2017年1月18日、東京都江東区有明のパナソニックセンター東京にて、Panasonic NPOサポート ファンドの贈呈式、および組織基盤強化フォーラムを開催しました。
第1部 Panasonic NPOサポート ファンド贈呈式
NPO/NGOの組織基盤強化を応援する助成プログラム「Panasonic NPOサポート ファンド」は、2001年の設立以来、累計329件、4億50万円の助成をしてきました。昨夏に公募した本事業には98件の応募があり、選考委員の厳正な審査の結果、環境分野8団体(助成額1,475万円)、子ども分野9団体(助成額1,500万円)、アフリカ分野4団体(助成額384万円)に総額3,359万円の助成が決定しています。
贈呈式では、パナソニックの役員である竹安 聡の開会挨拶に続き、各分野の選考委員長による選考総評をいただきました。そして助成が決定した21団体に、助成通知書が贈呈されました。
選考委員長からの総評の後は、助成3年目の取り組みを終えたばかりの認定特定非営利法人みやぎ発達障害サポートネットの代表理事 相馬潤子さんが、組織診断を経てどのように組織基盤を強化していったのか、3年間の取り組みと成果を報告しました。
組織基盤強化によって進化×深化を図った3年間
みやぎ発達障害サポートネットは「発達障害のある人とその家族が、人格の尊厳を保ち、安心して暮らせる社会づくりに貢献すること」をミッションとし、子ども支援と保護者等支援の2つの支援事業を行っています。
Panasonic NPOサポート ファンドに応募したのは,事業中心から法人組織を考えた視点を持てるようになりたいという願いからでした。組織診断を経て見えてきたのは,事務局強化,中期計画策定,職員の育成などでした。1年目はコンサルタントにご協力頂き、3年後の目標と取り組みの中期計画と13項目にわたる行動プランを策定。当初、私たちは資金面の安定が一番の課題だと思っていましたが、自分たちに必要なのは「人材の育成」であることが分かりました。
助成2年目は、市民の信頼が得られるよう、専門性を高めるための人材育成、とくにリーダーとして責任が持てる中堅職員の育成に取り組みました。その成果として、年17回のセミナーや研修の実施から、「中堅職員育成講座」のオリジナルプログラムを作成。また、市民の集う新しい活動拠点の確保にも取り組みました。助成3年目には「発達障害児の療育課題実践集」を創刊し、この本を活用した自前講座や「中堅職員養成講座」を含む年19回の研修を実施。当初2名だった会報誌の担当も5名に増え、HPを活用した資金調達を実施。子ども支援の事業毎の登録人数は2013年から比較すると,およそ倍や4倍へと増えました。
この3年間で、私たちは地域におけるハブ的な存在としての一歩が踏み出せたのではないかと思います。今後も活動拠点の新設と発達障害児・者へのフルサポートをめざし「進化×深化」してまいります。
贈呈式は日本NPOセンター常務理事の今田克司さんによる、本年度の助成団体への応援メッセージで閉幕しました。
NPO/NGOへの助成はたくさんありますが、Panasonic NPOサポート ファンドのように組織基盤強化を支援するものは大変まれです。助成1年目の皆さんは、最初は自分たちの組織の現状を知り、目指す組織の姿とのギャップに苦労されるか思います。その「苦しみ」を糧に組織基盤強化に邁進されることを願っています。NPOは市民に参加の機会を提供しながら自立することが重要であり、参加しやすい組織を作るには、何を目指して何に取り組むのか、ビジョンやミッションを確立することが大切です。今回助成の決まった21団体がプログラムを通じて組織基盤を強化し、持続的に発展されますように。助成決定、本当におめでとうございます。
第2部 組織基盤強化フォーラム
テーマ:“参加”によるNPO/NGOの組織基盤強化
続いて行われた組織基盤強化フォーラムには、組織診断・組織基盤強化に関心を持つNPO、NGO、企業や自治体の関係者の方々が多数参加。 パナソニック CSR・社会文化部 部長の福田里香による挨拶に続き、「“参加”によるNPO/NGOの組織基盤強化」と題して日本NPOセンター代表理事 早瀬昇さんが基調講演を行いました。
参加の機会を提供する重要性
NPOは「補助金や助成金、ボランティアや寄付に依存せず、もっと自立しないといけない」と言われますが、NPOの「自立」の概念は「依存しない=他者の世話にならない」ということではありません。NPOにとっての「自立」とは、さまざまな人々のサポートを受けながらも「自己決定」できること。他者の意思決定に縛られずに、主体的に活動する。そのときボランティアや寄付は依存ではなく「協働」になるわけです。
ピーター・ドラッカーは、「非営利組織の経営」の中で「私たちNPOには、対象と支援者の2つの顧客がある」と述べています。支援者もまた顧客であり、商品を提供しなさいというわけですが、ここで大切なのが、私たちNPOは支援者に「参加の機会」を提供することができるということです。NPOは支援者に参加の機会を与えることで自立します。私たちはボランティアに「お願いし、来ていただく」と捉えがちですが、その団体に来たボランティアの方がいきいきと輝く1日を過ごすことができたなら、その団体は「参加の機会」を十分提供できているのではないでしょうか。寄付や支援の依頼は「請う」ことではなく「課題解決のためのプロジェクトへの参加を提案する」ことだと捉えるべきです。ドラッカーは「NPOは参加を広げることで市民を作る」とも言っています。NPOは行政には難しい問題を容易に解決するだけでなく、「参加」を通して「人々」を「市民」に変えていく役割も持っています。
そうした参加型、アドボカシー型の組織を作るためにも、組織基盤強化は大切なことです。ミッションやビジョン、バリューの明確化も、参加する人たちが共感し意欲を高めるための重要なポイントでもあるのです。
基調講演の後は “参加”を推進し組織を発展させている事例として、NPOサポート ファンドで応援した「ファミリーハウス」と「かものはしプロジェクト」の2団体が報告を行いました。
組織の規模よりも質を高めることに重点
ファミリーハウスは、小児がんなど難病の子どもとその家族が、遠方から東京へ高度先進医療を受けに来る際の宿泊施設を運営しています。1993年には、病児と家族を対象とした専用滞在施設「ハウス」の第1号となる「かんがるーの家」が完成。以降、お寺の住職さんや不動産会社、マンションデベロッパーや個人の方々から資産の提供を受けてハウスを増やしてきました。
私たちは元々がドクターやナースといったプロボノの活動から始まっているため、意図的に参加の促進を図っているわけではありませんが、ミッションを達成するには社会と協働するしかないという信念を持っています。そして有償スタッフがコーディネーターとして、自分たちの達成できないことをお願いしたり、協力を得るために動く。さまざまなステークホルダーがいますが、全員がハウスを支える仲間であるというフラットな組織です。関わるボランティアは2010年当時127名だったのが現在は330名、18年前に2000万円だった寄付額も億単位になっていますが、私たちは組織の延命や規模の拡張よりも、ハウスの「質」を高めることに重点を置き、つねに結果を報告することを重視しています。
また、変化する利用者のニーズを見極めることも大変重要なことです。昨今は患者さん本人が泊まるハウス、つまり病院の近隣にあるハウスが求められています。私たちはそうしたニーズに応えるため、パナソニックの社員プロボノチームに協力をいただき、築地市場跡に新しいハウスを建てるための提案書を形にしたところです。
仮想理事会の設置で、高度なアウトプットが実現
かものはしプロジェクトは「子どもが売られない世界をつくる」ことを使命に活動をしています。2007年にPanasonic NPOサポート ファンドの助成を受けて組織基盤を強化し、ちょうど10年。当時600人だったサポーター会員は、現在4500人に増加し、カンボジアでの活動も一定の成果を上げることができたのですが、助成を受けた当時はいくつかのトラブルもあり、現地での活動が停滞した時期もありました。それを突破できたのは、当たり前のことかもしれませんが「たくさんの人が手伝ってくれたから」だと思っています。
例えば、最初は「児童買春撲滅支援」というフレーズだったものを、ブランディングの専門家に入っていただき、現在のキャッチ「子どもが売られない世界をつくる」に変えたり、戦略コンサルタントの協力でサポーター会員制度を充実させたことも会員総数の増加につながりました。会員からの寄付は使途の自由度が高く、現地でミッションを試行錯誤し、事業をスクラップ&ビルドすることが可能となったのです。長期的な事業成果を報告すると「それならもっと応援したい」という好循環が生まれます。また、専門家を集めて行う「仮想理事会」も功を奏しました。それまでさまざまな専門家から異なるアドバイスを頂く中で、どれを優先するべきか苦労していたのですが、専門家の皆さんが一同に会し、ディスカッションしてもらう場を設けることで、非常に高度なアウトプットが実現できました。仮想理事会は、実際の理事会と違って承認を取らないため、事業スピードに支障がないのがメリットです。
現在、活動を展開しているインドは人口が多く宗教や民族が多様で複雑な社会ですが、より多くの参加を促すためには、考えの異なるプレーヤーとの連携がとても重要になります。今後はそこを磨き上げたいと思っています。
続いて、基調講演を行った日本NPOセンターの早瀬さん、事例報告で登壇したファミリーハウスの植田さん、かものはしプロジェクトの本木さんをパネラーとして、フロアディスカッションが行われました。日本NPOセンターの新田さんの進行のもと「持続可能な活動のために“参加”をいかに取り入れるか」をテーマに活発な意見交換がなされました。
最後に、日本NPOセンター常務理事 今田 克司さんから、今回のフォーラムを総括して閉会の挨拶が行なわれました。
団体の立場ではなく、市民目線で“参加”を考える
本日のフォーラムでは“参加”がキーワードでしたが、NPOの活動に参加したい人が増えている一方、テクノロジーが発達している現在、参加のハードルは低くなっています。言い換えれば、NPOがなくても同じ関心を持つ人たちは集まることができるわけで、NPOは自分たちの重要な資源である「人」をきちんと使っていかないと人的資源が集まらす、生き残るのが難しい時代に差し掛かっているのではないでしょうか。
今日は皆さん、団体の立場でどうやって参加してもらうかを考えていると思いますが、むしろ皆さんも一旦、一市民の立場で「何かやりたい」と思ったらどうするかを考えてほしいと思います。魅力的なNPOは見つかりますか?
“参加”したい人が増えている世の中を市民目線で捉え、そうした人たちの参加をNPOとしてどのように促していくか、組織戦略の中でぜひとも考えていただければと思います。
組織基盤強化フォーラムでは、基調講演、事例発表、参加者同士の意見交換などを含め、「参加」をキーワードに学びを深めた一日となりました。今日の気づきが新たな取り組みの一歩につながるよう、ぜひ団体内で共有し実践してください。
フォーラム後には懇親会が開催され、名刺交換も盛んに行われました。懇親会の間に、今回、継続助成の決定した兵庫県のNPO法人 棚田LOVER’sのお二人に、本フォーラムの感想と今後の抱負を伺いました。
ミッションに立ち返ることの大切さを実感
◆私たちは従来より「棚田保全」をミッションとしており、実際の活動としては自然体験や食のイベントも行っています。今回の助成を受け、ミッションも「生物や農の大切さを、実践を通じて伝え、美しい棚田を未来につなげる」という幅広くより伝わりやすいものにしました。それによって私たちの活動自体を伝えやすくなり、なぜ、生物や農の大切さを伝えることと棚田の保全が関連しているのか、理解してもらえるようになったのが大きいですね。今後は米を育てる事業に力を入れて、より多くの参加と協働を得ていきたいと思っています。今回のフォーラムでは「1人ひとりへの対応が大事」という言葉が印象に残りました。規模が拡大しても会員1人ひとりを大事にして行きたいですね。(永菅さん)
◆助成2年目になりますが、これまではスタッフ間の認識がバラバラだったり、参加者にも明確にミッションが伝わっていませんでした。それをコンサルタントの方に入って頂き、整理し共有できたのが大きかったですね。今は経営的に自立するための取り組みを継続しているところで、これから成果を出していければと思います。本日は、早瀬さんが「NPOの特徴は非営利であることよりも自主性があること」とおっしゃっていたのを聞き、初心に返った思いがしました。自分たちの方向性を見失いがちになっていたところに、NPOサポート ファンドでの助成を受け、自分たちのやろうとするミッションに立ち返ることの大切さを実感しています。(井上さん)