語り部が伝える震災時の体験、記憶を伝承する事業
WEB マーケティングとリアル活動による収益化を支援

公益社団法人 3.11 みらいサポート

緊急支援から震災を伝承する活動へとシフトした「3.11みらいサポート」。パナソニックの従業員6人で構成されたプロボノチームが、主軸となる語り部事業の収益化を目指す「事業計画立案」に取り組んだ。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第423号(2022年3月1日発行)掲載内容を再編集しました]

震災支援から震災伝承の連携へ
存続の鍵を握る「語り部事業」

「3.11 みらいサポート」は2011年3月の東日本大震災の際、被災者支援のために宮城県の石巻に駆けつけたNPOやNGOと行政などをつなぐ場づくりから活動を開始した。理事の中川政治さんによれば、「話し合いの場づくりや議事録の記録、支援物資の調整、仮設住宅のまとめ役である自治会長のサポートなどを経て、現在は“震災を伝承する人々をつなぐ団体”として活動している」という。
東北大学災害科学国際研究所と協働の「あの時プロジェクト」では、石巻市南浜・門脇地区の100人以上から3月11日の避難行動を聞き取り、プロジェクションマッピングで可視化したものをHPやYouTubeで配信。2021年3月にオープンした子ども向けの伝承交流施設「MEET門脇」でも、この聞き取りをもとに制作した避難行動の映像を上映している。

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展示や映像で震災を伝える「MEET 門脇」

とりわけ力を注いできたのが、語り部から震災の日の体験を直接聞くことができる「震災学習プログラム(震災の語り部コース)」だ。「巨大地震がいつ起きてもおかしくない日本では、地震の話は“あなた自身”の問題。あなたが行動すれば周囲も動き、避難の連鎖が起きて、たくさんの命を守れる。語り部の言葉を通して、みなさんの意識が変わればと思っています」
津波がどの高さまで来たのかは現地でなければ、なかなか体感はできない。コロナ禍の今、「震災に関心をもつきっかけ」として、語り部のオンラインプログラムも開催している。「これまでは復興予算の補助金で活動を続けてきましたが、2025年度までと期限が決まっているので、活動を継続していくために、震災学習プログラムの収益化に向けた事業計画の立案をプロボノチームにお願いすることにしました」

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語り部プログラムをオンラインで提供

関係者のヒアリングをもとに
HP最適化とワークショップを提案

全国から参加したプロボノチームメンバーは2021年7月11日から、語り部のオンラインプログラムを実際に体験し、団体スタッフや語り部、支援者、オンライン受講者、行政関係者など29人にヒアリングを実施。そこから、団体や震災学習プログラムの評価ポイント、課題、改善点を導き出し、収益改善案をまとめた上で、12月18日にオンラインで「3.11 みらいサポート」への最終報告を行った。
まず、団体の収益基盤の強化を「WEBマーケティングとリアル活動の2本立て」で進めることを提案。集客を蛇口、HPをバケツにたとえ、「バケツに空いた穴をふさぐには、HPを分析して、閲覧者が離脱している箇所を洗い出し、穴をふさぐ必要がある」として、修正が必要な部分の優先順位を示し、「情報の配置がひと目でわかる構成に見直すこと」を勧めた。

語り部事業については、「バケツを大きくすると同時に、HPのコンバージョン(プログラム申し込みの獲得)を増やす必要がある」として、語り部がどこで何をしている時に震災が起きたのかをマップにまとめ、カーソルを当てると語り部のテーマや内容がわかるようにすることを提案した。さらに、震災学習プログラムの一部として「語り部の話を聞いたあと、参加者同士が話し合って“自分事”にするワークショップを加えてはどうか」との意見も出された。「リアル活動」については、同じ宮城県内の仙台から参加したプロボノメンバーの勝又千鶴さんが、「関心を寄せてくれそうな地元企業など約30ヵ所」を営業先としてリストアップ。DM用の素材として、団体の活動やミッション、思い、プログラムの特長、語り部の紹介、受講者の声などを伝える訴求チラシのたたき台をつくった。
同時に、「それぞれの語り部がどこでどんな時に被災し、時間の経過と共に何が起きたかを表にまとめておけば、どんな業種から問い合わせが来ても、コンテンツを組み合わせることでストーリーを展開できるのではないか」と提案した。新たなプログラムメニュー案のたたき台も提供し、語り部が中心の30分・60分のコースから、90分の「震災遺構コース」や120分の「語り部+ワークショップコース」へと誘導することで、収益を拡大していけるのではと期待を込めた。

オンラインプログラムに注目
さらなる収益アップを目指す

また、プロボノチームは過去2年分のデータを分析。公益6期(2019年10月~2020年9月)はコロナ禍の影響でプログラムの提供回数が減ったものの、7期(2020年10月~2021年9月)は収益が前年の倍近くまで伸び、特にオンラインプログラムは200万円も増えていることもわかった。そこから、「WEBマーケティングの実践やDMでの集客、より深く学んでいただくプログラムへの誘導、オンラインプログラム受講者への地元商品や防災グッズの販売」などの方策を打てば、収益アップにつながる可能性も示された。

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最終提案を終えたプロボノメンバーと
3.11みらいサポートのスタッフ

この報告を受けて、「3.11みらいサポート」理事の藤間千尋さんは、「語り部が話す内容の可視化は、必要性を感じつつも手をつけられていない部分だった」と話す。代表理事の大丸英則さんは「私たちの立場に立って、今すぐ取りかかれること、時間が必要なことまで整理いただき、行動に移しやすい改善提案です。できることから進めていきたい」と感謝の気持ちを伝えた。
1月15日にはオンラインでの参加者2人を含む6人が現地で団体スタッフとの最終ワークショップを実施。3時間半にわたる熱のこもった場となった。

プロボノメンバーの東和正さんは「本業でも事業計画に携わり、今回は多様な考えの中からこそ生まれてくるものがあることを改めて実感しました」と手応えを語る。また大澤八千代さんは「テレビで見ることしかできなかった被災地のことを、オンラインでのかかわりであっても十分リアルに感じられ、私たちもこれから大震災に見舞われる可能性があることも改めて考えさせられました」と、震災が“自分事”になった様子だった。
プロジェクトマネージャーを務めた山崎英明さんは、「専門性の高い活動をしっかりと進めている団体であり、マーケティング活動での集客に取り組むことで、ストーリー性のある語り部事業が共感を呼び、口コミなどを通して認知度が上がるという良い循環が生まれるのでは」と期待する。そして、勝又さんは「宮城にいながら、3.11 みらいサポートさんの存在を知らなかった。3月は東北にとって特別な月。周囲にも、オンライン語り部を勧めています。プロボノが終わっても、このつながりを大切にしていきたい」と話す。

公益社団法人 3.11 みらいサポート

東日本大震災後に発足した「NPO・NGO 連絡会」の事務局機能からスタートし、震災伝承の連携へと活動をシフト。震災学習プログラムの提供や「MEET門脇」の運営などを通して、震災を伝える人と学ぶ人をつなぎ、災害時に大切な命が守られる社会を目指している。