環境分野 選考委員長総評

環境分野選考委員長
木村真樹

Panasonic NPOサポートファンド(環境分野)の2016年選考委員長を務めました木村真樹と申します。私自身、過去に本ファンドの助成を受けて鍛えていただき、2011年からは恩返しも兼ねて選考委員を務めてきました。今年は選考委員長として、選考のプロセスと、応募用紙を拝見して「こうなったらいいな!」と感じたことをお伝えしたいと思います。

2016年の選考プロセス

2016年は5月中旬~7月上旬に組織基盤強化ワークショップ&公募説明会を、東京・兵庫・岩手・北海道・宮崎・愛媛で開催しました。その後、7月14日に応募受付を開始し、29日の〆切までに新規助成に16団体(うち1団体は応募要件を満たさず、うち2団体は事業助成の内容だったため、選考対象から除外)、継続助成2年目に8団体(うち2団体は2014年募集に助成し、2015年募集の継続応募で不採択だった団体のリベンジ応募)、継続助成3年目に2団体(ともに2014年募集、2015年募集に連続で応募し、助成を受けている団体)の計26団体の応募がありました。

8月下旬に開催した選考委員会では協議の結果、事務局による面談でのヒアリング対象として8団体(うち継続助成は3団体)、電話やメールでの確認対象として4団体(すべて継続助成)に絞りました。
その後、10月上旬までに12団体(うち1団体がこの間に応募を辞退)へのヒアリングと確認を終了し、報告書を選考委員に送付。各選考委員からの最終評価を踏まえ、11月上旬に選考委員長による決裁会議で助成内定先として8団体を選定しました。
本ファンドのユニークな(助成先にとっては大変な)取り組みのひとつは、助成内定先に内定条件を付すことが挙げられます。ほとんどの内定先が選考委員会からのフィードバックを受け、事業計画書をブラッシュアップし、2017年から始める事業に備えていただいています。

応募用紙を拝見して「こうなったらいいな!」と感じたこと

「結果」だけでなく「成果」も共有する 【応募用紙:1.活動状況 a)活動実績 等】

参加人数や実施期間などの「結果(アウトプット)」のみを記載しがちですが、活動によって対象者にどのような変化があったかという「成果(アウトカム)」や、地域や社会にどのような影響を与えたのか「社会への影響(インパクト)」も共有することで、団体の目指す方向性が明らかになります。

「自団体」ではなく「当事者」を中心に組織図を描く 【応募用紙:1.活動状況 b)組織体制について】

NPOが解決に挑む社会問題は複雑です。すぐに解決できないものも多く、自団体だけ解決することは困難です。だからこそ組織図も問題の当事者を中心に置き、他の組織と連携して解決に挑んでいる図を示した方が、共感を集めやすいのではないでしょうか。

問題や原因の説明に「数字」も加える 【応募用紙:2.中期的な成果目標と組織の姿 a)取り組む環境問題の現状と背景について】

選考委員はすべての社会問題の専門家ではありません。選考委員を説得するためには当事者の声を代弁するなど、問題の深刻さ、解決の緊急性や重要性、既存の解決策の不十分さ等を説明する必要があります。その際、当事者の数等、“問題を知らない人との共通言語”として「数字」も示すことができると、説得力が増すと思います。

成果は「3~5年後」の「地域や社会」を示す 【応募用紙:2.中期的な成果目標と組織の姿 b)3~5年後の中期的な成果目標について】

「3~5年後の目標」を訊いているのに「最終目標」が書いてあったり、「地域や社会」にもたらす成果を訊いているのに「自団体」の成果になっている応募用紙をよく見かけます。自団体の果たす役割(ミッション)だけでなく、地域や社会の3~5年後のありたい姿(ビジョン)も描きましょう。

「解決策ありき」ではなく「真因」を探る 【応募用紙:3.課題分析】

選考委員も応募用紙を何団体も読んでいると、「この団体はやりたい解決策ありきで課題を記載しているな…」と感じることがあります。本来は課題が最速で解決すれば、手段である解決策は問わないはずです。課題が生じている原因を何度も探り、真因を突き止めましょう。

成果指標を設定し、測定する手段も記載する 【応募用紙:4.助成事業の内容】

成果目標を設定するためには、(1)項目(何を成果とするか?)(2)測定方法(その成果をどう測るのか?)(3)量(どれだけ成果を生み出すか?)の3つを考えることが重要です。営利企業であれば成果は「利益」かもしれませんが、NPOは団体自らが想いを込めて、成果を定義する必要があります。

人件費の算出根拠を詳細に説明する 【応募用紙:7.助成事業の予算書】

他の助成プログラムだとNGになりがちな「人件費」等も助成対象経費として充当できる点も、組織基盤強化にこだわる本ファンドならではかもしれません。ただし、助成事業終了後も見据え、その必要性や継続性が必ず問われます。全事業のうち助成事業がどれだけの割合を占めるのか、算出根拠を明確にしましょう。

以上、簡単ではありますが、応募いただきましたすべての団体の成長を心から願い、できる限りのフィードバックを書かせていただきました。
本ファンドの特徴のひとつは、助成先が選定するNPO支援機関やNPO経営支援の専門家など、第三者に伴走してもらいながら助成事業に取り組むことです。第三者の視点が加わることで、視野やアイデアが広がります。応募用紙を作成するプロセスでも、第三者の多様で客観的な視点を積極的に取り入れ、組織課題を正しく把握することから始めましょう。

<選考委員>

★選考委員長

木村 真樹

公益財団法人 あいちコミュニティ財団 代表理事
コミュニティ・ユース・バンクmomo 代表理事

粉川 一郎

武蔵大学 社会学部 メディア社会学科 教授

山崎 宏

特定非営利活動法人 ホールアース研究所 代表理事

本池 祥子

パナソニック 品質・環境本部 環境経営推進部 環境渉外室 主務