特定非営利活動法人 イカオ・アコの組織基盤強化ストーリー
名古屋に本部を置き、フィリピンでマングローブの再生を中心とした地域活性化に取り組む「イカオ・アコ」。組織体制や財源構成、国内支援者の巻き込み不足といった課題と向き合い、組織基盤強化に取り組んだ2年間を振り返ってもらった。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第407号(2021年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]
マングローブ林に年間1万人
助成金頼りの財源構成が課題
イカオ・アコはフィリピンの言葉で「あなたと私」。その活動の始まりを理事長の後藤順久さんはこう語る。
「日本兵としてフィリピンのネグロス島に駐在していたある男性が戦後、フィリピンに残された日系2世・3世の人々を支援してきました。彼の思いを継いで何かできることはないかと、1997年から現地でマングローブの植林を始めたのがイカオ・アコの原点です」
フィリピンのマングローブ林は都市開発や養殖池への転用などのために伐採され、70年代から激減。「沿岸住民は高波の影響をまともに受けるようになり、エビやカニなどの湿地の生き物たちも棲む場所を失い、沿岸漁業の漁獲高が減少しました」
そして現在は、ネグロス島とボホール島で活動を展開している。
「ネグロス島では再生したマングローブ林に竹製の橋を通したことで、国内外から植林やエコツーリズムに年間1万人が訪れるようになり、海鮮レストランが9軒もできました。こうした活動がフィリピン政府観光省から評価され、表彰を受けたこともあります。日本からの修学旅行生がホームステイをして、現地の高校生と街を巡るスタディツアーも開催してきました。山間部でも、森林の再生をしながら生業となる農作物を育てる“アグロフォレストリー”を進めているところです」
一方で、組織運営については「助成金・補助金頼りの財源構成」に課題も感じてきた。「自主事業や寄付の割合を増やし、次の代表に世代交代する組織体制を整えたい」との思いから、後藤さんは勤めていた大学を早期退職するタイミングで「Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs」に応募し、2019年から2年間、組織基盤強化に取り組むことになった。
「名古屋NGOセンターに伴走支援をお願いし、普段の活動の様子も見てアドバイスをしていただこうと、同センター内にオフィスを置かせてもらうことにしました」
中期ビジョンには市民を巻き込む工夫
事務局強化、会員管理システムを構築
まずは10人ほどの中心メンバーで問題点を出し合い、今後の方向性を決めた。そこで出た「硬直化しがちだった運営を改めて、市民を巻き込み、その知恵や力を活かした活動を展開していきたい」との意見を受けて、中期計画を立てた。
「誰が見てもわかりやすいように、4つの事業を軸にした表を作成しました。3年目標や評価の指標も掲載し、この表を確認しながら活動すればPDCAのサイクルが回り、達成の度合いや、現時点での立ち位置がわかる仕組みにしました」
さらに、事務局の体制を強化するために、労働環境を整備してスタッフを1人採用した。「それまで自分以外の日本人スタッフは、現地に赴任しているプロジェクト担当者が1人いるだけで、プロジェクトの補佐と事務局の仕事を私1人でこなしている状態でした」と後藤さんは振り返る。
採用された木村容子さんは、受講していたオンライン英会話の講師がフィリピンのネグロス島出身だったことがきっかけで、イカオ・アコの活動に興味をもったという。
「今回の助成で、NPO やまちづくりの中間支援組織である『ボランタリーネイバーズ』にインターンとして受け入れていただき、組織基盤づくりや理事会を機能させる仕組みなど、多くの学びを得ました。インターン開始後、さっそく理事会を開いてコミュニケーションを活発化。活動にかかわる人も増えていきました」
名古屋市が主催したNPO向けの研修にも参加した。「他団体のチラシを参考に、中期計画のエッセンスを抽出した市民向けのビジョンシートを作成。シートを山折り・谷折りにするとポケットサイズになるもので、興味をもって見てもらえるよう工夫しました」
そして、会員管理システムの構築にも取り組んだ。
「クラウドファンディングや寄付などでつながりのある方々へのメールマガジンの配信、会費の徴収を一括で行えるシステムです。今後はSNSとも連動させて、会員さん同士がお互いの活動状況を確認し合えるような仕組みを考えていきたいと思っています」
コロナ収束後に取り組みたい
現地での研修や流域資源マップ
また、自主事業の割合を増やすために、これまで長期休暇中の学生を中心に受け入れてきた現地での研修を企業にも拡大した。
「2019年に、SDGsをテーマにしたアクティブラーニング(※)やマングローブの植林などを採り入れた社員研修プログラムをある企業で試験的に実施したところ、社内から定員の十数倍の応募があり大好評だったと聞いています。コロナ禍が落ち着いたら再開しようと、他の企業や旅行代理店へのアプローチを続けているところです」と後藤さんは話す。
さらに、財源の多様化を目指して、海外の助成金情報をリスト化した。そのうちの一つに挑戦し、獲得こそ逃したものの、今後もリストをもとに応募を続けていくという。
2020年はコロナ禍で、社会の状況が大きく変わった。「フィリピンに駐在していた日本人スタッフは帰国し、10人いたフィリピンのスタッフも5人に減らさざるを得なくなりました。現地で運営していた『オーガニックカフェMIDORI』も閉店しました」
現地に行けない今だからこそ、国内NPOの活動からも学べるところは吸収しようと、岐阜県の揖斐川流域で環境問題や地域を活性化する活動に取り組んでいる「NPO法人泉京・垂井」と2泊3日のワークショップを開いた。「流域の資源マップをつくり、人的・物的資源を有機的に結び付けていくところなどは、フィリピンでも応用できると思いました」
助成1年目に立てた中期計画も変更を余儀なくされたが、「計画を表形式にしていたのですぐに軌道修正することができました。この2年で学んだ組織基盤強化を今度はフィリピンの事務所で実践し、現地でもNPO法人の認可を受けているので、いずれは自立できるように支援していきたい」と、後藤さんは前向きに考えている。
フィリピンはコロナ禍まで毎年6%を超える経済成長率を記録し、一人当たりのGDPも3000ドルを超えた。
「フィリピンの都市部を見れば、ショッピングモールができ、交通量は増え、発展の様子を肌で感じられます。しかし、その恩恵が収入源の乏しい地方にまで十分行き渡っているとは言いがたく、格差は広がっているようにも思えます。エコツーリズムを発展させることで、今後も環境を保全しながら雇用を生み出し、地方を活性化させていけたらと考えています」
※学修者が受け身ではなく、自ら能動的に学びに向かうよう設計された教授・学習法のこと。
(団体プロフィール)
NPO法人イカオ・アコ
1997年、任意団体としてフィリピン西ネグロス州シライ市をベースに活動を開始。日本人とフィリピン人が国境を越えて協働し、環境保全活動に取り組む。現地住民が活動継続資金を自己調達できるように、職業訓練や収入向上支援も行っている。