誰と一緒に組織をつくるのか? NPO/NGOの組織基盤強化における「参加」の力

2023年1月27日、「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の贈呈式に続いて、日本NPOセンターとの共催で組織基盤強化フォーラムを開催しました。会場には、贈呈式を終えた助成団体の皆様にお集まりいただき、併せてオンラインでも、180名の一般の方々にご参加いただきました。基調講演や組織基盤強化の事例発表、パネルディスカッションを通して、多様な人々によって成り立つNPO/NGOにとっての「参加」の力とは何なのかを考えました。

●開会挨拶

新たな体制で3つの重点テーマに取り組む

105年前に3人で創業したパナソニックは、従業員24万人のグローバル企業に成長し、昨年4月には、8つの事業会社をパナソニックホールディングスが束ねる事業会社制となりました。私どもは事業と企業市民活動を車の両輪として進めてまいり、企業市民活動においてはSDGsの1番目の目標である「貧困の解消」を軸としています。さらに、これまで各拠点でも取り組んできた環境問題も改めて重点テーマに加え、「貧困の解消、地球環境保全、人材育成(学び支援)」の3つを重点テーマとして、物も心も豊かな理想の社会の実現を目指していきます。ここからまた新たな気持ちで、皆様に気づきやアドバイスをいただきながら、社会課題の解決と新しい社会価値の創造に取り組んでいきたいと思います。

写真
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
企業市民活動推進部 部長 福田 里香

●基調講演

市民の力とツナガリで社会を変える
~NPO/NGOにおける参加の意義と価値~

1972年から、バングラデシュやネパールで、生活困窮者の生活上の課題を解決することで、すべての人の豊かな可能性が開花する社会を目指してきました。バングラデシュでは、先住民の子どもたちの初等教育支援として、補助教員や補習教室の配置、SMC(学校運営委員会)の組織強化に取り組み、地域にコミュニティ・ラーニング・センターを設置しました。バングラデシュでは、家事使用人として他人の家で働く子どもが数十万人います。80%が女子で、うち78%は14歳未満。ほとんどが学校に通っていません。14歳未満の子どもの労働をなくすために、保護者や雇用主、地域住民、行政、政府などに働きかけています。
組織としては1987年に鎌倉合宿で大議論の末、ボランティア中心の体制から事務局中心の体制へ移行。事務局の暴走をボランティアがチェックする運営委員会の設置を提案しました。2021年の中期ビジョン策定の際には、改めて市民とは誰かを議論し、バングラデシュやネパールで課題を抱える人や周辺の人々も市民ではないかと、とらえ方が変化しました。

写真
認定特定非営利活動法人
シャプラニール=市民による海外協力の会
事務局長 小松 豊明さん

市民参加としては会員が1308人、物品寄付プログラムの参加がのべ約25000件で、学生が中心のユース・チームが主催する、国際協力について理解を深める合宿型のイベントもあります。理事会は毎月開催し、中期ビジョンは会員へのヒアリングを経て策定。駐在員や海外ゲストが全国を回り、各地の会員と対話する全国キャラバンも行っています。市民参加はある意味、私たちのDNAでもあります。

●組織基盤強化の事例発表

参画・賛同する人が増え、地域に広がるおせっかいの輪

プレーパークという遊び場で、貧困という課題を抱える子どもたちと出会い、みんなでゆるやかにつながってできることをするために設立したネットワークです。不登校や子育て支援、子ども食堂などの取り組みをしている仲間が集まり、必要な居場所をさらにつくって、同じような活動を始める人の背中を押してきました。プレーパークは行政からの委託ですが赤字で、子どもが無料で宿泊できるWAKUWAKUホームも助成金で運営しています。
サポートファンドで2020年に組織診断を受け、2021年にはシャプラニールの坂口理事長にコンサルをお願いして、組織基盤強化に取り組み、「おせっかいの輪を広げる」というビジョンを策定。その実現に向けて、同じ地域の課題を共有する人たちと円卓会議を開きました。コロナ禍で、子どもの家族を丸ごと支援しないと子どもを守れない状況になりましたが、さまざまなおせっかいを展開する中で、多くの方がボランティアとして参加するようになりました。地域で活動を持続可能にするには、寄付より参画・賛同する人を増やすことが大切です。

写真
認定特定非営利活動法人
豊島子どもWAKUWAKUネットワーク
理事長 栗林 知絵子さん

基盤強化としては独自のセーフガーディングをつくり、事務局に専従スタッフを配置。寄付者と受益者の名簿管理も徹底しました。昨年1月には認定NPOとなり、おせっかいした人が今度は活動に参画する「オセッカエル」という循環の仕組みを今つくっているところです。

団体の活動を広めるスピーカーが全国に255人も誕生

ウォーターエイドは1981年にイギリス、2013年に日本で設立され、すべての人が清潔な水とトイレを利用し、衛生習慣を実践できる世界を目指して34カ国で活動しています。日本は長年、水・衛生分野に最大の援助をしてきましたが、深刻な課題だと認識する人が減ると、日本政府も援助を減らしてしまう可能性もあります。そこで2014年、学校などで出前授業を行うスピーカークラブというボランティアグループをつくりました。丸1日の講習会を受講すると、スピーカーに認定されます。実は私も、高校の授業がきっかけでNGO職員になろうと思うようになった一人です。

2016年にはサポートファンドで組織基盤強化を受けました。スピーカー講習会をきちんとしたものにして満足度を高め、東京以外でも開催し、スピーカーだけでイベントができるようにしたいと考えたからです。

写真
認定特定非営利活動法人
ウォーターエイドジャパン
事務局長 高橋 郁さん

広がりだけでなく厚みももたせるために、スピーカーのとりまとめをしてくれるコアスピーカーも育てることにしました。その結果、全国にスピーカーが拡大し、255人まで増えました。職員6人の後ろに、丸1日使ってウォーターエイドを知ろうとした人が255人もいるのは心強いことです。スピーカーがファンドレイズに協力したり、企業の方々がスピーカーになって、地域の学校で授業をしてくれたりする事例も出てきています。

●質疑応答・パネルディスカッション

組織に関わる多様な人たちとの向き合い方

【コーディネーター】
日本NPOセンター 事務局長 吉田 建治さん

【登壇者】
シャプラニール=市民による海外協力の会 事務局長 小松 豊明さん
豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長 栗林 知絵子さん
ウォーターエイドジャパン 事務局長 高橋 郁さん

活動に参加する担い手の増やし方

栗林さん コロナ禍で、行政と連携した食料支援を行ったことで、個人情報を共有し、各地域のおせっかいさんが守秘義務を守って協力してくれそうな人に声をかけ、チームができ、コロナ禍をきっかけに、食料支援のことを町ぐるみで当たり前に話せるようになりました。

プロボノやボランティアに求める範囲

高橋さん コアメンバーを育成して、イベントを企画したり、今後の計画を立ててもらいましたが、家庭の事情や仕事の忙しさにより、定着しづらい方もいます。出前授業の依頼があれば、事務局から相談して手を挙げた方にお願いしたり、横のつながりを増やすイベントを開催したりしながら、まだ試行錯誤の段階です。

小松さん 事務局とボランティアの関係性に正解はないと思います。関わりすぎると嫌がられ、関わりが少ないと活動が停滞する。ボランティアの皆さんとは全員で関わるようにしていて、その中から、いろいろな工夫も生まれてきます。私以上に長く関わっているボランティアさんもいて、そういう方が引っ張って、イベントを開いてくれることもあります。長い積み重ねがあったからこそ、できた関係だと思います。

ボランティアから提供された思いも寄らない機会

栗林さん ボランティアさんも子どもと関わると、どんどんおせっかいになって、もっと何かしたくなる。会社の家族イベントに子どもたちを連れていってくれたり、私たちが伴走した子が就職して、地域のお父さん代わりになってくれたり。みんながファミリーのようになっています。

高橋さん 設立からわずか5、6年で、団体のことを自分の言葉で話せるスピーカーが200人以上も誕生し、年間10件以上の出前授業ができました。ユニークな取り組みが目に留まり、2016年には、JANICからNGO組織強化大賞の担い手育成部門賞をいただきました。

多様なボランティアと関わる上で大事にしていること

小松さん シャプラニールの会員は熱い人が多く、総会の時もいろいろ言ってくれる。そういう人がいるからこそ、道を踏み外さず、これまで進んでこられたのだと思います。面倒でも多数決ではなく、議論をすること。それによって正しい道を見つけるのが、市民社会組織の在り方だと思います。そこに議論する基盤ができ、議論に参加してくれる人たちこそがシャプラニールの財産だと思っています。

写真
パネルディスカッションの様子

当日は3団体の取り組み事例をもとに、「目標にむかってどんな人たちと一緒に組織を運営していくのか」について自団体を振り返る一日となりました。市民参加の形は団体によって様々ではありますが、多くの方の協力が組織のピンチだけでなく、チャンスの際にも力になりNPO活動の源泉なのではないかと改めて学びました。