NPO法人かものはしプロジェクトの組織基盤強化ストーリー
2002年より、NPO法人かものはしプロジェクトはカンボジアで児童買春・人身売買の被害をなくそうと、子どもたちのパソコン教室の開催や貧しい農村の女性が働く民芸品工房の経営をしながら、犯罪を取り締まる警察の機能強化にも貢献してきた。その活動と財政や組織の基盤づくりについて、話を聞いた。[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第211号(2013年3月15日発行)掲載内容を再編集しました]
3人の大学生が出会い目指した「子どもが売られない世界」
かものはしプロジェクトは3人の学生によって立ち上げられた団体だ。 現在、共同代表を務める村田早耶香さんは大学2年の夏、大学の授業で児童買春の被害者の話を聞いたことをきっかけに、問題解決の必要性を訴える活動を続けていた。そこで出会ったのが、同じく共同代表の本木恵介さんと青木健太さんだった。
当時、大学生だった二人は起業を目指し打ち込めるテーマを探していた。意気投合した3人は、02年に「子どもが売られない世界をつくる」という目標を掲げ、かものはしプロジェクトを設立。
設立後すぐに、児童買春が深刻なカンボジアを調査した結果、「子どもが売られる背景には絶対的貧困があり、解決には雇用と結びつける必要があること」が見えてきた。そこで注目したのがITビジネスだった。日本でウェブ制作などを受注し、その利益を原資に孤児院で保護されている子どもたちのためのパソコンスクールを運営する。そして子どもたちが企業に就職できるスキルを身につけることを目標とした。
04年、首都プノンペンに、パソコン教室を構えた。ワード、エクセル、グラフィックデザインなどを学んだ120人の修了生の中からは、就職や留学へと進む子も現れた。 しかし1年、2年と続けるうちに、「ITビジネスの世界はスピードが速くて競争も激しい。将来にわたって安定した活動資金を確保するには、サポーターを増やす必要があることに気づいた」と、本木さんは話す。 「当時、月1000円の支援をしてくれる寄付会員の数は300~400人で、新たに会員となってくれる方は月10人程度でした。これを50~100人まで伸ばすには、世の中の人が何を求めているのかを知る“マーケティング的な発想”を身につける必要がありました」
かものはしプロジェクト共同代表
(副理事長)本木 恵介さん
財政基盤確立へ、 活動説明会で寄付会員増やす
そこで、かものはしプロジェクトは07年、「Panasonic NPOサポート ファンド」の助成を受け、組織基盤強化に取り組んだ。 「まずはビジネススクールのマーケティングコースに3ヵ月通い、基礎知識を身につけました。通ったのは2人でしたが、学んだ内容は団体内で共有し、グループディスカッションをしながら、実際のプロジェクトづくりに生かすことで、マーケティング的な発想を組織に定着させました」 また、アドバイザーから定期的に助言をもらいながら、同じ分野で活動する先輩NGOへのヒアリングも行った。
かものはしプロジェクト
日本事業統括ディレクター
山元 圭太さん
「ファンドレイジングの方法や会員の増やし方、会員登録後の事務的な手続きなどについて聞き、会員が増えた場合に備えて、受け入れ態勢を整えました」
これらの取り組みにより、新規の会員数は伸びたが、目標達成には及ばなかった。そこで認知度をさらに高めるために、月に1度の活動説明会を開くこととなった。
日本事業を統括する山元圭太さんによると、説明会は口コミやSNSで参加者を募っている。毎回、話の切り口を変えることで、どういった言葉を使えばどのような属性の人に理解を得られるのかを検証した。
たとえば、「子どもをもつお母さん層には、少女たちがいかにひどい状況に置かれているかを伝えると響く一方で、ソーシャルビジネスや社会貢献に関心をもつ30代のビジネスパーソンには、設立からの苦労や感動を伝えたほうが共感を得やすい」のだという。
今では、説明会に毎回40~50人が参加し、うち10人以上が新規で寄付会員になってくれるそうだ。
さらに08年には、映画『闇の子供たち』が公開されたことで、児童買春に対する関心は一気に高まった。その時には、月100人以上の新規入会があったが、受け入れ態勢を整えていたおかげで、混乱はなかった。 また、入会手続きや既存会員への情報提供などを迅速化するため、スタッフがその作業のノウハウを参照できる組織内のウェブサイトを立ち上げ、「手続きの流れや間違いやすいポイント、クレームへの対応法」などの情報を蓄積したことで、パートタイムのスタッフ2人でも十分に対応できるようになった。現在、既存会員の継続率は95パーセントを超えるという。
本木さんによれば、「サポーター事業が伸びたおかげで、安定した財政基盤が確立でき、現地の活動資金にあてられるようになった」という。
コミュニティファクトリー、 女性雇用の場 カンボジアの農村は内戦の影響で、家族が病気になれば子どもが出稼ぎに行かざるを得ないほど深刻な貧困状態にある。出稼ぎ先でだまされ、買春被害に遭う子どもも後を絶たないという。 そこで、08年、かものはしプロジェクトは活動の拠点を農村部へと移し、シェムリアップ州に民芸品をつくる「コミュニティファクトリー」を設立することにした。この地域でとりわけ貧しい家庭の女性に、いぐさ織りの雑貨をつくる雇用の場を提供するためだ。近くには世界遺産のアンコールワットがあり、完成した製品は観光客向けの土産店や直営店で販売している。
「日本でもウェブショップで購入できますが、生産者はカンボジアの市場で揉まれるほうが実力がつく。直営店では、ファクトリーで働いていた女性を販売員にすることで、お客さんの反応をダイレクトにファクトリーへ伝えるようにしています」と、本木さんは話す。いずれはカンボジア人による運営を目指しているそうだ。
このファクトリーでは、16~30歳くらいまでの約130人が朝7時から夕方5時まで働いている。貧困エリアに仕事をつくることで、子どもたちの出稼ぎは減った。
photo by Natsuki Yasuda / studio AFTERMODE
パナソニックは昨年3月、ソーラーランタン2000個をカンボジアで活動するNGOに寄贈する取り組みを行ったが、うち70個をかものはしプロジェクトに贈った。ファクトリーがある地域は電気が通っていないため、朝や夕方はミシンの縫い目が見えづらく、製品のクオリティー低下にもつながっていると聞いたからだ。ファクトリーでは昼休みの1時間を利用して識字教室も行われており、ランタンは自宅で復習する女性にも貸し出されている。
かものはしプロジェクトがカンボジアで活動を始めて10年が経ったが、その成果も少しずつ現れ始めている。「カンボジアには内務省が国際機関などと協力して進める『LEAP』という警察支援プロジェクトがある。児童買春のビジネスを取り締まる警察の力が強くなり、子どもの被害も減りつつあります」
パナソニックとの協力関係も続いている。本木さんはパナソニックの社員を対象とした新興国の社会課題を現地目線で学び、解決提案するワークショップ「BOP(※)課題解決ワークショップ」の第1回の講師を務めた。※BOP…所得別人口ピラミッドの底辺を構成する層。
これほど大きな課題解決に取り組むためには社会システムを変える必要があるが、そのためには他組織との連携は不可欠だと本木さんはいう。
12年から、児童買春がさらに深刻なインドでも活動を始めている。現在約2700人の寄付会員が活動を支え、1億円近い収入のうち、4千万~5千万円が個人の寄付である。
「子どもが売られない世界をつくる」ための道のりはまだまだ険しい。「今後は資金調達のレベルをもう一段階上げて、インドでの子どもたちの救出や政府、警察、弁護士との連携強化にも取り組んでいきたいと思います」
[団体プロフィール]NPO法人かものはしプロジェクト
「子どもが売られない世界をつくる」を目標に掲げ、02年に設立。04年NPO法人格取得。カンボジアにおける児童買春・人身売買の被害を防ぐために、警察支援、コミュニティファクトリーの経営、孤児院支援などに取り組む。現地の活動を促進させる資金調達のために、日本ではサポーター・寄付事業、人材育成支援事業などを行っている。12年からインドでの活動を開始。