6-2. アメリカ

発表した2週間後にはもう、幸之助は機上の人となっていた。1月25日、ニューヨークに無事到着。日本とあまりに違うアメリカは、強く幸之助の心を揺さぶった。人々の合理的で気さくな考え方、工場の規模の大きさや専門細分化による効率のよさ、街角や映画の中に見る人々の暮らしの、夢のような豊かさ。なによりスケールとスピードの違いが幸之助の心をとらえた。

ある日、1台の工作機械に興味を持った幸之助は、製造元の社長に話を聞きたいと思った。本社はカナダにある。国際電話が日常的に交わされる風景にも驚いたが、会話の中身を知って、幸之助は開いた口がふさがらなかった。

「社長さんに話を伺いたいのですが」「社長はいま出張中ですが、ビジネスの話なら現地から飛行機でそちらに向かいます」

次の日、実際に目の前に現れたその社長と握手を交わしながら、幸之助は事業スケールの大きさと、そのスケールに負けない機動性に感銘を受けていた。