パナソニックグループでは、あかりや電気がないことで貧困から抜け出せない無電化地域に“あかり”を届ける「無電化地域の未来を照らすプロジェクト~LIGHT UP THE FUTURE~」に取り組んでいます。
2022年、私たちはフィリピンのアンティポロ市の山村Calawis地区に、ソーラーランタン80台を寄贈しました。 寄贈から2年。今回この村で、現地の方々と直接対話する機会を得ました。2年前に寄贈したランタンは果たして現地の皆さんの生活向上のために役立っているのだろうか、寄贈によって生活に変化が生まれたのか、そして住民の皆さんの想いに応えることができているのか——。その後の姿に迫りました。
フィリピンの高原に位置する無電化地域
アンティポロ市はマニラから北西部・車で約2時間。シエラ・マードレ山脈の中腹に位置し、地域の約半分は標高200mの高原。市の中心部は比較的標高が低く、大聖堂や教会が多く点在します。アンティポロ市は古くから巡礼の地として知られ、現在も大聖堂を訪れるカトリック信者は絶えないとのこと。教会の前を通ると多くの人々が集っているのが見えました。
私は“大きな街”という印象がありましたが、街の中心部からさらに山の中腹に向かって1時間ほど進むと、情景は一変しました。舗装路はいつの間にか土と石の道に。さらに前日に降った雨の影響で道路はぬかるんでいました。
私たちを乗せた車はガタガタと大きく揺れながら、悪路を走ります。
もし大雨が降り続けたら、無電化地域は孤立し、電気がないうえにさらに食料や水、いのちのライフラインが脅かされてしまうのでは——。そんなことを思いながら、進みます。
そんな道中で、一同の目前に、2年前にはなかったある光景が現れました。それは、深い森を貫き、建っていた大きな“鉄塔”です。
「もしや無電化地域一帯に、電気が通るようになった? 無電化は解消?」
そんな期待に胸が膨らみましたが、後に住民から、「鉄塔はおそらく都市部のためのもの。残念ながら村に電気は来ていない」、と聞きました。電気のある地域とない地域。都市と村の格差を感じました。
Calawis地区で出会う、はにかんだ笑顔たち
出発から約3時間、ようやく目的地のCalawis地区に到着しました。私たちのLIGHT UP THE FUTUREは、主にNPOやNGO、そして国連組織などとパートナーシップを組んで現地を支援することが多いですが、フィリピンにおいては今回のように、主に教会が現地支援の役を担ってくれます。
私たちがインタビューの準備をしていると、小学校の低学年と思われる子どもから幼児の数人が遊びながら私たちの横を通り過ぎていきます。現地社員が声をかけると、子どもたちは恥ずかしそうに、無関心を装って歩いて過ぎていきます。私にもちょうど同い年くらいの子どもがいるので、“気になるけどなんとなく恥ずかしい? その気持ち、よくわかるよ!“とつい母親目線で見て、顔がほころんでしまいました。国や環境は違えど、子どもは可愛い!
ランタンが照らす、家族の希望
私たちは複数班に分かれ、数軒の家を訪問させていただきました。
私がお話を伺ったのは、夫、妻(以下Mariaさん)、娘のSophiaちゃん(6歳)、息子のRoyくん(4歳)の家族です。
私たちが顔を見せると、Mariaさんは軒先にかけていたランタンをはずし、手に抱えて見せてくれました。この2年間かなり使い込んだ様子で、ランタンの表面には大小さまざまな傷がついていました。
「何度か落としてしまったり、ぶつけてしまったりしたけれど、それでも壊れない。とても丈夫でありがたい」
と、Mariaさんは笑顔を浮かべながら、ギュッと胸に抱えました。
Mariaさんたち家族は、どのようにランタンを生活に取り入れているのでしょうか。
「これまで村の夜は真っ暗が当たり前でした。すべての家事も昼間のうちに終わらせなければいけないし、子どもたちも夜は遊びも勉強もできませんでした。
ランタンがある今では子どもたちは、夜に勉強できるようになり、娘が勉強している姿にあこがれ、息子も一緒に勉強をするようになりました。2人とも同じ時期に勉強を始めたので、姉弟そろって、同じ内容を学んでいるんですよ。」
「夜に勉強ができるようになったことで、学校で”Academic Excellence”( 優秀な児童に与えられる称号)をもらうことができました」「ランタンがあることで、子どもたちの環境は大きく変わりました。なにより、子どもたちが大学にいく夢を描けるようになったこと、将来に希望が持てるようになったことはとても大きいです」
そう話すMariaさんも、ある夢が湧いてきたと言います。Mariaさんもキリスト教徒。これまで教会で聖書を読むことは昼間しかできませんでした。それがランタンによって、夜でも、自分の好きな時に聖書を読むことができるようになり、彼女の“好奇心”に火が付いたそうです。
「私もいつか、学校に戻りたい。学び直したいと思っています。それは子どもたちが巣立ったあと、もう少し先の話しになるかも知れませんが、私自身も希望を感じられるようになったことはとても嬉しい。
将来、村の周囲もどんどん開発され、この村から住民が追いやられる事になるかもしれません。そうなったとき、私たちを助けてくれるのは、第一に教育だと信じています。教育を受けていれば、教育のおかげで知識と技術を身につけていれば、きっとどこに行っても大丈夫。だから子どもたちと一緒に頑張って学んでいきたい」
そう話すMariaさんの表情はとても柔らかく、しかしはっきりとした言葉で伝えてくれました。
健康と収入について考えるきっかけとなったランタン
ランタンは家族の生活スタイルにも大きな変化をもたらしました。
一家にランタンが届く以前は、灯油ランプのあかりが頼りでした。しかし一晩、ランプに火を灯すだけでかかる費用は20ペソ(約55円)。Mariaさん一家にとってはかなりの負担となっていました。しかも室内はススなどで空気も汚れてしまい、子どもたちの健康も考えると、日常的に使えるものではなかったと言います。
「ランタンなら、燃料の節約になります。そして空気も汚れない。家族の健康を守れることも大きな喜びでした」
Mariaさんは田畑を持ち、そこで収穫した米や野菜を、一家の食料に当てています。田畑は、村から徒歩で片道3時間の所にあります。昼間の明るいうちにすべての家事や育児に加え、農作業もこなすには日々時間が足らず、日没後の帰宅道は真っ暗になり、危険も伴います。必然と農作業の稼働日は限られ、厳しい生活を抜け出すことはなかなか難しい状況だったと言います。
「ランタンのおかげで、日が暮れても夜道を照らすことができるようになりました。農作業にも時間を費やせるようになり、収穫量も増えました。おかげで家族分の食料のみならず、翌朝市場で売り、収入も得られるようになりました。大金とまではいきませんが、以前に比べれば、充分な収入に、今では安心しています」と、Mariaさん。
作物を売ることで得られるようになった収入は、1か月で約2000ペソ(約5300円)。フィリピン貧困層の平均月収が16,000円と言われていることを考えると、大きな額に感じます。
ランタンは、住民の皆さんの想いや期待に応えられているのか?
私たちパナソニックは、無電化地域にランタンを届け、その地域の人々の「教育・健康・収入向上」に少しでも役立ちたいという想いをもって活動を続けています。
ランタンは片手で持てるくらいの小さなモノ。ネオンのように街中を明るく照らすようなことはできないかもしれません。
しかし、あかりを心から欲している人たちの足元や手元を、進む道を照らし続けていきたい。
私たちはさまざまな地域に届けたひとつひとつのランタンを、誠意をもって見届けていきたいと思っています。
今回Mariaさんが「自分もいつか、子どもたちが巣立ったあとで学校に戻りたい。また学び直したい」と話されたこと、そしてそのキッカケがランタンであったこと。ランタンが少しばかり、無電化地域に住む皆さんの内なる思いを引き出すことができたのかもしれません。この取材を通じ、私自身鼓舞され、そして終始とても温かい気持ちになりました。
Mariaさん一家と、私たちを受け入れてくださったCalawis地区の皆様、現地会社のPanasonic Manufacturing Philippines Corporation の皆さんに改めて感謝を申し上げ、ランタンがこれからも、可能性に満ちた明るい未来を照らし続けられるよう活動していきたいと思います。