認定NPO法人 D×Pの組織基盤強化ストーリー

通信制・定時制高校の生徒に、“人とのつながり”と“働き、生きる場”を。
組織診断後、課題を明確化して新規事業を創出

通信制・定時制高校の高校生に「人とのつながり」と「働き、生きる場」を届ける活動を行う「認定NPO法人 D×P」。急成長を背景に職員が倍増した転換期に、組織診断を受けて課題を明確化したその取り組みを、理事長の今井紀明さんと入谷佐知さん(広報・ファンドレイジング部部長)に聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第337号(2018年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

断たれてしまった人とのつながりをつくる
通信・定時制高校向けの独自プログラム

かつては「勤労学生が通う学校」のイメージが強かった通信制高校と定時制高校。今では不登校経験や経済的困難、発達障害などさまざまな生きづらさを抱えた高校生が多く集まり、通信制高校の卒業生の約4割、定時制高校の卒業生の約3割は進学も就職もしないまま卒業していくという。
全日制高校の進路未決定率が5%であるのに対し、通信制・定時制高校では多くの高校生が進路未決定のまま社会に放り出されている現実がある。

この問題に衝撃を受けた今井紀明さんは、どんな境遇にある高校生でも自分の未来に希望が持てる社会にしたいと、2012年6月、仲間とともに「NPO法人 D×P」を設立。主に通信制・定時制高校の生徒を対象にした独自のプログラムを提供することで、高校生が人とのつながりをつくるための活動をスタートした。

D×P 理事長 今井 紀明さん

「通信制や定時制に通う生徒の多くは、周囲から否定されたり、さまざまな困難を抱えたりする中で何らかの挫折経験を持っています。そんな彼らを20歳にも満たない時点で社会が切り捨てていいのかというのが僕らの基本的な問題意識です。彼らが自分の未来に希望が持てないのは、さまざまな事情から人とのつながりを断たれてしまったから。そして、自分が働き生きていけると思える場が社会に少ないからだと思っています。D×Pではその“人とのつながり”と“働き、生きる場”の二つを届けることを主眼に活動しています」と今井さん。

メインプログラムの「クレッシェンド」では、多様な背景を持った社会人・大学生ボランティアとの対話を軸に、少人数かつ連続性のある授業(数ヵ月間で全4回以上)を実施。同じ高校生に同じ大人たちが回数を重ねてかかわることで少しずつ関係性を築き、対話を通じて自分の過去と未来を考えてもらう。通信制・定時制高校の正規授業(単位認定されるカリキュラム)として実施しているため、「ある程度、参加の強制力があり、しんどさを抱えた高校生にリーチしやすい」という。現在では大阪府内の4割以上の定時制高校と提携してプログラムを届けており、これまで受講した生徒の86%が進路を決めて卒業するなど成果も上がっている。

生徒たちと大学生や社会人が対話を重ねる
「クレッシェンド」

このほか、高校や地域のなかに居心地のよい場をつくる居場所事業「いごこちかふぇ」や、高校生の“何かやってみたい”という気持ちに応える「チャレンジプログラム」なども運営。クレッシェンドの授業で少し前を向けるようになった生徒が、好きなことに挑戦して“できた!”と思える機会を提供している。

受益者10倍、職員数倍増を機に
使命とビジョン、課題をクリアに

同様の支援は他に例がないこともあり、D×Pの活動は立ち上げから4年ほどで急成長。受益者数が当初の10倍となるなど事業規模が拡大し組織にも大きな変化が表れた。設立4年目となる2015年から2016年にかけて、共同代表の一人が退職する一方、職員数が10数人から20人体制へと一気に増えたのだ。この機を捉えて、団体としての成長を求めてPanasonic NPOサポート ファンドに応募。

経営ボードの一人だった入谷佐知さんは、当時の状況をこう振り返る。
「そもそも私たちは組織運営について知らないことが多く、3人の経営幹部が問題が起こる前に運営方針や理念を改めて共有する必要があると感じていたので、今が組織基盤強化の時だと思って応募したんです」。また、今井さんも「それまでは根性とやる気だけで運営してきたところがあり、創業期から成長期へと転換する今こそ、経営幹部がレベルアップせずして組織の成長なんてありえないと思いました」と話す。

D×P 入谷 佐知さん

助成が始まったのは2017年。まずは、以前から信頼を寄せていた岡本拓也さんをはじめとするソーシャルマネジメント合同会社のメンバーをコンサルタントに迎え、組織診断(キャパシティ・アセスメント)を実施。その結果、ミッションやビジョンが明確でないこと、戦略性が曖昧で新規事業の意思決定プロセスに不安が残るという点が課題として浮かび上がった。

「組織の状態が客観的にチェックできたのはもちろんですが、その結果を杓子定規に経営の型にはめていくのではなく、今のD×Pには何が重要で、どんな人間観と信念で経営の意思決定をしていくのか、戦略的かつ寄り添うかたちでアドバイスしてもらえたので、とてもおもしろく取り組めました。以前はやりたいことが多すぎて気持ちだけが先行しがちでしたが、限られたリソースの中でどこに何をどう配分すればよりインパクトが出せるのか、取り組むべき課題の優先順位もクリアになりました」

写真:D×P 理事長 今井 紀明さん

初の全体ミーティングを経て
「ライブエンジン」を立ち上げる。
3ヵ年計画の策定も

続いて、キャパシティ・アセスメントの結果を踏まえ、全体ミーティングを開催。正社員とインターンを含めた総勢20人以上が初めて一堂に会した。ここで診断結果と経営の方向性が語られると同時に、取り組むべき課題やその優先順位などについて全員の意見を出し合い、丸一日かけて議論が交わされた。そして、優先的に取り組む課題が抽出され、その一つとして2017年11月には、「働くこと」を通して生きる場をつくる新事業「ライブエンジン」が新たに立ち上げられた。

「この事業は、提携校に就労相談室を設けて高校生の進路相談から企業のマッチングまでをサポートするものですが、立ち上げて5ヵ月で定時制高校で就職率を18%引き上げるなどの効果がありました。組織診断を通じて優先順位を明確にして、新規採用した人材をしっかり配置できたことが大きかったと思います」

現在は、経営企画会議によるPDCAサイクルを回しながら、助成2年目の組織基盤強化として3ヵ年計画の策定に取り組んでいる。単年度ではなく、3ヵ年という中期計画の方が、より効果的に事業を行い、採用も戦略的に行えるとの手ごたえを感じているところだ。しかし、情勢変化の早さには苦労しているという。

写真:D×P 入谷 佐知さん(左)、理事長 今井 紀明さん(右)

「社会の変化が凄まじく早いため、前回決めたことを次の瞬間には変えないといけない場面もあります。でも信頼関係を築き、立案のプロセスにスタッフが納得感をもってかかわれば、その早い変化にも組織全体がスッと対応できるのではないかと思っています。計画を立てるのはもちろん重要ですが、それはあくまでも仮説。むしろ、そういう変化に対応しやすい生き物のような組織になれたらと思っています」

[団体プロフィール]認定NPO法人 D×P(ディーピー)
「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望が持てる社会をつくる」ことを目指して、12年6月に設立。通信制・定時制高校に特化した授業「クレッシェンド」を開発し、大阪府内の定時制高校の4割以上と提携、これまでに総計約1400名の高校生にプログラムを届けている。17年には定時制高校内で、居心地の良い場所をつくる「いごこちかふぇ」や、卒業後の働き、生きる場をつくる「ライブエンジン」をスタートさせた。