プロボノチームが「NPO法人 胃癌を撲滅する会」を支援
NPOの運営基盤を整備する業務フローを設計

NPO法人 胃癌を撲滅する会

パナソニックは、従業員が仕事で培ったスキルや経験を広く社会に役立て、社会課題を解決するNPO/NGOの事業展開力強化を応援する「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」に取り組んでいます。
今回は7人の従業員がチームを組んで、「NPO法人 胃癌を撲滅する会(略称 HIGAN)」の業務フローを設計しました。2021年7月10日からHIGAN関係者へのヒアリングを実施し、個別ワークフローごとの検討を進めて、主要7タスクを業務フロー設計書に落とし込みました。そして2021年12月19日には、オンラインでHIGANへの最終提案を行いました。その様子をご紹介します。

早期胃癌の発見方法を世界に発信
組織運営基盤の立て直しをプロボノに依頼

「胃癌を撲滅する会(HIGAN)」は2016年の設立以来、医師・研究者・環境学者が中心となって、胃癌の主原因であるピロリ菌が蔓延する国の医療関係者や一般市民に、胃癌の予防や環境改善の大切さを啓発してきました。
胃癌予防の先進国である日本の技術を伝えようと、世界有数の胃癌多発国であるブータンでは、ピロリ菌の感染を断つために除菌薬を配布し、胃の内視鏡検診を行ってきました。さらに、早期胃癌を内視鏡で発見する方法を「Train the trainer (TTT)」と呼ばれる手法やeラーニング、教育動画、セミナーを通して、世界各国の医療関係者にも伝えてきました。

一方で、代表理事の鴨川 由美子さんは組織の運営に課題を感じていました。
「数人で立ち上げた小さな団体で、NPO運営に必要なものを確認しないまま始めてしまい、時間が経つにつれて、今何をやる必要があり、今後何をやらなければならないのか、整理がつかなくなってきました」

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NPO法人 胃癌を撲滅する会
代表理事 鴨川 由美子さん

事務局長の堀 清美さんも不安を感じていました。
「組織を成り立たせるような短期目標や長期目標が何もなく、組織運営にも一部の人しか関わっていなくて、どうすれば会が今後も存続していけるのかわからず、暗礁に乗り上げたような状態でした」
そこでHIGANは組織の運営基盤を根本から立て直すために、プロボノに応募しました。

ヒアリングから導き出した強みを活かし、弱みをカバーする
主要タスク7つの業務フロー設計書を作成

プロボノチームは、NPOとしての運営基盤を整備するために「業務フローの設計」に取り組むことにしました。まずはHIGANの会員メンバーなど16人に個別ヒアリングを行い、個人ノウハウを見える化。そこからHIGANの強みと弱みを導き出し、「強みを活かして弱みをカバーする業務フロー」を設計する方針を固めました。
さらに個別ワークフロー別の検討を進め、HIGANとの8回のオンライン会議を経て、主要タスク7つ(各種申請・会議関係・会計・契約書関連・広報・教育動画作成・資金調達)の業務フロー設計書を作成し、そのうち4つのタスクについて詳しく説明しました。

・各種申請業務フロー
所轄庁や法務局などに提出する各種申請書類について「いつ・どこに・何の申請書を・誰が」提出するのかを一覧表にした年間スケジュール表を作成しました。事業年度が終わる3カ月前からやるべきことが、エクセル・ファイルにまとめられています。

・会計業務フロー
会の入出金が4つの銀行口座に分散していて、台帳もなく、入出金や残高の把握が難しい状態でした。そこで、1つの銀行に入出金を集約し、もう1つの銀行は会費・寄付金入金に限定。会計と寄付金の担当者を分けました。会計台帳を作成し、入出金と月末残高を会計担当が毎月、理事長に報告する体制をつくりました。

・広報業務フロー
HIGANからHP改善の要望があり、現状のHPを解析して課題を洗い出しました。その結果、動線が乱雑で、知りたい情報が閲覧者に伝わりにくいという課題が明らかになり、わかりやすい動線を意識したHP案を作成しました。
具体的には、次の3点を提案しました。

  1. 色や文字、アイキャッチ画像を工夫し、訴求力のあるレイアウトに変える。
  2. YouTube動画やeラーニング等の教育ツールが多くの医療従事者に活用されるように紹介し、利用率拡大を目指す。
  3. トップ画面に、たとえば「1日30円~寄付する」といったボタンを設けるなどして、さらなる寄付を呼びかける。

・資金調達業務フロー
HIGANが抱える2つの課題について解決策を提案しました。
課題①:助成金の採択率が低い。
助成金の採択率を上げるために、助成金プログラムの担当者に助成金申請のポイントを聞き、助成金申請書についてのプロボノチームの所感をまとめたものを議事録と録画データにして提出しました。
課題②:活動資金が助成金に偏重している。
助成金しだいで活動の内容まで変わってしまうため、「収益事業アイデア集」を作成しました。自活編としては「講演活動、他NPOとの協業、出版活動、グッズ販売」、支援依頼編としては「eラーニング視聴後1クリック募金、寄付型クラウドファンディング、企業の福利厚生ポイント連携、製薬会社への支援要請」を提案しました。

最終提案を受けての感想

HIGAN代表理事の鴨川 由美子さん

プロボノの皆さんが練りに練ってくださった業務フローのおかげで、私たちが何をしているのか、何が足りないのか、何をすべきなのかがクリアになりました。

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研究者・医師として会に長年関わってきた理事の八尾 建史さん

自分の専門以外のことには手が回らないまま、ここまで来てしまいました。今回、プロボノの皆さんが外から見た私たちの姿を整理し、対策を練り、ビジョンを示してくれたおかげで、個々の活動を有機的にひもづける初めての機会になりました。

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広報担当の高橋 裕子さん

信念をもって動くことで力が湧き、組織が統一されていくことを改めて実感しました。プロボノの皆さんへの恩返しとして、今度は私たちが成長し、胃癌の患者さんを減らしていこうと心に誓いました。

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プロボノメンバーの感想

  • 北原 沙央里さん
    私は実父を胃癌で亡くしました。私は医療従事者ではないので、人の命を救うことはできませんが、間接的にでも、途上国の胃癌撲滅に貢献できればいいな、という思いで参加しました。HIGANの今後の活躍を楽しみにしております。
  • 後藤 香奈子さん
    一緒に活動したメンバーからたくさんの刺激をもらいながら、世界の課題を解決して、世の中をよりよいものに変えていこうと汗を流している方々の存在を実感できました。
  • 東條 友昭さん
    将来的に、このような社会貢献をやっていけたらとの思いから参加しました。コロナ禍でも、Train the trainerとか、いろいろな形で世界とつながり、貢献できるのはすばらしいことだと思います。
  • 西村 颯真さん
    HPの改善を担当しました。これから20代、30代が支援者や寄付者の中心になっていく中、HPを前向きにリニューアルすることで、若い参加者を増やしていただければと思っています。
  • 政所 あすかさん
    胃癌について何の知識もない状態からスタートしましたが、HIGANの理念や活動内容を知ることで、自分自身の視野が広がりました。
  • 迎 英樹さん
    プロボノは3回目ですが、毎回違っていて面白いです。肩書もさまざまな、すばらしい方々から、ブータンなどのお話を直接聞けて、いい経験になりました。
  • 三好 卓也さん
    コロナ禍で在宅勤務になり、空いた時間で社会のためになることをしたいと思って参加しました。普段なら絶対に出会えないような方々と時空を超えて会話でき、楽しくて、達成感もありました。
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最終提案を終えたプロボノメンバーと胃癌を撲滅する会の皆様

NPO法人 胃癌を撲滅する会

2016年設立。医師・研究者・環境学者が中心となって、途上国で蔓延するピロリ菌、それによって引き起こされる消化性潰瘍、胃癌、リンパ腫を予防し、早期胃癌の発見治療の技術を伝え胃癌死を減少させ人々が健康に暮らせる土台をつくる為に活動している。