認定NPO法人 ウォーターエイドジャパンの組織基盤強化ストーリー

©WaterAid/ Ernest Randriarimalala

34ヵ国で地元住民とともに、清潔な水とトイレをつくる。
途上国の現状を伝える「スピーカークラブ」設立、スピーカーは160人に

世界の水・衛生問題に取り組んできた国際NGO「ウォーターエイドジャパン」。途上国の現状を広めていくため、出前授業をおこなう「スピーカークラブ」を設立。着実にボランティアを増やし、活動を活性化させている広報基盤強化の取り組みについて聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第339号(2018年7月15日発行)掲載内容を再編集しました]

水と衛生の悪環境で
毎日800人の子どもが死亡。
水・衛生分野で日本は最大の援助国

ウォーターエイドは「すべての人が清潔な水と衛生にアクセスできること」を目指して、1981年に英国の水道事業体の支援によって設立された国際NGOだ。ウォーターエイドジャパン事務局長の高橋郁さんが、その経緯を説明する。

「国連が81年から90年まで飲料水の課題に取り組んでいこうと打ち出したタイミングで創設され、2000年代に入って米国、オーストラリア、スウェーデンなどでも設立されました」

日本で設立の準備が始まったのは2012年。英国で開発学を学んだ後、別のNGOでファンドレイジングや企業との連携事業を担当、通信制の高校職員などを経験した高橋さんが日本法人の立ち上げにかかわり、2013年からNPOとしての活動が始まった。

ウォーターエイドジャパン
事務局長 高橋 郁さん

「いまだに世界では8億4400万人が清潔な水を使うことができず、全人口の3分の1にあたる23億人が適切なトイレを使えていません。水と衛生の欠如による下痢で1日800人もの子どもが命を落としています。水と衛生の分野の援助において、じつは日本は最大の援助国。SDGsのゴール6『安全な水とトイレを世界中に』を達成するためにも、日本から、この課題の優先度の高さを発信していく必要があります」

※国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にある2016年~30年の国際目標。

©WaterAid/ Joey Lawrence

現在、34ヵ国に拠点を構えるウォーターエイドは、アフリカ、アジア、中南米、大洋州で、貧困や障害、民族、カーストなどを理由に差別されたり、農村部や都市部のスラムで開発から取り残されたりした人々を対象に、給水設備やトイレを利用できるようにしたり、衛生習慣を身につける活動に取り組んでいる。

「プロジェクトの実施にあたっては、その土地の文化や社会を理解し、当事者に寄り添ってニーズを聞き取れる現地のNGOをパートナーとします。できるだけ現地で調達できるものを使って、井戸の掘削、雨水の貯留タンクの設置、山の湧き水を利用した自然流下などの最適な解決法を探り、住民による維持管理の仕組みをつくります」
こうすることで、現地のNGOが課題解決能力を身につけ、プロジェクトが広がっていくのだという。

全国でスピーカーを養成
ボランティアを出前授業の担い手に

多くの国で水汲みは女性や子どもの仕事とされ、そのために学校に通えなくなる子どもたちがいる。また、学校にトイレがなく、年齢が上がるにつれて女の子が学校に行かなくなる問題もある。

「たとえばマダガスカルでは12、3歳の女の子たちが水汲みをしていました。20リットルのタンクを頭に載せ、1日に5回も未舗装の道を1時間かけて裸足で運ぶ。転んでけがをする子もいました。地元の人々と一緒に井戸を掘り、給水設備をつくったことで、彼女たちは学校に通えるようになりました」

遠距離の水汲みは子どもの教育の機会を奪う
©WaterAid/ Joey Lawrence

このような現状やウォーターエイドの活動を日本国内でも広く知ってもらおうと、高橋さんはボランティアがイベントや学校で授業を実施する「スピーカークラブ」の設立を思い立った。

「英国のウォーターエイドにも似た組織があり、日本でもと設立当初から思っていました。2014年にようやくボランティアを募り、最初に教材を作成するワークショップを開くことができました」

2015年に、正式に「スピーカークラブ」を立ち上げ、20人のボランティアが集まったが、当時の職員は3人。活動を大きく広げることは難しかったと、コミュニケーション担当の立花香澄さんは振り返る。

写真:ウォーターエイドジャパン 事務局長 高橋 郁さん

「そこで2016年にNPOサポート ファンドの助成を受けて、初めて北海道、東京、横浜、愛知、大阪で講習会を開いたところ、新たに48人がスピーカーになってくれました。学校の先生や高校生もいれば、下水処理やトイレの会社で働いている方もいました」

講習会は丸一日かけて、「ピア・ティーチング」という手法をつかい、ワークショップ形式で実施した。片方のチームが授業を行い、もう一方のチームがフィードバックし、チーム内での話し合いや練習を経て、再度、同じチームに授業をしてみせるというものだ。

参加者の声をワークショップの内容にも反映した。「講師用資料の他に、どのタイミングで何を話せばいいかを紹介した台本も作成することができ、好評でした」

ウォーターエイドジャパン
立花 香澄さん

地域で活動するコアスピーカー
高校生スピーカーも授業

こうして活動は活性化したが、一方でスピーカークラブにかかわる事務局の負担も増え、行き詰まることは目に見えていた。そこで、翌年も継続して助成を受け、2017年は登録スピーカーの中から、各地域で中心となって活動する「コアスピーカー」を募り、6人を育成することになった。

「将来的には出前授業を実施する学校との交渉や授業内容の選定、スピーカー同士のやり取りもお願いしたい。各地で開くスピーカー講習会の運営も任せて、自主的に各地域でスピーカーが増えていく仕組みを確立したい」と立花さんは言う。
まず17年は、イベントで事務局職員のアシスタントとなって、開催のノウハウを習得し、授業のモデル動画をつくった。そして助成3年目の今年は事務局がフォローに回り、コアスピーカーが中心となってスピーカー講習会を開催していく。

ウォーターエイドジャパン 立花 香澄さん

今や160人にまで増えたスピーカーの存在について、高橋さんはこう語る。
「まだ新しい私たちの団体にとって、丸一日を費やして私たちの活動を深く理解してくれた方が全国に160人もいることは大きな財産です。継続寄付者になってくれた方もいますし、スピーカー同士の横のつながりも生まれています」
活動に参加する機会を提供する手段でもある「スピーカークラブ」は、ユニークな取り組みとして徐々に知られるようになってきたという。

写真:スピーカークラブ活動の様子

ウォーターエイドジャパンが拠点を置く東京都墨田区は、近年、区民向けの「水の循環講座」を開催しており、2016・2017年度にはウォーターエイドが企画運営を担当した。「今年3月には、講座の一環で高校生のスピーカーが自分たちで作った授業を行いました。その内容に『涙が出そうなほど感動した』と心を動かされた参加者も多かったので、今後は若いスピーカーも増やしていきたい」と高橋さんは意気込みを見せる。

「また、水循環の健全化に取り組む自治体や組織で途上国の話をさせていただくと共通点がたくさん見えてくる。海外の事例を自分たちの水の使い方を見直すきっかけになればうれしいし、国内で活動する人たちとのつながりも深めていきたいと考えています」

写真:立花 香澄さん(左)と高橋 郁さん(右)

[団体概要]NPO法人 ウォーターエイドジャパン
1981年に英国で創設された国際NGOウォーターエイドの日本法人として、2013年に設立。2030年までに「すべての人がすべての場所で、清潔な水とトイレ、衛生環境を手に入れること」を目指して、世界34ヵ国で活動を行っている。

©WaterAid/ Ernest Randriarimalala