ジャパンハートは2004年に設立された日本発祥の国際医療NGOです。主に発展途上国や災害被災地での医療支援活動を行っています。医療活動を通じて「すべての人が生まれてきて良かったと思える世界を実現する」ことをビジョンとしています。その一環に、ミャンマーのヤンゴンに設立された児童養育施設「Dream Train」があります。この施設は、家庭の事情で親と離れて暮らさざるを得ない子供たちや孤児たちに、安全で安心な住環境と教育機会を提供することを目的としています。

一方、パナソニックは2013年に、世界の「無電化地域」に10万台のソーラーランタンを寄贈するプロジェクトを開始しました。ミャンマー各地にも届けられています。
ジャパンハートの那須田玲菜(なすだ れいな)さんに、Dream Trainの活動とソーラーランタンの利用状況をうかがいました。

那須田玲菜さん:2013年にジャパンハートに入職。2014年からインターンとしてミャンマーでの活動に参加。そのまま現在に至る。趣味はダンス。高校卒業後にアメリカ・ニューヨークへダンス留学。その後、国際協力の道を目指してジャパンハートに入職した。
写真は那須田さんとDream Trainに入所する子ども達。

塾のようにたくさん勉強ができる養育施設

貧困や紛争などで教育を受ける機会に恵まれない子どもたちが、ミャンマーには数多くいます。2010年に設立されたDream Trainは、貧困家庭の子どもや、親を亡くしたり、虐待を受けたりしてきた子どもたちを保護し、ヤンゴン市内の施設で安全な生活と教育を提供しています。

2014年からDream Trainの仕事に関わる那須田さんは、「課題を一歩一歩乗り越えていくうちに気がついたら10年経っていました」と語ります。

2011年に民主化を果たし、“アジアのラストフロンティア”と呼ばれたミャンマーですが、2021年2月に勃発したクーデター以降は、情勢が不安定となり、現在も厳しい社会状況が続いています。そんな環境下であっても那須田さんはこの地で続ける活動に、大きな使命を感じています。それがDream Trainです。

「今はいつ、どこで衝突があっても驚きません。それでも希望を失わず、日系のNGOだからできることがあるのではないかと、現地のスタッフたちと話し合い、励まし合っています」

Dream Trainでは現在、9歳から23歳まで、129人が暮らしています。彼らに対し、特に力を入れているのが教育です。

「Dream Trainは学校機関ではありません。子どもたちはこの施設から地域の公立・私立の学校に通学しています。そして学校から戻ってくると、この施設で英語や日本語、コンピュータなど、さまざまな科目を、職員やボランティアの教員から学ぶことができます。勉強だけでなく、水泳やヨガ、歌、ギター、ドラムなど、まさに部活動のようなスポーツや趣味のクラブもあります」

子ども達は高校卒業後、大学へ進学、もしくは就職に分かれますが、どちらでも、自立できるようになるまではDream Trainに留まることができます。

「先日、Dream Trainを卒業し、ヤンゴンの日本食レストランに就職した子が遊びに来ました。彼ははじめ仕事がつらくて、2週間ぐらいで辞めたいと思ったそうです。でも、ここで辞めてしまっては施設にいる弟や妹たちに良い手本になれない。同じ施設に住んでいた先輩として、弱音は見せず、一度決めたことはやり通す自分を見せたい、と思い直して辞めなかったんだと話してくれました。

うれしかったですね。あんなにやんちゃだった子が、社会に出るとこんなに変わるのかと。機会さえ与えれば、子どもたちはまっすぐに成長できるのです。彼のような体験者が、施設に残る子どもたちの希望になります」

「頑張れば頑張るほど、サポートしてくれる」

今回の取材で、施設にいる二人から話をうかがうことができました。答えてくれたのはこの春、大学を受験したヤパーさん(20歳)とミゲさん(19歳)です。

オンラインによるインタビューに答えてくれたヤパーさん(写真右)とミゲさん。

ヤパーさんの生まれ育った村では、近くに学校がなく、通うことができなかったそうです。しかし、ヤパーさんの勉強をしたい」という意志を、家族が汲んで、6歳で姉と二人でDream Trainに入所しました。

「Dream Trainに来た頃は、まだ小さかったから、さびしくてよく泣いていたけれど、スタッフの方が親切に対応してくださいました。次第に友だちもできました。みんなで励まし合って暮らせるようになりました」と、照れくさそうに話します。

Dream Trainでは、英語や日本語、コンピュータを熱心に勉強しました。

「何より、勉強できることがうれしかったです。私が頑張れば頑張るほど、みんながサポートしてくれるのです。今は大学に進学するつもりです。大学では経済学を学び、将来は企業経営者になりたい」と夢を語ります。

ミゲさんは家庭の経済的な理由と、育った村では小学校4年生までしか勉強できない環境だったことから、やはり「勉強したい」とDream Trainに入所しました。

「ここでは英語と日本語を学んでいます。先日、大学の入試試験を受けました」

大学受験前は夕食後に図書館で3時間、図書館が閉まる22時以降は自分の部屋で、0時まで猛勉強したそうです。将来の夢を尋ねると「通訳や翻訳の仕事に就きたい」と即答しました。

「自分が生まれ育った村では考えられなかったことが、Dream Trainではできている。自分の夢に向かっていけることがうれしい」
と語ります。

そんなヤパーさんとミゲさんの勉強を支えたのが、那須田さんらスタッフや教員たちです。子ども達が安心して生活し、将来を考え、その目標達成のために支援を続けています。

パナソニックのソーラーランタンもDream Trainとともに、支援を続けています。

ミャンマーではヤンゴンでも停電が常態化しています。パナソニックは2018年から、無電化地域にソーラーランタンを寄贈するプロジェクトを続けています。その数は10万個以上。
一部はDream Trainへも届けられ、今では受験生にはひとり1個、与えられているそうです。ヤパーさんとミゲさんは夜でも、ソーラーランタンの明かりを頼りに勉強したのです。

「明かり」があることは「安全」が確保されるということ

「2021年のクーデター以降、電気事情はさらに悪化しています。ヤンゴンが最も暑くなる4月、Dream Train周辺の地域では、日中、電気が使えるのは1〜2時間にすぎませんでした。Dream Trainはジェネレーターやソーラーパネルを備えていますが、今の電気インフラの状況では発電量が追いつきません。」と、那須田さんは話します。
明かりのない環境による、治安の悪化も深刻です。子どもたちが犯罪に巻き込まれるリスクも高まることになります。

「日没後、施設の外に出れば、周辺は真っ暗です。私たちにとって明かりがあるということは、安全を確保するということ。ソーラーランタンは毎日の必需品です」

夜、ランタンの明かりを頼りに勉強をする子ども達。
裁縫など、夜の作業には灯りが大きな支えになっています。

今年2月には、アジアでラグビーの普及活動をしている日本の「TEAM TOSS」のメンバーがDream Trainを訪ねてきてくれました。

「練習のあと、みんなでバーベキュー大会をしたのですが、ちょうど停電に。子どもたちがソーラーランタンを掲げて、その光の下でコーチと子どもたちが肉を焼きました。おかげでしっかり焼けておいしかったですよ」と、笑って話す那須田さん。

厳しい情勢が続く中、那須田さんは子どもたちに希望を持つことの大切さを強調します。

「目標設定講座を設けて、ひとりひとりが将来の夢を見つけるよう支援しています。そして、『夢に向けて頑張れば、私たちはどこまでも応援するよ』と伝えています」

最後に、Dream Trainが子どもたちを支援する理由を聞きました。

「私たちは子どもたちにこう伝えています。

“私たちがあなたたちを支援しているのは、あなたたちがかわいそうだからではありません。みんなが希望に満ちた存在だからです。あなたたちがミャンマーの「未来」であり、「希望」だから”と。

夢や希望を持つためには教育が欠かせません。私たちは、さらに教育の質を上げていくことを目指しています。子どもたちを私たちに預けてくださった家族から、Dream Trainにいかせてよかった、と心から思ってもらえるように。さらには、自分の子をDream Trainに預けたいと思ってもらえるくらいに。そうなって初めて、私たちの責任が果たせると思っています」

私たちが取材で話を聞いたお子さん達は、厳しい情勢下にいるとは思えないほど、終始笑顔が絶えることはありませんでした。そこに、那須田さんたち、Dream Trainの「寄り添う」力を感じました。
那須田さんは子ども達に夢を与えつつ、自身の夢の実現へ向けて、かけがえのない努力を続けているのです。

2023年、Dream Train出身の青年が、サッカーU25ヤンゴン地区大会に出場し、見事優勝を果たしました。試合後、彼がスタンドに向けて掲げたのはDream TrainのTシャツ。「自分の夢を叶える事をサポートしてくれたDream Trainへの感謝の気持ちがあふれ出ました。

私たちのソーラーランタンを寄贈するプロジェクトも今後も続けていきます。

子どもたちの夢を乗せて走るDream Train。暗闇の中でもソーラーランタンが、子ども達が進むべき道を照らす一助になることを願います。

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