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パナソニックは、2011年4月より、社員の仕事のスキルや経験を活かしてNPOを支援するボランティア活動「Panasonic NPOサポート プロボノプログラム」を実施しています。震災復興支援を手がけるNPOをプロボノでサポートする取り組みもそのひとつ。社員6名で結成されたパナソニックプロボノチームは、2017年11月から約4カ月かけて、「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(KVOAD)」の議事録をデータベース化し、資料の整理・分析を支援しました。
2018年3月17日(土)に、「Panasonic Wonder LAB Osaka」で最終報告会が行われ、KVOADのスタッフ4名とパナソニック社員6名が今回のプロジェクトを振り返りました。
被災地での課題を共有する「火の国会議」の膨大な議事録
今回のプロボノ支援先の「くまもと災害ボランティア団体ネットワーク(以下、KVOAD)」は、2016年に起きた熊本地震本震直後から始まった「火の国会議」をきっかけに「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)」のサポートのもと、複数の県のNPO団体が集まり、被災者へ効率的な支援を行うために7月23日に設立されています。産官学民の枠を超え、県域で活動する団体・個人を問わず、お互いに協力し、被災地域の現状やボランティア活動の課題を持ち寄って情報交換を行い、ベストでスピード感のある支援を実現してきました。
当時の様子を、KVOAD代表・樋口務さんはこう振り返ります。
「地震発災直後、被災地の課題を共有・解決するため、さまざまな団体が集まって、2つの大きな会議が開催されました。『火の国会議』は、4月19日の初回から2カ月間、毎晩行われました。『県・社会福祉協議会・NPO等連携会議』は週2回の開催。ほかにも地域ごとに数々の会議体があり、そちらにも出向いて情報を集め、問題解決に奔走しました」
ボランティア団体と国・県の行政、企業や大学などと連携し、避難所関連の課題から在宅・車中泊の避難生活のなかで起こる困りごとの解決、支援活動のコーディネーションまで、多岐にわたる中間支援を行ってきたKVOAD。
その一方で、もう一つの困った課題に樋口さんは頭を悩ませていました。それは、膨大な議事録の管理。議事録は、1回の会議だけでA4用紙におよそ30枚にも及びます。議事録には各会議で議論された復興支援活動のすべてが事細かに記録されているのですが、議事録をもう一度見直そうとすると、おびただしいファイルの中から必要な情報を探し出すことさえ一苦労という状況でした。
「2017年6月に、JVOADの全国フォーラムに参加した際、ある方から『火の国会議の議事録って読みにくいですよね』と指摘されたことがありました。その時、『この蓄積された議事録を、他の人でも見やすく、活用できるようにデータ化する必要がある』と気付かされたんです。とはいえ人材不足でなかなか着手できずにいました」
そこで今回のプロボノプロジェクトは、熊本での震災復興活動の全貌が記録された議事録などをデータベース化し、課題やノウハウを整理することで、今後もしどこかで災害が発生した際にも役立ててもらおうという目的で動き始めました。
議事録から課題を抽出、今後に活用できる形に
パナソニックプロボノチームのメンバーは、いずれも関西に勤務するパナソニックの社員6名。メンバーは、まず2017年11月に熊本を訪問。プロジェクトマネージャーを務めた田中正和さんは、「震災から1年半が経っていましたが、震災の痕は想像以上でした。何年もかけて発展した街が元に戻るのは、いったい何十年かかるのか想像もつかない。そういう現実を、1日だけでしたが肌で感じることができました」と当時の衝撃を振り返ります。
関西にいるとなかなか知ることのできない現状を目の当たりにしたことで、ますます気が引き締まったメンバー。
そして、議事録のデータベースを作成するべく、大阪と熊本という離れた場所で、ファイル情報共有サービス・シェアポイントを駆使した遠隔プロジェクトが始まりました。
まずは、250件ある議事録を、メンバー1人当たり40件余りに割り振りし、整理し始めました。とはいえ、中途半端な整理方法では、まとめたものの結局使い勝手の悪いデータベースになってしまう恐れもありました。
そこで、何が整理されているのかをわかりやすくするために、キーワード検索などの“仕組み”を充実させることを提案。6名それぞれが割り当てられた議事録をすみずみまで読み込み、「課題・ノウハウの内容」、「発生地域」、「日付」、「会議名」を抽出項目とし、その中でも現場の生の声をそぎ落とさない様に細心の注意を払い整理していきました。
さらにタグ付けや、キーワード、時系列を設定。「避難所」、「入浴」、「ブルーシート」といった課題項目から関連情報を抽出できるように整理し、「子育て世代」、「子ども」、「高齢者」、「障がい者」など対象者も分類。
さまざまな検索方法を設定することで、膨大な議事録の中から誰もが簡単に必要な情報を探すことができるデータベースに仕上げました。
最終報告会では、KVOADの皆さんからは評価と考察、パナソニックプロボノチームからは今回のプロジェクトの感想が語られました。
「今回、パナソニックプロボノチームの皆さんへは感謝の言葉しかありません。今回、整理していただいたシェアポイントは、外部へと広めていきたいと思っています。熊本だけで閉じ込めておくのはもったいない。全国にお知らせしたいし、次の被災地に引き継いでいきたいと考えています。今後、メディアへの提供はもちろん、電子媒体、全国の市町村単位まで配布していきたいと考えています。次に活かせる成果が出てとてもよかったと感じています」
「最初はプロボノチームのメンバーと場所も離れているし、頻繁に熊本へ来ていただくわけにもいかないので、何をサポートいただこうかというところから話し合いを重ねました。その中で、『火の国会議』や数々の会議で蓄積されてきた資料の電子化・分析をお願いするという運びとなりました。最初は情報の共有をどうしていくかというのが課題でしたが、シェアポイントの中でさまざまな資料を共有しながら進めました。今後は熊本だけでなく、全国で活用してもらえるようにしていきたいと考えています」
「改めて最終報告会でお話を聞き、作業の正確さ、そして速さに驚いています。せっかく膨大なデータを整理していただいたので、活用できる形にしていきたいと思っています。今後、大勢の方にしっかり活用してもらえるよう、分かりやすくどうまとめるか、どう使えるかを考えている最中です。大変な作業をありがとうございました」
「どうしても人手不足で、なかなか着手できなかった『火の国会議』議事録の膨大なデータをまとめていただき、それだけでも感謝しています」
支援と同時に熊本の“今”に向き合い続けた4カ月
パナソニックプロボノチームからも一人ひとりが今回のプロジェクトを振り返りました。
「プロボノに参加させていただいて、熊本の現地に実際に行くことができ、熊本の現状を改めて知ることができてよかったと思います。議事録を実際に見させていただくと、読みながら思わず涙が出てくるような被災もありました。これからも、時間がある時にできあがった資料を読み返し、熊本地震への理解を少しずつでも深めていけたらと思っています」
「今回のプロジェクトは、どうすれば今後も使ってもらえるかということを一番に考えながら取り組みました。膨大な情報がつまった議事録をすべて読まなくても、支援活動で生じた課題の内容を把握することが可能になったと思います。キーワード検索や、時系列に分類したことにより、統計化もしやすくなったのではと感じています。KVOADさんから喜びの言葉をいただき、『使えるものができてよかった』と感じています。今後、これらを分析し、考察したり、結論を出したり、いかに次につなげていくかが大切だと思います。
今回のプロジェクトに入らせていただき、議事録からたくさんのことを学ぶことができました。実際に現地へ足を運び、議事録を読ませていただいたことで、よりリアルに理解できたし、課題は今もまだ続いていて、風化させてはいけないと感じました」
「今回、プロボノに初めて参加しました。議事録を抽出してデータ化する作業の中で『使える資料にできるだろうか』という不安がありましたが、実際に役立てていただけること、喜んでいただいたことは本当によかったと思います。このプロジェクトはこれで終わりですが、実際は今もまだ支援活動は続いているので、今後もできる事があれば続けていきたいと思います」
「私は大分出身なので、熊本をとても身近に感じています。個人的にボランティアへ行ったこともあり、KVOADさんという中間支援団体の重要さを身を持って感じました。各団体と情報を共有し、支援団体の橋渡しをしながら、かつ毎日会議をやり続け、その上で議事録をしっかり書かれていたということは、震災直後のあの忙しい中で本当にすごいことだと思います」
「今回のプロジェクトでは、接点のなかった社内の方と一緒に、遠く離れた熊本にいる方々と作業するため、困難なこともありましたが、全員で協力しKVOADさんに満足して頂けるサポートをすることができました。また、このプロジェクトがきっかけで2週間の現地ボランティアに参加した際に、『火の国会議』も見学させて頂きました。シェアポイントを活用した会議の進め方が素晴らしく、『こうして築き上げて来られたのだな』と伺い知ることができ、勉強になるところがたくさんありました。」
「震災後、実際にこれだけの数の会議が開催されていたことだけでもすごいことですが、これほど綿密に議事録を残しておられるというのは本当に奇跡だと思います。その一行一行が重要な内容ばかりで、非常に重みを感じました。メンバー全員と相談し、『この議事録を活かすには、内容をすべて読んで中身を抽出していくしかない』と腹をくくり動き出しました。KVOADさんから喜びの声を頂けたのが、いちばん嬉しかったです。震災については専門ではないですが、今までの自分の経験や知識をつぎ込めたのかなと思います。これだけ打ち込めることができ、達成感もありました。今回の『チームくまもと』は、年齢・性別もさまざまで、多種多様な部門で仕事をしており、それぞれの個性がうまく発揮されて、より大きな成果につながったと思います」
報告会の最後に、プロボノプログラムを担当するCSR・社会文化部の東郷琴子が挨拶しました。
「このプロボノプログラムは2011年からスタートし、2012年からは関東の社員が中心となって東日本大震災の復興に取り組む団体を応援してきました。今年は熊本の震災復興に向けて、関西でプロボノチームを立ちあげて応援していきたいと考えていました。そんな時に熊本を訪れる機会があり、KVOADの樋口さんと初めてお会いして現状を伺ったことがきっかけで、このプロジェクトが動き始めました。
今日の最終報告会で、改めて4カ月間の取り組みをまとめて伺いましたが、大変意義のあるプロジェクトに仕上がり、また実際にKVOADさんにこんなにも喜んでいただけて、とてもうれしく思います。そしてさらに、チームが手がけた成果物が全国へと波及し、今後災害が起きた地域にも参考にしていただけたらと思います」
日頃の業務で培ったビジネススキルや得意分野が社会貢献につながるプロボノ。今回は、4カ月という期間の中で被災地の復興支援の現場に向き合い、チームで解決するという内容の濃い時間を過ごすことができました。
パナソニックはこれからも社員の経験を広く社会のお役に立てる「プロボノ」の取り組みを通じて、NPOの事業展開力の強化を応援し、社会課題の解決促進に貢献してまいります。
最終報告会を終えて