2013年助成 Panasonic NPOサポート ファンド事業評価レポート 組織基盤強化の取り組みにより、事業のアウトカム・インパクトが増大

財団法人 パブリックリソース財団
チーフ・プログラムオフィサー
田口 由紀絵

Panasonic NPOサポート ファンドの助成事業において、2013年に助成を受けた19団体を対象とする調査を行いました。
本評価では、本事業による資金提供及び非資金的取り組みによる、これら19団体における組織基盤の強化に対する効果、活動の充実による社会課題の解決の促進に与えた影響、組織診断を実施したことによる効果を検証した。

2013年に助成を受けた19団体の内訳は、図表1にあるとおり、組織診断助成のみを受けた3団体、組織診断助成に加え組織基盤強化助成を受けた5団体、助成1年目に組織診断助成と組織基盤強化助成を受け、助成2年目として組織基盤強化助成を受けた6団体、組織診断はせずに組織基盤強化の継続助成を受けた5団体である。

評価は、19団体に対するアンケート調査、応募時点における各団体の申請書、組織診断報告書、助成事業報告書をもとにして行った。助成の成果を測るにあたっては組織診断のあるなしで比較を試みたが、団体数が少ないこともあり、アンケートの回答においては量的に顕著な違いは見出せなかった。全体を通して、助成対象団体の組織基盤が強化されたこと、助成によりアウトカム・インパクトが増大したこと、組織診断に大きな効果があることがわかり、組織の基盤強化における本助成プログラムの有効性が確認できた。

図表1:評価対象団体

助成の種類

団体数

今回調査対象とした助成期間

組織診断あり

Ⅰ:組織診断のみ

3団体

2012年11月~2013年5月
(組織診断:7カ月間)

Ⅱ:組織診断+組織基盤強化(1年目)

5団体

2012年11月~2013年5月
(組織診断:7カ月間)
2013年7月~2014年6月
(基盤強化:1年目)

Ⅲ:組織診断+組織基盤強化(2年目)

6団体※1

2013年7月~2014年6月
(基盤強化:2年目)

組織診断なし

Ⅳ:第2ステージの継続助成

5団体

2013年1月~12月
(基盤強化:2~3年目)

※1 2011年11月~2012年5月に組織診断助成、2013年1月~12月に組織基盤強化助成を受けた1団体を含む。

2013年に助成を受けた団体の組織基盤が強化された

1)団体の収入が増加。特に自主事業収入の増加が顕著である

助成実施前(2012年)の総収入に対する助成翌年(2014年)及び現在(2015年)の各団体の総収入の増加率を平均してみると、実施翌年は10.4%、現在は6.4%と増加している。財源別に見ると、自主事業による事業収入が助成実施の翌年に69.6%、現在は39.1%と顕著な増加を示している。回答した19団体のうち18団体が、「財源が多様化した」と回答しており、団体の自立性・継続性が高まったといえる。

図表2:助成前と比較した助成実施翌年及び現在の収入の増加率

実施翌年

現在

増加率

n

増加率

n

総収入額

10.4%

19

6.4%

19

内訳

会費

-15.2%

18

-7.3%

18

寄付

7.4%

19

-4.4%

18

助成金・補助金等

-48.5%

18

-44.2%

17

事業収入(委託費)

17.5%

10

-45.2%

10

事業収入(自主事業)

69.6%

18

39.1%

19

総支出額

2.4%

19

5.7%

18

2)スタッフ数、ボランティア数が増加

スタッフ数(有給、無給、常勤、非常勤の合計)は、助成前(2012年)と比べ平均して助成翌年(2014年)に14.4%、現在(2015年)は5.7%増加した。ボランティア数も助成翌年が19.7%、現在が11.0%の増加率となっており、助成は組織を支える人材の拡大に有益であったといえる。

図表3:助成前と比較した助成実施翌年及び現在のスタッフの増加率

実施翌年

現在

増加率

n

増加率

n

有給・常勤スタッフ

3.4%

18

0.9%

18

有給・非常勤スタッフ(パートタイマーなど)

30.5%

14

6.9%

15

有給計

9.7%

19

1.7%

19

無給・常勤スタッフ

0.0%

2

0.0%

2

無給・非常勤スタッフ

19.2%

7

17.6%

7

無給計

33.8%

9

32.4%

9

スタッフ計

14.4%

19

5.7%

19

上記以外のボランティア

19.7%

13

11.0%

13

3)助成前に抱えていた課題が平均82.1%解決

助成前に抱えていた課題が解決されたかどうかという質問に対しては、「目標を上回って解決された(目標の120%)」が2団体、「目標どおり解決された(目標の100%)」が2団体、「ほぼ解決された(目標の80%)」が11団体、「あまり解決されなかった(目標の60%)」が4団体だった。「まったく解決されなかった」団体はなかった。平均すると、目標の達成度合いは82.1%であった。

図表4

助成前に抱えていた課題の解決率グラフ

課題の解決の度合いについて、その要因を分析したところ、団体の活動分野(環境か子どもか)や、財政規模、抱えていた課題の種類、助成期間等との関連は特にみられなかった。

4)組織基盤強化により組織変革が進んだ

組織基盤強化の取り組みを振り返って、各団体からは以下のようなコメントが寄せられた。本事業が、団体の組織変革に大きな影響を与えていることがわかる。

  • 嵐を経てようやく運営・経営が形になってきた
  • 今ふりかえると、大きな転機であった
  • 見えない資産として今なお組織に蓄積されている
  • この助成事業が無かったら、事務局体制や理事会について、真剣に改革しようと思わなかったかもしれない
  • 組織の基盤を複数年度にかけてしっかり整えたことで、揺るがない軸をもった運営が出来るようになりつつある

助成により、アウトカム・インパクトが増大した

組織基盤の強化に取り組んだ結果、主要事業のアウトカムやインパクトがどれくらい増大したかについて、組織診断助成のみであった3団体を除く16団体に対して、1) 受益者の拡大、2) 社会課題の解決への影響、3) 社会の意識の変化に与えた影響、4) 政策への影響、5) 他団体や企業への影響、の5つの指標を用いて確認した。すべての団体において、何らかのアウトカム・インパクトが増大していた。

1)81.3%の団体で受益対象者が拡大

「ホームスタート・ジャパン」の主な受益者は、未就学児のいる子育て家庭、および地域のボランティアの両者である。助成前の699名から5,463名に拡大し、7.8倍の増加を示している。受益者が減少した「ちいさいおうち共同保育園」も「人数は減ったが、過去入園されなかった所得層に門戸が広がった」とのコメントがあり、助成後に受益者の範囲や人数が拡大していることが読み取れる。

2)87.5%の団体が社会課題の解決に対して影響を与えた

「プレーパークせたがや」では、「若い子育て世代の戸惑いや悩みに答える形のセミナーを実施し、反響が大きい。子育てに関しての「芯となる部分」を確認できた!との声もある」など、子育てをめぐる課題の解決につながっている。

3)81.3%の団体が社会の意識に変化を与えた

「スペースふう」は、「地域ぐるみの取り組みにより、町民の意識が向上し、イベントゴミの大幅な削減につながった」としている。

4)37.5%の団体が政策に影響を与えた

「スペースふう」では、「県、町に対して政策提言をし、今後の政策に反映させる取り組みを行った」としている。

5)62.5%の団体が他団体や企業などの行動に影響を与えた

「河北潟湖沼研究所」では、「生産組合が除草剤使用を控える方針に変わった。土地改良区の取り組みの中で水辺保全の位置づけが大きくなった。金沢市の生物多様性地域戦略策定の際の参考事例となっている。」等、地域に影響を与えている。

組織診断により取り組むべき課題が明確になった

2013年に組織診断助成を受けた8団体すべてにおいて、組織診断が役に立った。

1)組織診断により、想定していた優先課題が変わった

組織診断を行う前に自らが想定していた組織課題が、組織診断を実施したことにより「かなり変わった」のが全体の半数の4団体、「一部変わった」のが、3団体であった。

2)組織診断により、課題が明確になった

8団体中2団体(25.0%)が、課題が「大いに明確になった」、5団体(62.5%)が「かなり明確になった」と回答しており、明確にならなかったと答えた団体はなかった。

3)組織診断に取り組むこと自体が、組織基盤を強化することに役立った

最も多かったのは、組織診断が基盤強化に「大いに役立った」(5団体、62.5%)で、役に立たなかったとする団体はなかった。どのように役立ったのか、具体的な記述をいくつか抜粋する。

  • 「組織診断に取り組む前までは気が付かなかったところに問題の本質があることに気付くことができた」
  • 「全員で組織診断に取り組むことによって、まさに組織基盤部分の課題が顕在化され、取り組みの優先順位が上がった」
  • 「日々の業務に追われて、事務局や組織自体、活動そのものについて、考える時間がなかった。外部のコンサルタントや他団体の意見などから、井の中の蛙であることを認識できた」
  • 「この事業を通し、組織の歴史上初めて、組織・経営というものを組織内で公式に考える場が出来、理事会の組織再編に繋がった」

4)組織診断に取り組んだ目的が達成できた

組織診断に取り組んだ目的として、「組織の課題解決の方向性について、外部の第三者の視点がほしかった」ことを挙げた団体は、半数の4団体だった。また、「組織基盤強化のために何に取り組むべきかを明確にしたかった」は4団体、「組織が取り組むべき課題について団体内で共有したかった」は3団体が挙げていた。
また、目的が達成できたかどうかについては、全体の75.0%にあたる6団体が、上記のような目的を「大いに達成できた」、「かなり達成できた」と回答した。達成できた要因としては、第三者が入ることで客観的に課題を整理できたこと、さらにそれを内部で共有できたことをあげる団体が多かった。

【今後の課題】

本事業における組織基盤強化の最終的な目的は、社会に対するアウトカム・インパクトの増大にある。今回はアンケートで、受益者数、社会課題の解決、社会の意識変化、政策への影響等について尋ねることで、アウトカム・インパクトの増大を把握することを試みた。
結論としては、受益者の数や範囲が増大したり、社会課題の解決が進んだりするなど、アウトカムが増大しているであろうことが確認できたが、それが本当にその団体が目指すべきアウトカムであるのか、それを測るための指標は何か、アンケートで把握することには限界があった。団体ごとに取り組むべき社会課題やフレームワーク、解決に向けてのアプローチ方法、想定するアウトカム等が異なったり、団体自身が明確に認識していなかったりすることがある。各団体におけるアウトカムの成果指標を明確化するためには、対話を持ちながら聞き取り調査を行うことが望ましいであろう。

また、組織基盤強化の取り組みにより、社会的インパクトが増大したかどうかを確認するためには、事業を始める段階でアウトカム指標や目標が設定されていることが望ましい。各団体が作成した本事業への助成申請書や報告書には、明確なアウトカムや指標、目標の記載が少ない。組織基盤強化のその先の成果(受益者にどのような変化を起こすのか、それによって社会がどう変わるか等)として何を目指すのか、助成する側とされる側があらかじめ合意して助成事業をスタートすることで、本事業の社会的な成果がさらに増大するであろうと考える。

【評価対象団体】

特定非営利活動法人 さっぽろ自由学校「遊」
認定特定非営利活動法人 スペースふう
特定非営利活動法人 河北潟湖沼研究所
特定非営利活動法人 ホールアース研究所
特定非営利活動法人 NPO砂浜美術館
特定非営利活動法人 環境ネットワークくまもと
認定特定非営利活動法人 アースウォッチ・ジャパン
特定非営利活動法人 自然体験共学センター
特定非営利活動法人 市川子ども文化ステーション
特定非営利活動法人 NPOカタリバ
認定特定非営利活動法人 エンパワメントかながわ
特定非営利活動法人 生涯学習サポート兵庫
特定非営利活動法人 ちいさいおうち共同保育園
特定非営利活動法人 フリー・ザ・チルドレン・ジャパン
特定非営利活動法人 ホームスタート・ジャパン
特定非営利活動法人 CAPセンター・JAPAN
特定非営利活動法人 プレーパークせたがや
特定非営利活動法人 アトピッ子地球の子ネットワーク
特定非営利活動法人 下関市自閉症・発達障害者支援センターシンフォニーネット