認定特定非営利活動法人 スマイルオブキッズの組織基盤強化ストーリー

病気や障がいのある子どもと家族をサポート
組織診断で理念を再確認し、外部への情報発信も強化

病気や障がいのある子どもたちとその家族を支援してきた「スマイルオブキッズ」は、設立15年目を迎え、事業拡大や体制変更を実施。組織内のコミュニケーションのあり方を見直し、新体制を構築したことで今後の可能性が広がり始めた。その3年間の取り組みを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第405号(2021年4月15日発行)掲載内容を再編集しました]

滞在施設運営、きょうだい児保育
体制変更を機に組織診断

横浜市に拠点を置く「スマイルオブキッズ」は、病気や障がいのある子どもたちとその家族を支援している団体だ。事務局スタッフの谷畑育子さんによれば、設立は2003年。「6歳の時に脳腫瘍と診断され、神奈川県立こども医療センターで闘病の末に息を引き取った女の子の父親が、周囲の人たちに支えられた経験から『今度は自分が誰かの力になろう』と立ち上げたのが始まりです」

「スマイルオブキッズ」の主な事業は、「神奈川県立こども医療センターに国内外から治療を受けに来るお子さんと家族のための滞在施設『リラのいえ』の運営、きょうだい児預かり保育、家族に交流の場を提供する重症心身障がい児のためのコンサートなどです」と理事長の松尾忠雄さんは話す。

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認定NPO法人 スマイルオブキッズ
事務局スタッフ 谷畑育子さん

「リラのいえ」はこども医療センターから徒歩5分、1泊1500円で滞在できる。「人生経験豊かなボランティア約70人が、夜8時から朝9時までの当直も含めた5交代制で予約の対応、入退室の案内、清掃、庭の手入れなどを行っています。孤独に陥りがちなご家族を『いってらっしゃい』『おかえりなさい』と温かく送り出して迎える、“第二の我が家”をコンセプトにしています」

また、病室に入れない兄弟姉妹のための「きょうだい児保育」には10人の保育士が交代でかかわっている。
2017年には、新事業として「横浜こどもホスピス」を設立するために別法人を立ち上げた。創設以来の理事長が新法人へ移り、後任の理事長に松尾さんが就任した。その際、支援者からの寄付が新法人へと集中したことから、谷畑さんらは財政面に危機感を抱いたという。

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認定NPO法人 スマイルオブキッズ
理事長 松尾忠雄さん

「支援者の高齢化もあり、このまま行けば収入が先細りになる不安もありました。組織のコミュニケーションや情報開示の不足にも課題を感じていたので、この機会に、第三者であるコンサルタントの視点を採り入れたPanasonic NPOサポート ファンドの組織基盤強化を受けることにしました」

写真:リラのいえ

助成1年目の2018年はスタッフ16人へのヒアリングを行い、組織診断の結果、取り組むべき7つの課題が明らかになった。「今まで活動に関する資料や顔を合わせる機会も少なかったから情報共有が困難だったのではないかなど、それぞれの課題の原因まで明らかにしてもらったことで納得がいきました」

ワークショップで理念を共有
発信力強化に向けICT化を推進

「スマイルオブキッズ」には、設立当初から「愛する子どもたちのために」という理念が自然発生的に存在していたと松尾さんは言う。「家族を支えることが子どもたちの笑顔につながる」という活動の原点にもう一度立ち返るために、理念が組織のそれぞれの事業にどうつながっているのかを可視化した資料を作成。さらに、事務局とボランティアの業務内容を整理して役割を明確にし、これまでボランティア任せだった仕事を引き継ぐために、事務局スタッフを一人増員することにした。
「作成資料をもとに、理念を共有するための計3回のワークショップを開催し、理事、事務局、ボランティア、保育士など、のべ63人が参加しました。ボランティアさんの中には理事が何をしているのかまったく知らない方もいて、いい交流の機会になりました」
さらに、「自分がなぜ活動にかかわっているか、お互いの気持ちを話し合いました。初めて顔を合わせる人も少なくなかったのですが、人となりを知ることで事業を超えて親近感が湧いて、とてもいい雰囲気になり、好評でした」と谷畑さんは振り返る。
そこで助成2年目は、日常のことを話し合う「ボランティア会議」を開催。これを「リラの会」と名づけ、以降も定期的に開催していくことになった。
1・2年目の終わりには、組織の状態を測定する「コミュニティキャピタル診断」を実施した。「2年目はすべての因子で得点が向上しましたが、役割分担をして業務が明確になったことで、自身が役に立っていると感じられる“自己有用感”が特にボランティアさんの間で上がりました」
さらに、外部への発信を強化すべく、ホームページ上で法人紹介動画を公開したり、デザインを学ぶ学生さんの協力を得て、法人パンフレットを作成。またサポーターへのメルマガ配信やSNSによる発信も始めた。「郵便振替だけだった寄付を、クレジット決済も可能にし、マンスリーサポーター制度を新設したところ、約30人の方がサポーターになってくれました。いずれは、クラウドファンディングにも挑戦したいと思っています」

中長期方針を絵本の形で表現
コロナ禍でも寄付が増え絆も深まる

助成3年目は、「中長期方針」の策定に取り組んだ。「利用者や支援者、スタッフから印象的なエピソードを集め、そこから物語を導き出すワークショップを開きました。出てきたキーワードを『スマイルオブキッズの約束』としてまとめ、それぞれの約束とリンクした5つの物語をつくりました」
たとえば「そばにいる約束」のページでは、いろいろな人の気持ちに寄り添い、カラフルな傘を売る傘屋さんの物語が登場する。「最終的には絵本の形にして、7月に会報誌と共に支援者に送り、スライドショーかアニメーションの形にして団体のホームページでも公開する予定です」

写真:絵本

絵本には「今までの経験をもとに、できることを増やしていきたい」、そのためにも「他の団体とのつながりを求めていきたい」というメッセージも込められていて、「団体の目指す方向性を多くの人に知ってもらうことで、活動が広がるきっかけになればうれしい」と谷畑さんは期待を寄せる。

コロナ禍による活動への影響は決して小さくはなかった。特に、1回目の緊急事態宣言が出された昨年4月から5月にかけては大変だったと、松尾さんは当時を振り返る。
「先延ばしできる治療はすべて延期されたため、『リラのいえ』の利用者が激減し、ボランティアさんには30日以上活動を休んでもらい、団体スタッフだけでシフトを回しました。きょうだい児保育も2ヵ月弱お休みし、自主事業収入は減りましたが、寄付は年間で200万円も増えました。再開後も、モチベーションが下がって辞めてしまう人は一人もいなくて、かえって積極性が増し、絆が強まりました。組織基盤強化のための3年間の取り組みがあったからこそ、この危機を乗り切れたのだと思っています」

(団体プロフィール)
認定NPO法人 スマイルオブキッズ
2003年発足。「愛する子どもたちのために」という理念のもと、病気や障がいのあるお子さんと家族の立場に立ち、 神奈川県立こども医療センターを受診する家族の滞在施設「リラのいえ」の運営、きょうだい児預かり保育、家族同士が交流できる場づくりなどの支援活動を行っている。