |
0 |
0.0% |
0 |
0.0% |
第3グループ |
2 |
18.2% |
4 |
36.4% |
4 |
36.4% |
1 |
9.1% |
3.「社会の意識に変化を与えた」
|
大いに変化を与えた |
変化を与えた |
変化はない |
わからない |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2グループ |
1 |
12.5% |
5 |
62.5% |
1 |
12.5% |
1 |
12.5% |
第3グループ |
2 |
18.2% |
7 |
63.6% |
2 |
18.2% |
0 |
0.0% |
4.「政策に影響を与えた」
|
大いに影響を与えた |
影響を与えた |
変化はない |
わからない |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2グループ |
1 |
12.5% |
1 |
12.5% |
3 |
37.5% |
3 |
37.5% |
第3グループ |
1 |
9.1% |
0 |
0.0% |
7 |
63.6% |
3 |
27.3% |
5.「他団体に影響を与えた」
|
大いにある |
ある |
特にない |
わからない |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第2グループ |
1 |
12.5% |
3 |
37.5% |
0 |
0.0% |
4 |
50.0% |
第3グループ |
3 |
27.3% |
5 |
45.5% |
3 |
27.3% |
0 |
0.0% |
7.今後に向けて
【組織診断が着実に効果を生むために】
今回の調査では、組織診断に取り組むことに対する組織内の合意ができていなかったり、人員が極端に足りていないなど団体の体力が落ちている時期であったりすると、組織診断の効果が得られにくいことがわかった。助成事務局では、応募の目安とする団体規模を示したり、理事会の合意を採択の条件にしたり、内定団体およびコンサルタントに向けた「オリエンテーションガイド」を作成するなどの取り組みを進めている。団体が組織診断を行うべきタイミングにあるかの見極めや、代表理事・事務局長をふくむ主要メンバー全員が組織診断に前向きであることといった条件の提示など、組織診断を有効に行うためのさらなる取り組みが課題である。
【組織診断ができるコンサルタント人材の発掘と育成】
第三者として組織診断にかかわるコンサルタントは、個別コンサルティングの場合は団体自らが選ぶ前提であり、事務局が候補者について情報提供を行うこともあった。コンサルタントの決定まで時間を要した団体が複数あり、組織診断ができる人材の発掘や育成が課題である。特に首都圏以外の地域でコンサルタントの人材が不足しているほか、特定のイシューのコンサルティングに加えて組織診断もできる人材への期待がある。NPOの事務局長経験者や、各地のNPO支援センターのスタッフ等、組織の運営経験やNPOマネジメント支援の経験がある人の発掘・育成が課題である。