2013年10月23日、東京の新名所・渋谷ヒカリエ8階にて「プロボノフォーラムTOKYO 2013」がNPO法人サービスグラントとパナソニックとの共催で行われました。
プロボノとは「公共善のために(Pro Bono Publico)」という意味のラテン語に由来する言葉で、社会人が働きながら得た専門的なスキルや経験を活かして行うボランティアのことです。そしてNPO法人サービスグラントは、このプロボノを行うプロボノワーカーとNPOとをつなぐ役割を果たしている団体です。
フォーラムでは、プロボノワーカーとNPOが取り組んだ3つのプロジェクト事例が発表され、会場には、プロボノに関心をもつ企業人やNPO、企業の社会貢献担当者、行政職員、学生など約160人が訪れました。
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プロボノを広げよう! 世界各地でイベントを開催
開会にあたっては、パナソニック株式会社 CSR・社会文化グループ グループマネージャーの小川理子が挨拶をしました。
「10月20日~26日は『国際プロボノ週間』と定められ、世界各地でプロボノに関するイベントが開催されています。日本初参加の今年は、これまで大阪で開催していたプロボノフォーラムを初めて東京で開催することになりました。パナソニックは2001年から、『Panasonic NPOサポート ファンド』という助成プログラムを通してNPOの組織基盤強化を支援してきました。さらに2011年からは、そこで支援したNPOにパナソニックの社員が赴き、仕事で培ったスキルを事業展開力の強化に役立てるプロボノプログラムにも取り組んでいます。今日はいろいろな方からの刺激を受け、有意義にお過ごしください」
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パナソニック
CSR・社会文化グループ
グループマネージャー 小川理子
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サービスグラント
代表理事 嵯峨生馬さん
続いて、 NPO法人サービスグラント代表理事の嵯峨生馬さんから、国内外で行われているプロボノに関するイベントの紹介がありました。
「今年2月に、世界12カ国からプロボノを運営する団体がニューヨークに集まり『グローバル・プロボノ・サミット』が開催されました。そこで呼びかけていたのが『国際プロボノ週間』です。今週1週間、プロボノに関する様々なイベントを日本でも開催することにしました。10月19日には『大阪プロボノマラソン 2013』と題し、44人の社会人が12団体の課題を解決する1日限りのプロボノ・ワークが行われました。社会問題解決の担い手を支援するプロボノにできることを、これからも考え続けていきます」
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「greenz.jp」
編集長 兼松佳宏さん
そしてゲストコメンテーターには、『greenz.jp』編集長の兼松佳宏さんを迎えました。『greenz.jp』は、社会課題解決のヒントになりそうな国内外の情報を発信しているWEBマガジンです。
プロボノ経験者でもある兼松さんは、「2004年に初めて、プロボノとしてNPO法人アースデイマネーのウェブサイトを制作しました。そこから先につながった、いろいろなNPOとも出会い、僕の知らないことが世の中にはたくさんあるんだと実感しました。もしもプロボノと出会わなかったら、今の僕の活動もありませんでした。今日は鹿児島から恩返しにきました」と語りました。
第1部 NPOとプロボノワーカーが取り組んだプロジェクトの事例発表
事例1:NPO法人ファミリーハウス「理想のハウスづくり」
新たなニーズに応える理想のハウスをビジュアル化
NPO法人ファミリーハウスは1991年、子どもが小児がんなどの難病で入院しているお母さんたちの声を受けて医療従事者と共に設立した団体です。
子どもに付き添うお母さんが安心して安価に泊まれ、お互いに助け合える滞在施設「ファミリーハウス」を提供しています。現在は都内で11施設56部屋のハウスを運営し、年間13000~14000人が利用。これを270人の登録ボランティアが支えています。利用料は一人1泊1000円。入院・通院する子どもが利用する場合は無料です。
今年5月から始まったプロジェクトには、パナソニックの社員がチームを組んで取り組みました。
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ファミリーハウス事務局長の植田洋子さんは、プロボノへの期待を次のように語りました。
「活動をしてきた23年の間に医療が進み、助からなかったお子さんの命が助かるようになりました。と同時に、室内に医療器具も持ち込めて、そこから病院へ通えるようなハウスのニーズを強く感じるようになってきました。社会と共に理想のハウスをつくり、これをビジュアル化するために、生活全般にわたる知識や技術をおもちのパナソニックさんに一緒に考えていただきたい。社会にとってファミリーハウスが本当に必要なのか、プロジェクトを通じて自分達の存在意義を問いたいとの想いがありました」
社会人になって忘れていた熱い気持ちが蘇った
続いて、プロボノワーカーとして参加したパナソニックチームの代表から、チームの紹介やプロジェクトの内容が紹介されました。
「プロボノにはマーケティングや人事など、幅広い職種から9人が参加しました。まずは分担して各ハウスを回り、現状を確認した上で、ハウスのオーナーやマネージャー、理事など23人にヒアリングを実施しました。夜遅くまで議論が白熱した中間報告を無事にまとめ、今は、熱い思いが結集した夢のハウスをイラストにしているところです」
そしてメンバーからは、参加のきっかけや感想などが発表されました。
初めてプロボノに参加した男性は、「仕事で得た力を社外で活かすことができるのか、試してみたいと思い、社内のホームページを見て参加しました」と動機を述べました。
また、今回が2度目の参加だという女性は「社会人になって忘れていた熱い気持ちがプロボノによって蘇り、自分自身も成長していくことができました」と感想を語りました。
ファミリーハウス事務局長の植田さんは、
「プロボノの皆さんからヒアリングを受けた方々が、社会には一緒に悩み、助けてくれる人がいるんだと心強く思ったり、団体のことをわかってもらおうと話すうちに自分の考えに改めて気づいたりすることで原点に立ち返り、活動へのモチベーションアップにもつながりました」と、プロボノの効果を実感していました。
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事例2:NPO法人 荒川クリーンエイド・フォーラム「ごみ拾いを企業の人事研修に」
対等な立場で切磋琢磨するNPOとプロボノワーカー
NPO法人 荒川グリーンエイド・フォーラムでは、東京都内を流れる荒川沿いの133会場で年間1万人以上が、ごみの種類や個数を調査しながらの清掃活動に取り組んでいます。
このごみ拾いを企業の人事研修としてプログラム化し、販売するアプローチを構築するために2012年、プロボノワーカーの力を借りました。
発表からは、「活動の中身を一番知っているのは私たちだから要望は言わせてほしい」と主張するNPO側に対し、「思いが強すぎるあまり、企業のニーズと乖離しているのではないか」とプロボノチームが応戦するなど、対等な立場に立ったやり取を重ねながら、研修資料がブラッシュアップされていった様子がうかがえました。
今春には、さっそく5社で、プログラムが新入社員研修に採用されたということです。
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事例3:千葉県工業高校コンソーシアム「工業高校と地域をつなぐ」
日本初!教育界にまで活動の場を広げたプロボノ
千葉県の工業高校では、教育界にプロボノを採り入れるという日本で初めての取り組みが今年6月から始まりました。千葉県内には、工業高校や工業学科のある高校が8校あります。そのイメージアップと学力向上を目指し、地域の企業や大学、行政などが一体となって「工業高校の応援団」ともいうべきコンソーシアムを結成。その立ち上げをプロボノが支援しました。
コンソーシアムの拠点となった千葉工業高校の校長先生は、「プロボノワーカーの皆さんは、分析能力やプレゼン能力が高い。雇用のミスマッチを防ぐためにも就職前のインターンシップが重要だとして、受け入れ側のメリットについても調べてくれました。社会に出て、日本のものづくりを支える子どもたちの心強い味方が増えた」と、プロボノを評価しました。
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3事例の発表の最後には、ゲストコメンテーターの兼松さんが事例発表を聞いての感想を述べました。
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「ここに立たれた皆さんの晴れ晴れとした表情が何よりの成果だと思います。P・F・ドラッカーが著書『非営利組織の経営』の中で『非営利機関の製品は変革された人間の人生そのものである』といったように、プロボノは参加したプロボノワーカーやNPOの方々の内面に大きな変化をもたらしたことが改めてわかりました」
第2部 分科会「3者の立場から見たプロボノ」
第2部の分科会では3つの部屋に分かれ、「プロボノワーカーに聞く」「NPOによる発表」「企業として取り組む」という、それぞれの視点から発表が行われました。
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NPOによる発表
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プロボノワーカーに聞く
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企業として取り組む
社会とつながるために、相手の言葉も理解する努力を
「NPOによる発表」では、事例を発表したNPOの代表が会場からの質問に答えました。
NPO法人ファミリーハウス事務局長の植田洋子さんは、「私たちは、ほぼプロボノで成り立っている団体。11施設も運営しているのに、事務局には常勤2人と非常勤2人しかいません。今回は、重い病気を抱える子どものニーズに応えられる理想のハウスづくりという1プロジェクトで完結する課題だったので、自分たちにないものを社会に求めるつもりで、プロボノにお願いしました」と、応募した経緯を振り返りました。
また、「プロボノに取り組む時間をどうやりくりしたか」との質問には、「私たちも時間がないが、企業の方も時間がないのは同じ。私たちは、それが必要なことかどうかをよく吟味して、本当に必要なことしかやりません。ただし、やるからには、どんなに時間がかかっても結果が出るまでやりきると決めています」と答えました。
さらに、「思いが強すぎて周りが見えなくなることはないか」との質問に対しては、「自分たちのミッションをわかってもらう努力はもちろん必要ですが、社会とつながるには相手の言葉も理解しなければなりません。外国語を習得するように、何カ国語もしゃべれるようになる努力をしています」と答えていました。
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「国際プロボノ週間」の日本初参加を飾る、記念すべきプロボノフォーラムは18時30分の開始から3時間で幕を閉じましたが、終了後も会場には、まだまだ話し足りない参加者の談笑する声があふれていました。
全員で記念撮影をしたあと、会場を移して設けられた交流会の席でも、それぞれがプロボノに抱いた思いをシェアすることで、この日の学びを深める様子がうかがえました。
パナソニックはこれからも、一企業の「プロボノ プログラム」の実施にとどまらず、プロボノの価値や魅力を広く社会に発信してまいります。
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