社会課題の解決促進を目指し、NPO/NGOの組織基盤強化を図る

Panasonic NPOサポートファンド 2017年募集事業 贈呈式&組織基盤強化フォーラム

第2部 組織基盤強化フォーラム

テーマ:持続可能な開発目標「SDGs」とNPO/NGOの組織基盤強化

サポートファンドの贈呈式に続いて行われた組織基盤強化フォーラムでは、SDGsや組織基盤強化に関心を持つNPO、NGO、企業や自治体の関係者の方々が多数参加しました。パナソニック CSR・社会文化部 部長の福田里香による開会あいさつの後、一般社団法人 SDGs市民社会ネットワークの稲場雅紀さんによる「SDGsはNPO/NGOの組織基盤強化に寄与するのか?」と題したキーノートスピーチ、そしてサポートファンドで助成した3団体による事例報告、パネルディスカッションがおこなわれました。

【開会あいさつ】

誰もが歓びを分かち合い、活き活きと暮らす共生社会へ

パナソニックは今年、創業100周年を迎えます。事業を通じて社会の発展に貢献し、より良いくらし、より良い世界「A Better Life, A Better World」を目指すという理念に沿って、事業活動とともに企業市民活動をすすめています。創業者・松下幸之助の言葉に「貧困は罪悪であり、何としてもなくしていかなければならない」とあります。そこで私たちも世界的な社会課題である、「貧困の解消」に向けて軸を置いて活動していこうと考えました。具体的には、誰もが喜びを分かち合い活き活きと暮らす共生社会に向けて、「人材育成」「機会創出」「相互理解」の3つの切り口で企業市民活動に取り組んでいます。
今後さらに貧困解消に向けた取り組みを進め、サポートファンドでも貢献できないか検討を進めているところです。

パナソニック 福田 里香の写真

パナソニック
福田 里香

【キーノートスピーチ】

SDGsはNPO/NGOの組織基盤強化に寄与するのか?

一般社団法人 SDGs市民社会ネットワーク 専務理事・事務局長 稲場 雅紀さん

SDGs市民社会ネットワーク 稲場 雅紀さんの写真

SDGs市民社会ネットワーク
稲場 雅紀さん

SDGsを“ふた言”で説明すると「世界から貧困をなくす」「“つづかない”世界を“つづく”世界に変える」ことです。
NPO/NGOの組織基盤強化において、大切な4つの要素があります。目標、事業、人材、資金です。多くの団体で、これらは時間の経過とともに変化していきます。最初に高い目標を掲げてみても、時間が経つと人材や組織、資金などに重点が移っていきます。
世の中や社会問題のありようも大きく変わってきます。そうしたときこそ、団体の目標や事業をあらためて検証して組織基盤の強化をはかる必要があるのです。

SDGsには多様な17項目の課題があり、どの団体の活動もこの17項目のいずれかに必ず位置付けられます。この課題を使って、組織基盤強化をしていく方法があります。SDGsは、直接的に団体の目標や事業のあり方を問い、さらに人材や資金、その調達のあり方も問う、鏡のようなものです。組織基盤強化をはかる際に、団体の目標をもう一度確認してください。SDGs時代において自分たちの団体の目標は十分に変革的であるか?事業は目標と直接的にむすびついているか?方法論は十分に革新的か? SDGsに照らして目標を考えることが大切です。
また、目的達成のための手法のあり方も問われます。運営や調達の手法はSDGsの精神にのっとっているか、これを検証することも必要です。
SDGsでうたわれていることをもう一度しっかりと読んでいただき、団体の目標や事業のあり方などの活動を見直すことで、大きな組織基盤の強化につながると思います。

続いて「環境」「子ども」「アフリカ」の3分野からの実践事例報告、パネルディスカッションが行われ、来場者との質疑応答も設けられました。

【実践事例報告・パネルディスカッション】

“組織基盤強化”の実践事例報告

◆報告①

SDGsに沿った「脱・使い捨てプラスチック」の実現を新たなミッションに

認定特定非営利活動法人 スペースふう

スペースふう 永井 寛子さんの写真

スペースふう
永井 寛子さん

私たちは、リユース食器を通した循環型社会の実現を目指して14年ほど前に設立しました。2013年から3年間、サポートファンドの助成を受け、組織基盤強化に取り組みました。
まず取り組んだのは世代交代による持続可能な事業経営の確立です。メンバーの高齢化が進んでおり、若い世代への移行が課題でした。そして中長期計画の策定です。まずコア事業、リユース食器レンタルの拡大強化に取り組みました。また環境型社会の加速化のため、リユース食器が当たり前になる社会を目指し、制度化を進めました。最後にコア事業であるリユース食器レンタルの普及と拡大のため、運営管理体制を確立することを目標としました。

これら3つの目標に向けた具体的なアクションとして、足元である山梨県富士川町の行政や地元企業、商店などと連携し、普及啓発のための「富士川町リユース食器0円プロジェクト」という取り組みを実施しました。現在、リユース食器のレンタル個数・件数ともに目覚ましく伸びています。
またSDGsの目標の14番目には、海洋ごみに関する項目があります。とくにプラスチックごみの問題は深刻で、マイクロプラスチックを魚や海鳥などが食べると死んでしまい、生態系に大きなダメージを与えます。現在、脱・使い捨てプラスチックは世界的な動きになりつつあります。フランスでは使い捨てプラスチック食器の販売が禁止されました。フランスのような動きは、世界のほかの国でも見られます。しかし日本はまだまだ遅れています。そこで、私たちはSDGsに沿った「脱・使い捨てプラスチック」の実現を新たなミッションに掲げました。海ごみ、山ごみ、川ごみについて取り組んでいる他の環境団体と連携し、山~川~海のつながりの中でプラスチックごみ問題の解決の道を探っています。

◆報告②

第三者の支援を得ることで客観的に組織を見ることができ、スタッフ間で危機感を共有

社会福祉法人 日本国際社会事業団 常務理事

日本国際社会事業団 石川 美絵子さんの写真

日本国際社会事業団
石川 美絵子さん

私たちはジュネーブに本部を置く国際組織の日本支部です。おもに養子縁組親子の面会交流支援、国籍取得・家族再会支援、日本で暮らす難民の支援など、既存の法制度では対応が困難な福祉的ニーズに取り組んでいます。1952年に始まり、歴史があるというところが、悩みの種でもありました。

サポートファンドに申請した当時、財政基盤の脆弱性のほか、時代やニーズに合わせた組織のシステムメンテナンスができていない、高齢化、事業の複雑化、ミッションやビジョンも言語化されていない、人手不足など問題が山積みでした。
組織診断の結果、3つの課題が出てきました。まず事業戦略(中期計画)の策定と方向性の明確化、そして社会への発信、さらに支援的資金の拡大です。
そこで、理事・監事・評議員による財政基盤強化と中核事業見直しのプロジェクトチームを立ち上げました。これは現在も継続中です。
社会への発信については、ニュースレターや事業報告書の改善、イベントの工夫、ウェブサイトの見直しなどをおこない、現在も試行錯誤中です。
ファンドレイジングについては寄付チラシを作成し、2016年10月ごろから配布したところ、12月までの間の寄付金額がその期間の前年度に比べて8倍以上になりました。それによって私たちは自信を深めることができました。
また、事務局機能を強化するためにスタッフを増員し、社会福祉法の改正にともなう変更と定款の見直しをおこないました。新しい理事も決まりましたので、今年はさらに体制を強化していきます。

第三者の支援を得ることで客観的に組織を見ることができ、スタッフ間で危機感を共有することもできました。歴史があるということをネガティブにとらえていましたが、プログラムを通じて、長い歴史はニーズの証だと自覚するようにもなりました。今後も私たちの事業の価値に共感していただけるよう、活動をすすめていきたいと思います。

◆報告③

組織改革や組織強化に終わりはなく、どう継続していくか

認定特定非営利活動法人 テラ・ルネッサンス

テラ・ルネッサンス 鬼丸 昌也さんの写真

テラ・ルネッサンス
鬼丸 昌也さん

私たちは2001年10月に設立、カンボジア、ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の村落開発支援や、ウガンダ、コンゴ、ブルンジで元子ども兵や紛争被害者の社会復帰・自立のための職業訓練や識字教育などをおこない、国内ではそれらの問題に関する平和教育や講演も行っています。
かつて私たちの財政基盤づくりは属人的で、活動を継続するためにはそれをチームで行うべきだと考えていました。そうしたときにサポートファンドに出会い、2010年に応募しました。まず私たちは、伝えたいことを適切なタイミングで伝えるため、広報に関することはできるだけ内製化しようと、ウェブサイトの制作技術を職員に学んでもらい、それをチーム全体で共有し、ウェブサイトやSNSの更新を速やかに行えるようにしました。

2012年は、活動を動画で表現するため、映像制作経験のある人をインターンとして採用し、元子ども兵の社会復帰支援の様子を伝える映画を製作しました。講演や報告会では、動画を活用して、五感を通じて遠い国であるアフリカやアジアの国を実感していただき、私たちの活動をよりリアリティを持って理解していただくことにしています。

2013年には、英語版と中国語版のウェブサイトを製作し、台湾での資金調達と理解者、支援者の獲得において効果を発揮しました。2011年に東日本大震災の支援活動を始めたときは寄付金額が一気に増えましたが、翌年には半減します。しかし2011年から広報基盤の人材育成とノウハウの内製化に努めてきた結果、2013年、2014年と、講演やウェブサイトを通じて、寄付が回復傾向にあります。2016年には1億6,300万円ほど、さまざまな個人や団体から寄付や助成金や会費などをいただきました。

組織改革や組織強化に終わりはありません。助成により組織基盤強化のチャンスをいただいて、それをどう継続していくかが、私たちNPO、NGOの活動にとって大切なのではないでしょうか。

フォーラムの「まとめ」は、日本NPOセンターの今田克司さんよりコメントを頂きました。閉会後は、懇親会が行われ、来場のみなさんが情報交換や名刺交換をしながら親睦を深めました。

社会課題を解決するという気運を協働のチャンスに

私からは3つのポイントを申し上げます。1つは、団体の「外を見る目」と「中を見る目」のバランスです。組織基盤強化では、ミッションやビジョン、広報、ファンドレイジング、人材、世代交代が課題になりがちです。たしかにそういった「中を見る目」を始点とした作業は必要ですが、そればかりになってはいけません。今日、稲場さんがお話しされたSDGsは「世界や地域の課題を読み解く装置」ともいえます。
稲場さんの問いかけに「あなたの団体の目標は十分に変革的ですか?」とありました。世の中が変化している中で、私たちNPOもまた変革的な目標を立てない限り、支持が得にくいのだと思います。多くの人に注目してもらい「支援したい」と思ってもらうためには、「外を見る目」をもつ、つまり自分の団体は時代にマッチしているのか検証することが必要です。そのためのひとつのツールとしてSDGsがあるのだと思います。

日本NPOセンター 今田 克司さんの写真

日本NPOセンター
今田 克司さん

組織基盤強化フォーラムの写真1
組織基盤強化フォーラムの写真2
組織基盤強化フォーラムの写真3