■1963年 松下電器はカメさんです
松下幸之助がしばしば用いた寓話の一つに「ウサギとカメ」がある。1963(昭和38)年、幸之助はこれを企業広告にも援用した。幸之助は、ある研究会の機関誌で、この広告に触れ、「松下電器は先般、『松下電器はカメさんです』という広告を、全国の各新聞上に掲載した。ウサギの年にカメさんを持ち出すというのは、いささか皮肉かも知れないが、昨今の世情を思いつつ、永年の経営所信の一端をひれきしたのである」と紹介するとともに、「カメさんの如き着実な歩みというものは、松下電器という一企業だけでなく、産業界全般にわたって、さらに国家の運営全体について、きわめて大事なことではないか」と指摘した。そして、「カケ足では息が切れる。ハヤ足でもまだ息を切らす。やはりナミ足だ」と提唱するのだが、さて、当時の家電業界といえば、主要製品の普及が進みブームは一段落、ところが電機各社は依然カケ足を続けていた。それが市場を混乱させ、翌年の「熱海会談」につながるのである。