認定NPO法人 スペースふうの組織基盤強化ストーリー
洗って何度でも使えるリユース食器を年間100万個貸し出し、77トンのCO2削減に貢献している「スペースふう」。
組織の課題である世代交代に挑戦しながら、東京オリンピックでの活用を目標に掲げるまでの苦悩と、その軌跡を聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第265号(2015年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]
「洗浄せずに返却できる」
サッカースタジアムへ導入、エコスタジアム化へ
スペースふう理事長の永井寛子さんによれば、活動の始まりは1999年。「山梨県増穂町(現・富士川町)の女性10人が、地域の活性化と女性の経済的自立を目的に開いたリサイクルショップ」が、スペースふうの原点だという。
転機が訪れたのは2002年のこと。永井さんがたまたま聞いた環境をテーマにした講演会で「リユース食器を使い、ごみを出さないドイツのイベントの事例」が紹介された。
「それまで、私たちはイベントで出たごみの山を見ては、どうにかならないものかとため息をついていたので、2003年からさっそくリユース食器のレンタル事業に乗り出しました。県内企業からの寄付金で食器の金型をつくり、専門家のアドバイスを受けて素材は環境や人体に影響のないポリプロピレンを採用しました」
イベントなどで使用したリユース食器は洗わずに返却し、スペースふうが洗浄・検品の一切を請け負うという利用者の利便性を考えた仕組みで、全国初の取り組みとあって、いざ始めてみると北海道や九州といった遠方の環境団体からも注文が来るようになった。
「トラックで遠くまで運んでいたのでは、かえって環境に悪いので、各地に拠点をつくって、そこに食器を安く提供し、それぞれ事業を行ってもらうことにしました」
現在、スペースふうを事務局とするネットワーク「リユース食器ふうネット」によって、洗浄施設と普及部隊合わせて全国14の拠点と連携している。
リユース食器は祭りや野外フェス、シンポジウム、学園祭など、さまざまな場で活躍している。なかでも、スペースふうが地元のJリーグチーム「ヴァンフォーレ甲府」と連携して2004年から取り組んできたのが「エコスタジアムプロジェクト」だ。
「ヴァンフォーレ甲府がホームとする山梨中銀スタジアムの売店にリユース食器を導入しました。そして毎試合、大型ビジョンには前回スタジアムで使われたリユース食器の個数と、使い捨て容器を使った場合と比べたCO2削減効果を杉の年間吸収量に換算して紹介しています。県内外の企業や地元の高校生が、リユース食器の貸し出しや回収をするエコボランティアに参加してくれていますし、サポーターのみなさんも、環境日本一のスタジアムに誇りをもってくれています」
ピラミッド型から3部署制へ。ゆるやかに世代交代
そんなスペースふうの組織内部に、実は課題が山積していることが明らかになったのは2012年。初めて新卒の女性を職員として迎えた翌年のことだった。彼女から「明確な指示系統がないので連絡の行き違いが多い。常勤理事を中心に事業が進んでいるので、理事に言われなければ何をすればよいのかわからないし、団体全体が今何をしているのかもわからない。60歳以上の理事たちがいなくなったあと、団体として存続していけるのか不安だ」と打ち明けられたのだ。
「新しいメンバーの視点が加わったことで気づかされましたが、それがなければ、そのまま行ってしまうところだった」と、永井さんは当時を振り返る。2008年に食器の貸し出し数はピークの100万個を超え、横ばいから右肩下がりに転じ、危機感を抱いていた時期でもあった。
そこで、スペースふうは2012年、NPOサポート ファンドの助成プログラムに応募。課題を抽出する組織診断を経て、組織基盤強化に取り組んだ。中心メンバーの一人となった長池伸子さんによれば、「立ち上げから支援してくれているスポンサー企業や同業の環境団体、地元自治体などにヒアリングを行い、私たちに期待する役割を明確にしたうえで優先課題を抽出した」。その結果、運営管理体制、中長期目標の設定、レンタル事業拡大の仕組みづくりが喫緊の課題であることが明らかになった。
「私たちの組織はもともと理事をトップとする大きなピラミッド型でしたが、コンサルタントのアドバイスのもと、業務に合った体制を考え、管理部、事業部、普及部の3部署制にしました」
各部署の部長には最初は常勤理事を据えたが、約半年後に若い世代へとバトンタッチ。
ところが、世代交代を急ピッチで進めすぎたせいで責任が重くのしかかり、休職してしまう人まで出てしまった。そのため、今は体制を見直しながら部長の役割を複数のスタッフとシェアしつつ若い人材を育成し、ゆるやかに世代交代を進めている。その結果、組織全体の関係性がはっきりし、コミュニケーションがうまく図れるようになってきたと長池さんは語る。
ごみのない環境オリンピック・パラリンピックを。“環境の町”地元から全国へ広める
「リユース食器を通して、循環型社会の実現を目指す」というのが、スペースふうの掲げるミッションだ。そのためには事業収入や寄付金などにおいて、どのような数値目標を達成していくべきか、2016年までのロードマップを描くなかで、もっと先を見据えた目標も生まれた。2020年の東京オリンピックだ。
「リユース食器が当たり前の社会をつくり、ごみのない環境オリンピックを実現させようと昨年、全国でリユース食器の普及を進めている4団体と推進に向けての動きが始まりました。また、環境省の『東京オリンピックへ向けた3R推進検討会』の委員に私が委嘱され、最初は夢みたいな話が単なる絵空事ではなくなってきました」と永井さんは言う。
レンタル事業拡大に向けての取り組みも進行中だ。スペースふうの拠点がある富士川町は地元でありながら、これまでレンタル食器が定着していなかった。
「リユース食器を広めるうえでネックとなっているのは、レンタル料金の負担です。環境にいいことはわかっていても、どうしても安価な使い捨て食器を選んでしまう。そこで町からのレンタル料半額補助に加え、スペースふうのサービス料金や地元事業所からの協賛金(一口5000円)により、町民が無料で利用できる仕組みを確立しました。すると、利用イベント数が6倍に増加し、祭りや町内会の集まりなど、あらゆる場面で使われるようになり、町ぐるみの取り組みとなりました」
協賛事業所には町から「環境にやさしい事業所」であることを示すステッカーが配布される。スペースふうと町は「環境のまち富士川」をアピールしながら、このモデルを山梨県ひいては全国へと広めていく方針だ。
「団体の進む方向性が一つにまとまったことで、スタッフ一人ひとりのなかに、自分がやるべきことを責任もってやろうという意識がはっきりと芽生えてきました」と、永井さんは組織基盤強化に取り組んできた3年間の変化を語る。
その変化は、定期的に行うようになった全体ミーティングにも表れている。もともと「子育てや介護をしながらでも空き時間に社会参加できる職場を」ということで始まったスペースふうだったが、洗浄や検品作業を手伝う地元の女性たちから「少しでもスキルを上げたい」「パソコンの操作を学んでみたい」といった声があがり始めたのだ。団体の目指す「女性の多様な働き方」が、さらに一歩進んだかたちで実現しつつあり、組織の新陳代謝を経て、みんなの思いが真っ直ぐに2020年に向かっている。
[団体プロフィール]認定NPO法人 スペースふう
1999年、山梨県増穂町の女性10人が集まり、リサイクルショップ「スペースふう」を共同出資のもと立ち上げる。2003年には現在のメインプロジェクト「リユース食器のレンタル事業」を本格稼働。大量消費・大量廃棄の生活スタイルを見直し、ごみを出さない、環境に配慮したエコイベントの開催を提案している。
ホームページ http://www.spacefuu.net/