特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピースの組織基盤強化ストーリー

リベリアでダイヤモンド採掘労働者の自立を支援。
欧米と日本で広報強化に取り組み、支援者層を拡大

ダイヤモンドの採掘労働者を支援する「ダイヤモンド・フォー・ピース」。3年継続して助成を受けており、関心が高い欧米での支援者を増やすための取り組みや、消費行動の変革に向けた啓発活動、今後の展望について話を聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第383号(2020年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

年収3万円の採掘労働者
紛争やテロの資金源にも

「ダイヤモンド・フォー・ピース」代表理事の村上千恵さんはもともとJICAなど、国際協力の現場で働いていた。「婚約指輪を贈られたことを機に、ダイヤモンドについて調べたところ、採掘にかかわる児童労働や強制労働、紛争、環境破壊などの問題があることがわかり、ショックを受けました」
そこで、フェアトレードの概念をダイヤモンドにも応用できないかと、2015年に「ダイヤモンド・フォー・ピース」を設立。産出国として、村上さんが着目したのが西アフリカのリベリア共和国(以下リベリア)だった。

「リベリアは、ダイヤモンドを巡る紛争を描いた映画『ブラッド・ダイヤモンド』の舞台となったシエラレオネの隣国で同じような状況にあるものの、リベリア政府が採掘労働者を組合化したいと考えていることから、まずはリベリア西部のウィズア村でモデルをつくり、他国に展開していくことにしました」

写真
特定非営利活動法人
ダイヤモンド・フォー・ピース
代表理事 村上 千恵さん

ダイヤモンドを手掘りする採掘労働者の暮らしぶりは厳しく、「彼らの年収はわずか3万円。土壁の粗末な家に住み、熱帯雨林や川をトイレにしています。井戸も行き渡ってはいなくて、小学校のない村もあります。採掘権を一度は取得しても更新するお金がなく、無許可で採掘したダイヤモンドは、闇市で採掘費用を提供してくれる“サポーター”の言い値で買い取られる。こうして密輸されたダイヤモンドは紛争やテロの資金源とされてしまいます」

採掘による環境破壊も深刻だ。「リベリアは豊かな熱帯雨林に覆われていますが、森のあちこちに、ダイヤモンドの採掘によってできた人工池が点在しています。荒れた跡地は農地としても使えない上に、マラリアを媒介する蚊が繁殖したり、落ちて溺れる人もいて危険です」
この状況を変えるために「ダイヤモンド・フォー・ピース」は、リベリアの採掘労働者が“サポーター”への依存を断ち切り、自分たちで組合をつくって運営できるよう、自立を支援している。同時に、日本や欧米の消費者にこうした現状を知ってもらい、「採掘・カット・製造の過程で人権や環境に配慮したダイヤモンド」を購入するよう促す啓発活動も続けてきた。

写真:「ダイヤモンド・フォー・ピース」が、リベリアの採掘労働者を支援している様子

消費者の意見をもとに決めた写真
英・米・日で広報活動を強化

ところが、もともとダイヤモンドの問題に対する関心が高い欧米からでも問い合わせは年に1件程度で、支援者の数も伸び悩んでいた。そこで村上さんらはPanasonic NPOサポートファンドに応募し、2018年から広報基盤の強化に取り組むことにした。
「1年目は未認知・無関心層を潜在的支援者にするために、オンラインでの広報に力を入れました。英国の行動変容の専門家から助言を受け、ターゲットとして女性消費者と、人権や環境に配慮した素材でジュエリーをつくるエシカルジュエラーを想定。責任あるジュエリーの原料調達に関するカンファレンスにも英国や米国で参加しました。そして、彼・彼女らの意見を聞きながら、リベリアで新たに撮影した写真を使って英文のウェブサイトを再構築し、フェイスブックに広告を出しました」

パンフレット表紙 指輪を持つ女性

2年目はさらにオフラインの広報に力を入れ、“情報収集や拡散にアクティブな支援者”を増やすために、英文のパンフレットをつくり直した。
「表紙の写真を決める時もターゲットとなる人の意見を聞き、テストを繰り返しました。採掘労働者の写真はモダン・スレイバリー(現代の奴隷)を想起させるというネガティブなコメントが多く、かといってブライダルに寄りすぎた写真も評判は良くなく、最終的には女性消費者の手元の指輪にフォーカスした写真を採用しました」
パンフレットの最後には「紛争やテロとかかわりがないか」「どこで採掘されたか」など、ダイヤモンドの購入時に、ジュエリー販売店で聞いてほしい質問も記載した。「数年前に約30店舗で覆面調査をした時は、答えられた販売店は1ヵ所もなかった。質問する消費者を増やせば販売者の意識も変わっていくと思います」
さらに、英国と米国で行われた前述のカンファレンスに登壇したり、米国デポール大学で講義を行うなどして、活動を紹介した。そして日本国内では、英国の制作者の許可を得て、短編映画『ダイヤモンドの来た道~シエラレオネ 採掘現場の声~』に日本語の字幕をつけ、上映会や感想文コンクールを開催。映画をウェブ上でも公開するなど、積極的に啓発活動に取り組んできた。

ストーリーを共有して
エシカルなダイヤの需要を喚起

助成3年目の今年は、アクティブな支援者がボランティアや寄付者などのコアな支援者として行動を起こせるように、オンラインとオフラインを融合した「愛でつながるダイヤモンドキャンペーン」を計画している。「すでにエシカルなダイヤモンドをもっている人たちのストーリーを写真や動画でサイトに投稿してもらい、シェアすることで、みんなで潜在的消費者に将来の需要を喚起していこうというものです」

2年の助成を終えた今、「助成前にはいなかった欧米のアクティブな支援者が14人に増え、月に一度は欧米から、寄付などの問い合わせが来るようになりました」と村上さんは話す。

写真:特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピース 代表理事 村上 千恵さん

また米国のフィスカルスポンサーシップの資格をもつNPOと契約を結べたことで、今後は、米国からの寄付が所得税控除の対象となる見通しだ。この契約も、1年目に英文ウェブサイトを再構築したことでの成果だと感じている。
「サポートファンドの助成を受けて、行動変容の専門家に入ってもらったことで、ターゲットのペルソナ(ユーザー像)を設定してテストを繰り返し、根拠に基づいて決めていくことの重要性に気づかされました。助成終了後も自分たちで成果を測れるような広報啓発活動の評価制度を今、設計しているところです」

昨年、ウィズア村の採掘労働者に行った調査によれば、約9割が「ほかにいい仕事があるなら辞めたい」と答えたという。
「今年は養蜂を教えているリベリアのNGOの協力を得て、副業としての蜂蜜づくりに取り組みます。収穫量を増やすために蜜源となる熱帯雨林の環境を見直すことが、やがては植林などの取り組みにもつながっていくと思います。収入が増えて採掘権を手に入れれば、ダイヤモンドを正規のルートで、今より高い値段で売ることもできるようになります。人権や環境に配慮したリベリア産のダイヤモンドが国際正規市場に流通する日が、1日も早く来ることが私たちの夢です」

(団体プロフィール)
特定非営利活動法人 ダイヤモンド・フォー・ピース
2014年、任意団体として活動開始。2015年、横浜市にNPO法人設立。2016年、リベリア現地法人設立。2017年、リベリア政府による現地NGO認証。アフリカの手掘りダイヤモンド採掘労働者の組合運営・自立支援、消費者の倫理的な意思決定の促進などに取り組む。