7-3. 葛藤
幸之助はこう切り出した。事態に対する幸之助の漠然とした不安は的中していた。何と大半の販売会社・代理店が赤字に苦しんでいる。販売会社・代理店、ひいてはお店の努力不足なのではないか----。幸之助はそんな思いが抑えられず、出席者の発言に激しい反論をせずにはいられなかった。しかし松下に対する不満は思いのほか強かった。会場の声に耳を傾け、自らの意見を述べながら、幸之助は葛藤のなかにいた。激論は平行線をたどり、いつ終わるとも知れない様相を呈していた。会議は3日目に入り、誰もが結論は出ないのではと感じていた。
突如、頭を下げ、話を始めた幸之助に驚き、騒然としていた会場はしんとなった。幸之助はもう誰が悪いと言い合っているときではないと思った。誰の言い分にもそれなりに理があり、どこが悪いといっても始まらない。現状は分かった。この現状を突破するために、そしてお得意先のこれまでの信頼に応えるために、今は松下が頑張るときなのだ。葛藤は消え、一言ごとに、これまでのご愛顧に応えられていない現状への悔しさと、現状打破への決意をかみしめていた。思いは一筋の涙となり、非難で埋めつくされていた会場を団結に変えた。