子ども分野選考委員長
森本真也子

応募状況と選考

2016度の子ども分野は応募総数が59件ありました。その内、新規助成は47件、継続助成2年目が6件、同3年目が6件でした。新規助成は毎年50件近くの応募があります。それだけNPOが年月を重ねていく中で、組織基盤を強化していくことの大切さが浸透してきているのかもしれません。

先ず、助成事務局による予備選考では、団体要件と事業要件のチェックが行われ、新規助成は33件が審査を通過しました。継続助成は1年目に既に要件をクリアしているため、予備選考は実施しませんでした。この結果、新規助成の33件、継続助成2年目の6件、同3年目の6件、計45件が本選考に進みました。

続いて、選考委員5名による本選考が行われました。選考委員が昨年より1名増え、また交代が1名あったため、選考委員5名の内2名が新任という布陣で選考に臨みました。予備選考を通過した45件について、すべての応募書類を各選考委員が目を通し、書類審査を行った上で、10月13日に選考委員会を開催して、各委員が持ち寄った推薦案件について5時間かけて審議を行いました。
それぞれの委員の考え方の背景まで十分理解するには時間が足りませんでしたが、より有意義な助成をしていきたいという熱意のこもる話し合いが行われました。委員の意見がなかなか一致しない案件もありましたので、新規助成では助成候補5件に補欠2件も加えた形で選出しました。その後事務局による団体ヒアリングを経て、選考委員長の決裁で5件・760万円を新規助成の対象として決定しました。また、継続助成は選考委員会で4件・740万円を対象として決定しました。採択された案件の推薦理由は別途掲載していますのでご一読いただければ幸いです。
以下、選考を通して感じたことを述べさせていただきたいと思います。

NPO同士の交流と学び

数年続けて選考に関わらせていただき、同じ社会課題に取り組む団体同士の交流や学びが少ないのではと気になっていました。利潤の追求を重視する企業であれば、情報を守秘する必要はあるかと思いますが、共通の社会課題を解決するために存在するNPOならば、共同研究や議論がもっと起こって良いのではないかと思います。
先駆的な団体に学ぶ、新しい手法を取り入れた若い団体に学ぶ、社会課題の解決に向けたより有意義な方策が取れるように団体同士が連携することがこれからは大切です。今回、継続助成ではNPO同士が互いの経験を元に協働して組織基盤強化に取り組む案件を初めて採択しました。今後、こうした取り組みが増えることを願います。

組織基盤とは何か

選考に携わらせていただき5年が過ぎました。当初より「NPOの組織基盤強化とは何か?」という問いが頭の中を巡り続けています。
私がこの間、「組織基盤の強化」を考える上で基軸としてきたものは、任意のボランティア団体として思い溢れる活動に取り組んできた手法を、法人組織のシステムとして構築し、組織をマネジメントする力を身に付けること、また、人材育成と財政基盤を構築し強化していくことでした。ソーシャルビジネスという言葉が広がっているように、多くのNPOがアマチュアリズムを克服する手法を取り入れるようになり、組織基盤強化の必要性とその手法が定着してきたと実感します。

一方で、事業や組織運営の拠り所であるNPOの「ミッション」に関しては、年々課題が広がっているように思えます。
市民の目線で人々の生活や暮らしの中にある社会課題を捉え、解決していけるように動くことがNPOのミッションです。多くのNPOが目の前にいる子どもたちと向き合い、一つ一つの事業を丁寧に作り上げることに追われていますが、その根底には「社会変革」があることを忘れてはならないと思います。NPOの事業や組織を拡大し、強くしていくことが社会的な使命ではありません。
NPOは何故、何のために、どんな事業に取り組むのか、そのことを通じてどんな社会を作っていきたいのか。その道筋を忘れてはなりませんし、自分たちのNPOが社会のどの部分で変革できるストーリーを持っているかが問われます。
不登校、学習支援、経済格差などの個別の課題解決のためというミッションを持って活動する団体が、その対象とする人たちの支援を通して、どのような地域であったらいいのか、どんな社会であったらいいのかを明快に描けずに活動しては、NPOとしての社会的使命は果たせないように思います。

NPO法が成立して20年近くになろうとしています。苦手だったペーパーワークを克服しているNPOは増えましたが、社会(生活・くらし・日常・地域)との関わりという部分が薄れた感を持つのは私だけでしょうか。市民社会の構築は、人権小国と言われる日本にとって、必須の課題です。それぞれの団体の歩みは、そこに向かう大きな流れを作ることにあります。このことをしっかりと見据えながら活動して行くための組織基盤強化が最も大切であるように思います。

子どもの課題は、社会の課題

子どもの課題に向き合うことで、必ず見えてくるのが背景にいる大人の問題です。ここでいう大人の問題とは親や家庭の問題ではありません。子どもが生活する地域の問題として捉えるということです。様々な具体的課題への対応の基本に、個々への支援と同時に人と人をつなぐ支援、家族だけに問題の解決を委ねさせない支援という考え方を入れていくことが求められているように思います。
「子どもにやさしいまち」は「すべての人にやさしいまち」になります。子どもが豊かに育つまちづくりが、地域コミュニティ再生へのストーリーにつながっていくことを願ってやみません。

<選考委員>

★選考委員長

森本 真也子

特定非営利活動法人 子ども劇場東京都協議会 常任理事
特定非営利活動法人 子ども文化地域コーディネーター協会 専務理事 ★

関  尚士

公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会 理事・事務局長

中村 国生

特定非営利活動法人 東京シューレ 事務局長

林  大介

東洋大学 社会学部 社会福祉学科 助教

福田 里香

パナソニック株式会社 ブランドコミュニケーション本部 CSR・社会文化部 部長