2016年1月21日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京において、Panasonic NPOサポートファンドの贈呈式と組織基盤強化フォーラムを開催しました。
その後は、前年度に初めて助成を受け、今年も引き続き組織基盤強化に取り組む認定NPO法人自然再生センター理事・事務局長の小倉加代子さんが、1年目の取り組みと、それによりもたらされた変化、さらに2年目へ向けての抱負などを報告。
【組織基盤強化に取り組むことで覚悟も成長もできる】
私たちは中海・宍道湖を豊かで遊べる環境にするため様々な活動を行っています。助成1年目の昨年は、組織診断と中期目標の策定を中心に目指す未来に向けた体制作りに取り組みました。まず、外部の専門家に組織診断を依頼したところ、理事会の運営方法の改善や資金調達、広報にも注力する必要がある点などの指摘がありました。この1年議論を重ねながら、周りを巻き込んで改革を進めました。組織基盤強化を1年間続けるなかで、覚悟が芽生え、成長を実感しています。
贈呈式は日本NPOセンター常務理事の田尻佳史さんによる、本年度の助成25団体への激励メッセージで閉幕しました。
第2部 組織基盤強化フォーラム
「NPO/NGOの組織基盤強化と社会的インパクトを考える」
続いて開催された組織基盤強化フォーラムには、組織診断・基盤強化に関心を持つNPO、NGO、企業、自治体関係者など、約100人が参加しました。
パナソニック株式会社 CSR・社会文化部 部長の福田里香による開会の挨拶に続いて、本フォーラムのテーマでもある「組織基盤強化と社会的インパクト」について、あいちコミュニティ財団及びコミュニティ・ユース・バンクmomo代表理事である木村真樹さんが基調講演を行いました。
課題や成果を数字化することで社会的な認知度を高める
木村さんの団体ではNPO事業の発展段階に合わせた資金調達と伴走支援ということで、愛知県での民間金融機関とNPOの橋渡しを、足掛け10年行なってきました。
「NPOが解決に取り組む社会課題は、身の回りにあることが多いため、社会的な認知度は低いところから始まります。その課題を解決するための活動が知られていないのはもちろん、その課題すらそもそも知られていない可能性があります。そこでまず必要なことは、社会課題が何かを社会に伝える努力です。活動内容よりも、この課題を分かりやすく提示したほうがインパクトも大きいと思います。そのために有効なのが数字です。社会を巻き込む道具として数字という共通言語はとても効果的です。まず課題を挙げ、その課題に対する解決策を提示し、それに挑むには何が足りないかを伝えるという手法を他のNPOにもアドバイスしています。」
木村さんは、支援先であるNPOの事業が社会的価値をどれだけもたらしているかを金額換算する社会的インパクトの定量化=SROI(Social return on investment)にも取り組んでいます。
続いて行なわれたのが、事例報告とパネルディスカッションです。
本サポートファンドのフォロー調査を実施しているパブリックリソース財団の田口由紀さんに「Panasonic NPOサポートファンドにおけるフォロー調査からの気づき」という報告をいただくと同時に、「組織基盤強化に取り組み、成果を意識している団体の事例」について、荒川クリーンエイド・フォーラム理事・事務局長の伊藤浩子さんと移動支援Rera代表の村島弘子さんが発表。そのままパネルディスカッションに移っていきました。
助成を受けた多くの団体の組織基盤が強化され、アウトカム・インパクトが増大
「本助成プログラムの有効性を評価する目的で、毎年、フォロー調査を行なってきました。『組織の収入が増えたか』『スタッフやボランティア数が増えたか』等の指標のもと調査した結果、多くの団体で組織基盤の強化が実現したことが窺えました。またアウトカム・インパクトに対する評価においても、実に8割以上の団体が手応えを感じていることがわかりました。
さらに今回は、本助成プログラムの組織基盤強化への効果を具体的に把握する為に診断シートを使い、助成前と後の組織能力を比較しました。加えて、本助成プログラムの社会的インパクトを、SROIの手法で計量的に評価しよう、という試みを行いました。組織基盤強化のSROIは、これまで例がなく苦労しましたが組織基盤の強化が「てこ」のように働いて社会的インパクトが増大することを示せたのではないかと思います。効果を知る為には、アウトカムやそれを測る指標を設定することが重要なポイントだと感じています。」
足掛け5年の助成事業のおかげでより明確に「成果」を意識
「荒川のゴミを拾うことで自然を守るという活動を続けて今年で22年目になります。自主事業の確立のため、2008年に最初の助成を受け、研修事業を立ち上げました。その後2011年に、ゴミ調査データの社会的発信や社員研修の充実を目的に、2度目の助成を受け、その翌年には人材育成などに必要な付加価値を追求するため、3度目の助成を受けた次第です。結果、研修事業や参加企業の増加、意識の改革の実現、自主事業財源の拡充――等の成果が得られました。そして昨年、我々の活動がどう社会に影響を与えているのかSROIで算出し、具体的な評価項目を検証していくことで、活動の魅力を再確認することもできました。荒川が変わる=ゴミに対する人の意識が変わること。意識が変われば社会が変わります。そういう意味で、私達の活動が社会的インパクトを残せるのではと考えています。」
外部協力者と連携することで、自分たちの問題意識を出し合えるように
「私たちは東日本大震災をきっかけに生まれた団体です。移動困難な被災住民の方を対象に、車での送迎活動を行なっています。活動5年目となり、浮き彫りになった課題が『収益性の低さ』と『減らないニーズと5年目の手詰まり』でした。そこで、外部協力者と連携した組織基盤強化プロジェクトを受けることに。その結果、自分たちの問題意識を出し合えるようになり、行動指針も作成。支援者の方たちも増え、安定して活動ができるようになりました。現在は昨年、茨城県で起きた水害の被災者の支援活動もお手伝いしています。今後は研修活動などを行なうことで、人材育成を含めた幅広いネットワークを作りに取り組む予定です。」
パネルディカッション終了後は、フロアディスカッションの時間が設けられ、参加者の皆さんによる活発な意見交換がなされました。
最後に、日本NPOセンター常務理事 田尻佳史さんから、改めて組織診断と組織基盤強化の重要性、今回のテーマに対する所見、そして参加した皆さんに対する激励の挨拶が行なわれました。
第三者による組織診断で課題を明確化することが大切
「組織基盤強化と社会的インパクトの双方の話があり、今回のテーマは難しかったかなと思います。特に今回初めて助成を受ける方々など、社会的インパクトを考える以前の段階にある団体も多いのではないでしょうか。その場合は、例えば組織基盤がある程度強化されてから、社会的インパクトを考える、というやり方でも良いと思います。
課題に悩む新規の団体は、まず組織診断をしてみてください。第三者が診ることによって、自分たちの予想とは全く違う課題が浮き彫りになることがあります。まずは課題を明確に見つける、次に課題を解決するための道筋をつけていく。この2つをぜひ実践していただければと思います。」
互いに影響し合う、実りの多い懇親会
フォーラム後に開催された懇親会で、2つの団体に感想や抱負を伺うことができました。
環境分野での助成が決まった、自然環境を使った教育活動を行なう芦生自然学校(京都府南丹市)の青田真樹さん。
「芦生は西日本最大級の原生林がある地。今年3月に国定公園になることもあり、自分たちの活動を見つめ直すため、組織基盤強化のための助成金を受けることになりました。これからの10年をつくるために、自分たちのミッションをきちんと理解し、自分たちの仮説を外部の方に診断していただく。そして数値化するなど、より社会に影響を与えるような活動にしていきたいです。今回の皆様の話を伺って改めてその重要性を感じました。」と語ってくれました。
一方、子ども分野において今年で2年目の継続助成となるソルト・パヤタス(福岡県福岡市)の小川恵美子さんと同団体の組織診断を行なったアカツキの松島拓さんにも直撃。ソルト・パヤタスはフィリピンの都市貧困層の子どもたちへの教育支援と母親たちの収入向上支援、さらに支援者拡充に向けての現地体験プログラムを行なっています。
「財源の不安定さの解消を第一義に助成を受けました。アカツキの協力のもと、昨年1年間かけて組織診断を行ない、団体としての基盤が不十分だった点などの課題やその克服のための道筋を模索しました。何よりそのプロセスを皆でやることで、スタッフ一人ひとりの自覚が芽生えたことが嬉しかったです。『成果と指標の明確化・数値化』という今回のテーマはぜひやりたいと思っていたこと。非常に難しいテーマですが、やりがいがあると感じています」と小川さん。松島さんも、「安定的な資金獲得というテーマで全職員と理事にヒアリングをし、課題を明確化することから始めました。同時に、団体の中期計画がなかったので、作成のための合宿を実施。そこから皆さんの心が一つになれました。2年目も引き続き、スタッフの皆さんをサポートしていければと思います」と抱負を語っていただきました。
日本全国からNPOの組織基盤強化に関心が高い人々が集まり、組織診断や基盤強化、さらには社会的インパクトにまでテーマが及んだ今回のフォーラム。様々な方にとって実りの多い一日となりました。