社員の仕事のスキルや経験を活かしてNPOを支援する「Panasonic NPOサポート プロボノプログラム」。来年20周年を迎える「認定NPO法人テラ・ルネッサンス」の講演事業の「価値」を可視化するため、8人の社員がチームで取り組んだ。
新型コロナウィルスの影響で、ほぼオンラインのみで実施された初めてのプロボノプロジェクトだったが、12月4日の最終報告では多くの意見交換がなされ、参加した一同の充実した笑顔で締めくくられた。
何のための評価か?
異なるメンバーの得意分野を最大限に活かして、課題を絞り込み
「認定NPO法人テラ・ルネッサンス(以下、テラ・ルネッサンス)」は2001年に設立して以来、「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目指してウガンダやカンボジアなど世界6カ国で、地雷や紛争の被害者、元子ども兵の生活再建に取り組んできた。国内での啓発活動も設立当初から精力的に取り組む活動の主軸事業だ。
「2021年に20周年を迎えるにあたって、創設からずっと実践してきた講演事業を振り返り、社会的な効果を評価し、ブラッシュアップできないかと考えていた時に、プロボノという仕組みがあることを知り、プロの視点と知恵と経験をお借りすることにしました」とテラ・ルネッサンスの啓発事業部職員、栗田佳典さんは今回のプロジェクトに取り組んだ理由を説明する。
この要望に対して、全国から8人のパナソニック社員が手を挙げ、2020年8月21日にプロジェクトがキックオフ。まずは、団体やNPOへの理解を深め、「何をどのように評価するのか」の議論から始まった。「評価と一言でいってもいろいろある。何のための評価なのかというところの議論から入りました」とプロジェクトマネージャーを勤めた本田杉子さんは振り返る。
プロボノチーム初体験から、数回目という社員まで、背景も経験も違うメンバーだったが、チーム内での勉強会を何度も開催し「社会への影響度」の評価方法や既存の事業評価指標を調べるなどスキルアップを図った。同時に、それぞれの得意分野を活かしたビジネスアナリストチームとマーケッターチームに分かれ、テラ・ルネッサンスの既存のデータを分析し、事業評価の軸を決めた後、必要な新規のアンケートとヒアリングを実施した。
新型コロナウィルスの感染が深刻化する中、打ち合わせやヒアリングもほぼオンラインという初めての状況下だった。「すべてオンラインで、コミュニケーションはどうなることかと心配しましたが、会社もリモートなので、わりとスムーズに行きました」とアナリストチームで財政面の分析を担当した西和哉さんは話す。
地道な講演活動が若者の人生に影響を与えている。
3つの観点から団体の強みや社会への影響を測る
プロボノチームはまず、「その評価をどのように使いたいのか」を団体にヒアリング。それに基づいてこれまでの講演会の参加者アンケートや寄付者についてなどの既存データの分析と、新規のアンケートやヒアリングを実施した。
そして、そこからテラ・ルネッサンスがもたらす社会への影響を「ファイナンシャルアビリティ(社会貢献に対する財力・財務能力)」「行動変化の促進」「平和活動に貢献する人材の育成」という3つの観点から定義し、これらに基づいて事業評価と今後の取り組みへの提案にまとめた。
「ファイナンシャルアビリティ」は、同じような活動を実施しているNPO4団体と比較。テラ・ルネッサンスは成長率の伸びが突出し、事業も効率的に回せている一方で、安定運営のためには自主財源の確保が必要であることが見えてきた。さらに複数のNPOの財源構成を調べ、「助成型」「バランス型」「寄付型」と分類すると、テラ・ルネッサンスは助成費・事業費・会費・寄付のバランスが取れた「バランス型」である一方で、年間180回と講演数が多いわりに寄付・会費の獲得につながっていないのでは、という点が挙げられた。
「行動変化の促進」については、会員データをもとに「入会のきっかけ・理由」を分類したところ、半数以上を「講演系」が占めていることがわかった。
「平和活動に貢献する人材の育成」を評価するにあたっては、団体に関わった学生や新旧インターン、講演会主催者の先生などにヒアリングを実施。講演を「現実を知ってもらうためにする話」と「進学や就職などの進路を考える時期」などでの接点という2段階構成で考え、講演後にオンラインコミュニティなど、つながれる場を提供することで、その後の行動変容に大きく寄与できることがわかった。インタビューで出てきたキーワードのマッピングでは、「居心地がよい」「リアルな実態が分かる」「内発的で深く心に残る」などの特徴がある一方で、「共有する相手が限定されて」いた。そのことから、テラ・ルネッサンスと会員と聴講者が相互につながる「メッシュ型の関係性」や、さらには現地の当事者の声を直接届ける仕組みなどがあれば、関係の継続性はより高まるという仮説ができた。
マーケッターチームで参加した藤井圭子さんは「ヒアリングで衝撃だったのは、高校でテラ・ルネッサンスの講演を聞いて、大学は国際関係に進むと決めた生徒がいたということです。講演が人生に影響を与えている事実を目の当たりにし、感動しました」と言う。
教育機関での講演に力、その原点からさらなる飛躍への視点がみえた
今回のプロボノプロジェクトの窓口となった事務局次長 小田起世和さんは報告会を心待ちにしていた。「皆さんのおかげで、創設者の鬼丸や栗田が20年近く取り組んできた、その本質に触れることができた気がして、うれしく思いました。また、20周年以降、テラ・ルネッサンスは何をしていけばいいのか、その仮説をもらえました。明日からの仕事が、また楽しみになりました」と語る。
最終報告提案の後の質疑応答では、テラ・ルネッサンスのスタッフから次々と質問があり、提案をさらに深め、新たな展開を考えるきっかけともなった。
例えば、電子マネーなどの対応について「クレジットカードや銀行振込、郵便振替、現金書留などが主で、電子マネーやポイントにはまだ着手できていない」という団体スタッフに対し、プロボノメンバーからは、今後の資金調達の仕組みとして、「福利厚生で会社からポイントを付与されても、使い切れないことがある。そういう端数を寄付に回してもらえるよう、管理しているプラットフォームに交渉してみるといいかもしれない」といった提案も新たに出た。
「講演数の多さが寄付・会費収入と相関していない」という課題も、教育機関での講義に力を入れてきた結果であり、長い目でどのようにかかわって欲しいのかを明確にすることで、支援者の増加などプラスに転じるポテンシャルが高いという議論も生まれた。
今回プロボノ初参加の坂本直子さんは人材育成の影響を調べるヒアリングを担当。「影響を1番受けたのは私でした。講演を聞いた方や元インターンの方、プロボノメンバーの声にも影響を受け、出会いこそが変化を生むことを実感しています」と話す。
テラ・ルネッサンス創設者であり、理事の鬼丸昌也さんは「私たちの講演を聞いた方々の心がどう行動に変わり、世界を変えていくのか。その重要なプロセスを探ることができました。プロボノの皆さんに、自分たちでは気づけなかった新しい視座と視点と視野を提起していただけたことは、20周年以降、運動を飛躍させていく大きなきっかけになりました」と期待を込めて言う。
栗田さんの声にも力がこもる。「私たちが拾えなかった講演会参加者や元インターンの深い本音を、プロボノの皆さんが引き出してくれた。外から関わり、伴走してくれたおかげで、後回しにしてきたことに着手でき、活動を加速していく原動力になりました。これを次の10年に繋げていきたい」
プロボノメンバーの感想
- プロボノメンバーの熱い情熱を感じられ、またテラ・ルネッサンスがいろいろな人を巻き込みながら活動していることも知りました。
- 中学の時に初めて途上国に関する講演を聞いて国際問題に興味をもち、高校時代にベトナムへ行き、大学の時にはフィリピンで1カ月ボランティアをしました。プロボノを通して改めて、講演が人の意識に種をまき、その後の行動に影響を及ぼすことがわかりました。
- プロジェクトに参加した理由を考えてみると、私自身が子どもの頃から、どこかでこういった問題を見聞きしてきたことを思い出しました。テラ・ルネッサンスの講演が子どもたちの耳に残り、10年後、20年後の活動につながっていくのではないかと期待しています。
- テラ・ルネッサンスの活動は「何のためにやるのか?」から始まっていて、関わった僕ら一人ひとりが啓発され、アンバサダーになっていく。プロジェクトは終わっても、それぞれの立場で、この活動を広げていくことはできるのではないかと思っています。
認定NPO法人テラ・ルネッサンス
「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目的に2001年10月に設立。現在、日本を含む6か国で「地雷」、「小型武器」、「子ども兵」、「平和教育」という4つの課題に取り組む。現場での国際協力と同時に、国内での啓発・提言活動を行うことによって、課題の解決を目指している。