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2015年1月22日、パナソニックセンター東京にて、Panasonic NPOサポート ファンドの贈呈式と組織基盤強化フォーラムを開催しました。フォーラムには、組織診断・組織基盤強化に関心をもつNPOをはじめ、行政や企業の関係者など約110人が参加しました。
贈呈式では、環境・子ども・アフリカ分野それぞれの選考委員長による選考総評に引き続き、2015年の助成が決まった環境分野9団体、子ども分野9団体、アフリカ分野6団体の計24団体に助成通知書が贈呈されました。
続いて2014年に助成を受け今年も継続して組織基盤強化に取り組む、はちのへ未来ネット代表理事の平間恵美さんが、組織診断の取り組みと団体にもたらされた変化について発表しました。
式の終わりには、日本NPOセンター常務理事の田尻佳史さんから、これから組織基盤強化に取り組む24団体に向けて、激励メッセージが贈られました。
「この活動があるから住んでいてよかったね」 そう思える地域をつくる
日本NPOセンター
田尻佳史さん
「現在、NPOサポート ファンドが行っているNPO/NGOの組織基盤強化は2001年に始まって以来、たくさんの経験値が蓄積されてきたプログラムです。各分野で活動する審査員が社会の変化を見据えながら審査を行い、組織基盤強化の取り組みにも第三者が寄り添う、魂のこもったプログラムなのです。
日本は今、大きな変化の時を迎えています。グローバル化とローカル化、その双方に課題があり、NPOの活躍が期待されている。『こんな活動があるから、この地域に住んでいてよかったね』と、一人でも多くの方が思えるような社会を一緒につくっていきましょう」
続く組織基盤強化フォーラムでは、聞き手に田尻さんを迎え、本音に迫るディスカッションを交えながら、3人のゲストが組織診断に取り組む側、診断を行う側、それぞれの立場から具体的な事例を発表しました。
カリスマ的意思決定型から組織的役割分担型へ 組織の変化が“とがったアイディア”を生む
まずは、富士山のふもとで自然体験活動を続けているホールアース研究所代表理事の山崎宏さんが、組織の課題をどうつかみ、解決に向けてどう動いたか、自らの経験を語りました。
「応募のきっかけは、1982年の設立以来、どんどん仕事をつくって組織を伸ばしてくれたカリスマ創設者の卒業宣言でした。羅針盤を失った私たちは、たった一文のミッションを三十数人がかりで2年かけて明文化。やっと取り戻した羅針盤通り組織を進めるために、組織基盤強化に応募しました。
外部のコンサルタントがペースメーカーとなり、コンサルティングを行った結果、強みと課題、その優先順位が浮き彫りになりました。その途中経過を組織内で共有したおかげで、全スタッフに経営の視点が芽生えました。
絶対的なカリスマが意思決定する大きな三角形から、事業ごとに小さな三角形をつくり、横の連携を強めた“組織的役割分担型”へと組織が変化した結果、ハンティングした鹿肉を売って里山創生に役立てるといった、とがった新規事業のアイディアも次々と出てくるようになりました」
ホールアース研究所
山崎 宏さん
組織診断に必要なのは行間を読む力 人材育成と信頼の構築が課題
杜の伝言板ゆるる
大久保朝江さん
組織診断を行う立場からは、宮城県を中心にNPOの組織基盤強化を支援している杜の伝言板ゆるる代表理事の大久保朝江さんが、組織診断を地域で実践するときの心構えや苦労などを発表しました。
「組織診断とは組織の問題をあぶり出し、優先順位をつけ、解決法を皆で決めていく作業です。これまで福祉系のNPO法人2団体を診断して気づいたのは、組織がどこを目指すのか確認する作業の重要性でした。組織の人間がどのように関わり、自分たちの思いを外部へと発信し、それを継承していけるのか。事業内容のコンサルティングを行うだけでは済まない現状が見えてきました。
これからの中間支援組織は、NPOの組織運営に対しても寄り添ったサポートができなければ、存在意義は薄れていくでしょう。しかし組織診断は、行間を読むだけの経験が必要とされる作業。現場に入って実際の運営を見ながら、NPOをサポートしていける人材を育成していかなければなりません。と同時に、相手の懐をすべて見せてもらうわけですから、信頼関係をしっかり構築していくことも、もちろん忘れてはいけません」
ホワイトリストを構築し、寄付市場を広げる 全国初の社会的認証システム
最後に、京都を中心に非営利組織の評価・研究活動を行っている社会的認証開発推進機構 専務理事・事務局長の平尾剛之さんが、全国で初めて確立した社会的認証システムについて、ご紹介くださいました。
「社会的認証とは行政のお墨付きではなく、世間が何を求めているかという観点から行う認証のことです。どこかに寄付したいという企業が現れたときに、ここなら大丈夫といえるホワイトリストを構築しておくことで、寄付市場を拡大しようというのが狙いです。
WEB診断ツールを使って35項目についてイエス・ノーで答えていただき、組織の健康状状態を5段階で評価したり、評価基準50項目に対する自己評価と自己評価の結果に対して、最終的には第三者が訪問調査に行き、評価項目をチェックして審査会にかけ、認証を行うというシステムを運用しています。
評価・診断の結果、たくさんの課題が見えてきたら、3つの箱を用意します。見なかったことにして蓋をする箱、そのまま放置しておく箱、解決する箱。3つ目の箱に入れた課題については解決に向けて組織的意思決定を行ってもらいます。すると、その組織の意思決定のプロセスが見えてくる。これを、その団体に最も適した意思決定の仕方へと導くわけです。診断結果を組織として1つの答えにしていく。このプロセスの中には、実は組織基盤強化の要素も含まれているのです」
社会的認証開発推進機構
平尾剛之さん
3人の発表を踏まえ、会場では参加者全員が10人ずつのグループに分かれ、自己紹介や感想、登壇者への質問などを話し合うフロアディスカッションの時間が設けられました。会場からは「第三者の介入から卒業後も成長し続けるには?」「組織の中で共通認識をもつことが、いかに大切か考えさせられた」といった質問や感想が出され、全体で、この日の学びや知恵を共有することができました。
調査結果からも、効果が明らかに
NPOの組織診断・組織基盤強化が「ミッション実現への近道」であることは、データによっても実証されています。パブリックリソース財団では、2012年にNPOサポート ファンドの助成を受けた26団体を対象とする調査を実施。その結果を、チーフ・プログラムオフィサーの田口由紀絵さんが発表しました。
データからは、組織診断を行った15団体のうち、14団体(93.3%)が「組織診断の取り組み自体が組織基盤強化に役立った」と回答しており、組織診断のプロセス自体が組織基盤強化につながることが分かりました。また、「助成先全体で80パーセント以上の団体」が「組織運営上の課題が80~120パーセント程度解決した」と回答するなど、驚きの成果が読み取れます。
最後に、日本NPOセンター常務理事の今田克司さんから、NPOに託された役割や、組織を診断し、組織基盤を強化することの意義を改めて考えさせられる力強いメッセージが贈られました。
一人ひとりを活かすNPOのマネジメント 時代のフロントランナーとしての気概をもって
日本NPOセンター
今田克司さん
「健康診断をして初めて健康状態がわかるように、組織もまた診断なくして強化はあり得ません。NPOを支援する側にいる方々、ぜひ活動だけでなく組織の強化もセットで考えてみてください。活動に関わる人それぞれの思いがあるからこそ、NPOのマネジメントはとても難しい。しかしながら、“組織が一人ひとりを活かす”というのは時代が求める新しい働き方でもあります。それができる団体は時代のフロントランナーだという気概をもって、皆さん、組織運営に取り組んでください。」
フォーラムの最後に開かれた懇親会で、何人かの方に感想をうかがいました。
子ども分野で今年2年目の継続助成が決まった、みやぎ発達障害サポートネット代表理事の相馬潤子さんは、「発達障害のある子どもや家族のサポートを行ってきましたが、東日本大震災の後、中心になって団体を引っ張ってきたツートップが抜けてしまい、カリスマ創設者が抜けたホールアースさんの話にとても共感がもてました」と感想を述べました。
そして事務局の渡邉桂子さんは、「昨年、団体の課題を抽出したことで、ようやく羅針盤を手にできた。今年は、これを持って航海に出ます。不安もあったが、今日の皆さんの話を聞き、悩んでいることはどこも同じなのだと勇気をもらいました」と決意を語りました。
相馬潤子さん 渡邉桂子さん
小倉加代子さん 徳岡隆夫さん
また、環境分野で助成が決まった自然再生センター理事長の徳岡隆夫さんは、「山陰の中海の環境保全に取り組んで8年が経ち、これまでは自然科学の研究中心でやってきましたが、活動を支える組織基盤を10年の節目までに整えたいとの思いから助成に臨みました」といいます。
そして事務局長の小倉加代子さんは、「こちらが聞きたいと思う具体的事例が、いろいろな立場の方から語られ、とても濃い内容でした。審査員のお顔も拝見でき、距離が縮まった気がします」と、この日の感想を話しました。
この日は、北は北海道より南は鹿児島県まで、NPOの組織基盤強化に関心のある方が集まり、組織診断、組織基盤強化をテーマに学びを深めました。