特定非営利活動法人 アクセプト・インターナショナルの組織基盤強化ストーリー

ソマリアなど4ヵ国で、テロリストの社会復帰を支援
組織診断で組織づくりを見直し、30年後のゴールを明確化

NPO法人 アクセプト・インターナショナル

テロと紛争がない社会を目指し、ソマリアなど4ヵ国でテロリストやギャングの脱過激化や社会復帰を支援している「アクセプト・インターナショナル」。組織診断を受け、見えてきた課題とそこから生まれた長期戦略、国際社会に向けた新たな取り組みについて聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第409号(2021年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

ギャングやテロリストを脱過激化
社会復帰支援こそ問題解決のカギ

「アクセプト・インターナショナル」代表理事の永井陽右さんが最初にソマリアに関心を持ったのは2011年のこと。「3月に東日本大震災が起き、被災地でがれき撤去のボランティアに参加しました。世界中から日本に支援の手が差し伸べられる一方で、同じ時期に東アフリカのソマリアでは干ばつや大飢饉、内戦によるテロの影響で約25万人が命を落としていましたが、危険な地域だからと、十分な援助が届いていないことを知りました」
その年の9月、「世界の大人が行動しないなら自分たち若者が問題を解決しよう」と、紛争から日本へ逃れてきたソマリア人の大学生二人と「日本ソマリア青年機構」を設立。「隣国ケニアの難民キャンプに逃れたソマリアの若者たちと、オンライン通話で話し、現地の情報を集めることから始めました」

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NPO法人 アクセプト・インターナショナル
代表理事 永井陽右さん

そこから、「強盗や殺人、麻薬取引などに手を染めるテロ組織と密接につながるギャングの脱過激化や社会復帰支援こそが紛争解決のカギ」だと気づき、現地に出向いて活動を始めた。「ギャングは当時の僕と同世代の20歳前後の若者たち。少しでも話ができたメンバーを集めてワークショップを開き、不満を聞いて、それなら一緒に社会を変えようと呼びかけることで、距離を縮めていきました。2016年、その活動が大きなギャング組織を解散させることにもつながりました」

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元ギャングやテロリストのメンバーに声をかけ、脱過激化や社会復帰を支援

2017年には団体名を「排除するのではなく受け入れる」という想いを込めた「アクセプト・インターナショナル」と改名し、組織をNPO法人化。現在はソマリア、ケニア、インドネシア、イエメンで、テロリストやギャングなどの紛争当事者が脱過激化・社会復帰を果たせるよう支援をすることで、自主的な投降を増やし、テロ活動などへの新たな加入者を生み出さない取り組みを行っている。
永井さんは「国連人間居住計画CVE(暴力的過激主義対策)メンター」も務め、国連とも連携しながら独自のプログラムを現地で実践している。
「たとえば、ソマリアの刑務所では週3回、テロリストの投降兵・逮捕者一人ひとりに合わせたプログラムを実施。最初のケアカウンセリングでは1時間かけて、その人の過去やテロ行為の背景にある問題意識を丁寧に聞き取り、それを社会で許容される別のかたちに再定義していきます」

組織診断で明らかになった課題
目標達成に向けたプロセスを共有

具体的には、復帰後の社会でつまずいた時の対応策を一緒に考えたり、溶接、裁縫、コンピュータスキルなどの職業訓練を行ったり、外部の社会人を招いての対話セッションなどを行っている。「これまで、88人の投降兵と89人の逮捕者がプログラムを修了。修了証と3万円の生活準備金を渡しました」
社会に出ていく際には、家族などに連絡を取って身元引受人の調整をし、家業手伝いやトゥクトゥク(三輪タクシー)のドライバーなどの現実的な仕事につなげる。このほか、過激化を予防するユースセンターや、ソマリア政府と協働で投降兵や逮捕者を受け入れるセンターも運営している。
一見、活動は順風満帆に見えるが、「年間予算5万円の学生団体としてスタートしてからここまで、組織づくりや経営に関しては自己流で来てしまった」と永井さんは言う。「2017年からはファンドレイジングにも取り組んできましたが、うまくいきませんでした」

そこで「Panasonic NPO/NGOサポートファンド for SDGs」の「海外助成」に応募し、2020年と2021年、助成を受けることになった。
「2020年は外部のコンサルタントに入ってもらい、組織診断を受けました。まず海外や国内事務局、広報など部門の責任者が集まって、組織のビジョン・ミッションについて丁寧にディスカッション。次に利害関係者を整理して、これまで各担当者の中にしかなかった目標達成に向けたプロセスを組織全体で共有しました。そこから、30年後に達成したい目標を詰めていきました」
その結果、「ファンドレイジング体制」に加えて、「人員の増員計画や事業計画の不明確さ、会議体の整備、ボランティアマネジメントの確立」にも課題があることが見えてきた。
「財政面以外の課題や、自分たちの強みやユニークな特徴をどう活かしていくかが大切だということが明確になりました。30年後のゴールに向けて、どんな人材を採用し、どんな陣営で何に取り組むか、中長期の戦略の中に落とし込めたことがよかったと思います」

投降後の若者の生き方を支える
「若者の権利条約」制定したい

その戦略に基づき、ファンドレイジングを包括的に担う「広報・ファンドレイジング局長」として、2020年に採用された河野智樹さんは助成の成果をこう話す。
「企業で営業職を経験したあと、JICAの職員をしていました。目標と計画が明確化したことで、ファンドレイジングの改善に向けた道筋が見えてきました。ビジョン・ミッションを団体全体で共有したことで、自分が何のために参画しているのか考えるようになり、一人ひとりのモチベーションが上がったことを肌で感じています」
「アクセプト・インターナショナル」には、年会費1万円を払った上で週1、2回、活動に熱い思いをもって参加する、約50人の“メンバー”と呼ばれるボランティアがいる。「団体の強みでもある彼らの力を最大限活かすために、年1回だったメンバー総会を四半期に一度に増やしました。21年の継続助成では、外部から経験豊富な方を招いて経営戦略のアイディアを出し合う “バーチャルボードミーティング(仮想理事会)”に取り組みます」

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NPO法人 アクセプト・インターナショナル
広報・ファンドレイジング局長
河野 智樹さん

現場でテロと紛争を解決する活動を続けながら、国際社会に問題提起するという新たな目標も生まれた。「過激化してしまう若者は自らを語る言葉を持っていない。テロや紛争のない世界を本気で目指すなら、私たちの活動だけでは限界があります。だからこれまでの実績をもとに、世に問いたい」と永井さんは言う。
「1989年に『子どもの権利条約』ができて、子どもの権利は以前より守られるようになってきました。一方で、テロ組織の主軸となっている10代後半から20代の若者たちは国際社会から見捨てられ、長期間刑務所に入れられたり、死刑になったりしている。彼らが投降して別の生き方を目指そうと思った時、その根拠となるような『若者の権利条約』を10年以内につくろうと、動き始めたところです」

(団体プロフィール)
NPO法人 アクセプト・インターナショナル
2011年9月に前身団体「日本ソマリア青年機構」設立。2017年4月にNPO法人設立。ソマリア、ケニア、インドネシア、イエメンで、過激化しやすい地域・人々を対象とした「過激化防止事業」と過激化した人々を対象とする「脱過激化・社会復帰事業」を行うことで、テロと紛争の解決を目指している。