食べる人とつくる人で、棚田の風景を守っていく。
サポーター増を目指し、活動や理念の発信方法を多様化

認定NPO法人 山村塾へのプロボノレポート

福岡県黒木町で棚田と山林を守ってきた「山村塾」。伸び悩むサポーターを増やすための「マーケティング基礎調査」に、福岡・大阪・東京のパナソニックの社員9人で構成するプロボノチームがコロナ禍の中オンラインで取り組んだ。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第404号(2021年4月1日発行)掲載内容を再編集しました]

九州豪雨被害の棚田再生
伸び悩む棚田米プロジェクト

山村塾は福岡県八女市黒木町笠原地区を拠点に活動する、1994年に設立されたNPO法人。理事長の小森耕太さんによれば、「2軒の農家と都市で暮らす1家族が発起人となって、棚田と山林を守る活動がスタートしました。農家が都市在住の人に山仕事や農作業の体験の場を提供したり、都市の人が農産物を買い支えるなどの交流を続けてきました」
学生時代からボランティアとしてかかわってきた小森さんは、2000年に職員になった。ところが2012年7月、笠原地区は九州北部豪雨に見舞われ、土砂災害による大きな被害を受けた。「山村塾は地域の災害支援や農地復旧に乗り出し、再生した棚田の米を年間契約で販売し、食べる人とつくる人が一体となって棚田の風景を守る“笠原棚田米プロジェクト”を始めました」

災害を機に寄付やボランティアが増え、事業規模や組織は急拡大した。「一方で、組織の体制や事業の整理が追いつきませんでした。そこで、2018年、19年に『Panasonic NPOサポート ファンド』の助成を受け、組織のあり方を見直しました」という。
組織基盤強化に取り組みつつも、災害から時間が経つにつれ、復興支援としての「笠原棚田米プロジェクト」のサポーター会員数が伸び悩んでいた。同じく棚田保全を目的とした、農家と一緒に米を育てる「稲作コース」がすでに存在したこともあり、その違いを明確にできていないことも課題になっていた。「今後の事業展開や、山村塾の理念を多くの人にどう伝えていくかを考えるためにも、プロボノの力を借りることにしました」

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認定NPO法人 山村塾
理事長 小森耕太さん

現在、「笠原棚田米プロジェクト」では、山村塾と農家8軒が生産した棚田米を81人に届けている。新規購入者をさらに開拓するために、プロボノチームは2020年8月18日から「マーケティング基礎調査」に取り組み、2021年2月14日にオンライン会議で最終提案を行った。

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契約農家が笠原地区の棚田で栽培した
お米を定期発送

お得感を求めない入会希望者
プロジェクト意義の訴求が有効

プロボノチームはまず、棚田米の生産農家や山村塾とターゲット層の近いNPO、棚田米の大口顧客などの関係者にヒアリングを実施。プロジェクトに対する印象を聞き、提案やアドバイスをもらった。さらにサポーター会員や退会者、未加入者(潜在的サポーター)計241人にアンケートを送付し、一部の方に追加ヒアリングを実施。その結果、「会員の85%が福岡県在住で60代以上が半数を占め、口コミが大半ではあるが、他の人に推奨してくれる割合は高くないこと」「退会者の70%が災害の翌年に入会していて、つながりや体験の場を期待していること」が見えてきた。また、未加入者のうち入会希望者は「お得感は求めない傾向にあり、それよりも、プロジェクトの意義の訴求や地縁者へのアプローチのほうが有効」だとわかった。

これらの調査結果から課題を整理し、提案や気づきを抽出して表にまとめ、「新規会員開拓のための改善案」を提案した。
たとえば、コロナ禍でインターネットの利用が増え、企業もSNSでのキャンペーンを展開していることから、「バーチャルふるさとづくり」を挙げた。「SNSやYouTubeで山村塾のメンバーが得意な分野に関する情報を発信し、オンラインコミュニティでサポーター同士がつながれる場をつくる」というもので、まずは黒木町を「第二のふるさと」と思ってもらうことを狙いとした。さらに「山村塾の思いがダイレクトに伝わる専門ページをつくり、会員が紹介したいと思う相手に拡散してもらうこと」という案も共有された。
続いて、プロボノチームは新規購入者のペルソナ(架空の人物像)をいくつか設定し、「山村塾の他コースの参加者に米のサンプルを提供する」といったアプローチ方法を紹介した。
さらに、棚田米プロジェクトが棚田の維持や農家支援だけでなく、環境保全や減農薬による食の維持にもつながっていることから、SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた活動であることをプレスリリースしてはどうかと、その例文を提示した。

SNSやYouTubeの活用を検討
具体的な方策へブラッシュアップ

最終提案を受け、山村塾の小森さんは、「農山村地域の団体は週末こそ都市部からのボランティアでにぎわいますが、運営については相談できる相手が限られ、孤独を感じてきました。これだけ多くの方が、商品開発やウェブデザインなど普段のお仕事の多様な視点から、事務局の立場に立ってかかわってくれたのはありがたいことです。関係者へのアンケート・ヒアリングでは、みなさんに間に入ってもらったことで率直な意見を引き出せた。また、山村塾と疎遠になっていく関係者や、支援や参加を迷っている方へのアプローチが足りていないことにも気づかされました。棚田米を発送する際にニュースレターを同封するだけでなく、SNSやYouTubeを活用した双方向のコミュニケーションを図れないか検討していきます」と言う。

コロナ禍のため全メンバーが顔を合わせる機会はオンライン上に限られたが、プロボノのチームリーダーを務めた久保山武さんは、「大人の部活動という感覚で取り組もうとしていたら、メンバー全員が自分ごととして主体的に取り組んで、多くの知恵とアイディアを集めることができた」と話す。
今回、山村塾に1週間滞在した内藤茂樹さんは、「小森さんの熱い語りを聞き、ヤギのかわいさに触れました。散歩していると、農家の方が『今日は何もあげるものがなくてごめんね』と話しかけてくれた。プロボノは終わっても、何らかのかたちで協力していきたい」と山村塾への思いをにじませた。
日頃は海外向けの仕事をしている高橋恵莉子さんは、「身の回りの食や暮らしを見直せたことはポジティブな体験でした。引き続き、自分に何ができるのか考えていきたい」と話し、普段から地方創生に強い関心をもっているという松田賢治さんは、「今回のプロボノで農山村の課題や地域の方の思いを直接伺うことができ、自分の経験が地方創生にどう活かせるのかイメージできるようになった」と手応えを語った。

この日の提案は、山村塾とプロボノチームとの合同ワークショップを経て、より具体的な方策へとブラッシュアップされる。

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最終提案を終えたプロボノメンバーと山村塾のスタッフ

認定NPO法人 山村塾

福岡県八女市黒木町笠原地区の2軒の農家と会員有志によって1994年に設立。2014年にNPO法人化。都市と農山村の住民が一緒になって棚田や山林を守る活動と、活動を支える交流事業や研修会などを行っている。稲作コース・山林コース・笠原棚田米プロジェクトなどを実施。