パナソニックは、従業員が仕事で培ったスキルや経験を広く社会に役立て、社会課題を解決するNPO/NGOの事業展開力強化を応援する「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」に取り組んでいます。
今回は7人の従業員がチームを組んで、兵庫県西宮市を拠点に活動している「NPO法人 a little」をプロボノ支援しました。プロボノチームは2021年7月5日から、a littleの活動を紹介した営業資料を作成し、その資料を使ったテストマーケティングを行いました。そして2022年1月11日にオンラインで、営業資料とテストマーケティングの分析結果を最終報告しました。その模様をお伝えします。
地域で困り事を分かち合う場や仕組みを提供
コロナ禍による活動休止中に組織基盤づくりを意識
「NPO法人 a little」は、2015年に子育て世代の女性たちが集まって活動を始め、2019年にNPO法人化した団体です。地域の中で助け合える関係をつくることで、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指し、女性が抱える日常の困り事を分かち合い、自立を応援する活動に取り組んでいます。
おもな活動として、自分自身に向き合い、社会課題を学び合う「学び場」や、おしゃべり会、子育てサロンなどの「つどい場」の提供、産前・産後やひとり親などの家事や育児をサポートする「地域サポート事業」を行ってきました。
ところがコロナ禍によって、2020年4月からの3カ月、団体の活動は休止状態に。その間、運営スタッフ(家事サポートコーディネーター)坂本恭子さんは過去の活動を振り返りました。
「これまでは個人的にやりたいことをやっている感覚でしたが、利用者の方とも理念を共有し、スタッフも安心して活動できるような、組織としての基盤をつくっていきたいという意識がだんだん芽生えてきました」
そこで、企業で働いている知人に相談したところ、「もっと外部の意見を聞いたほうがいい」とのアドバイスを受けました。「外部の人と一緒に、組織のこれからを考えていくことが今必要なのではないか」と考えた坂本さんらは、プロボノに応募しました。
内部・外部に向けたヒアリングやアンケートから
提供価値を訴求し、共感を得られる営業資料を作成
依頼を受けてプロボノチームは、サービスの提供価値をわかりやすく訴求できる営業資料を作成することにしました。そこでまずは、a littleの関係者へのヒアリングと市場調査を行い、その結果を分析。ミッション・ビジョンを言語化するために、a littleのメンバーとディスカッションを重ねました。
これらに基づいた営業用資料と配布用チラシのプロトタイプを作成し、テストマーケティングとして、小児科診療所・鍼灸院・幼稚園・小学校・中学校の4団体2個人にヒアリングを実施。その意見を反映した営業資料を最終提案で発表しました。
ヒアリングでは、「公共性が高い病院などは特定の団体との連携に躊躇するかもしれない」「視座の高い活動だと理解してもらう必要がある」との意見も出たため、営業資料では、「柔軟で多様な子育てサポート」・「地域コミュニティの活性化」・「女性の社会参画支援」によって、サステナブルな街づくりとSDGsに寄与していることを強調しました。
さらに、産前・産後・子育て期というフェーズごとに女性が直面する課題をまとめ、行政のサポートには限界があり、そこをa littleのサービスが補完できることを紹介しました。
サービスの利用者25人にもアンケートを実施。a littleの提供価値として「家事負担が減ることで身体的負担が軽減した」「心理的余裕ができた」「子育ての情報を得られ、ネットワークが構築できた」などが挙がり、85%が「サービスに満足」と答えました。また、利用を決めた理由としては「団体を知っていた」「信頼できる」などと答えた人が90%にのぼりました。
一方で、利用を減らすかやめている人10人に理由を聞くと「利用料金が高い」との意見が多く、短時間利用を可能にするなどして、1回の負担額を下げる工夫が必要なのではないかと提案しました。
家事・育児サポーター(サービスを提供するパートさん)10人にもアンケートを実施。サポートを始めた理由として、70%が「理念に共感したから」と答えたことから、理念を明確にして広く発信することが新規のサポーター獲得に有効だとわかりました。
また、何があればもっと働きやすくなるかという質問には、「スタッフ同士のコミュニケーションの充実」や「日程変更のしやすさ」を挙げる人が多く、コーディネート業務や内部連携ツールの改善が有効だと結論づけました。
さらに、DX化の第一歩として、営業支援ツール「セールスフォース」や「マイクロソフトオフィス」、クラウドサービス「アジュール」を導入。広報力の強化としてホームページをバージョンアップし、インターネットラジオにも出演しました。
最終提案を受けての感想
大和 陽子さん(a little理事長)
課題認識から私たちの役割を整理した、新しい視点を示す資料をつくっていただき、感謝しています。SDGsという言葉を使って活動を紹介できるなんて、考えたこともありませんでした。これまでのアナログ的なコミュニケーションがコロナ禍で難しくなってきたところに、DX化という、今までにない枠組みを示してくれたこともありがたく思っています。
さかぐち ゆうこさん(a little理事)
家事サポートはボランティア精神がないとできない、しんどい労働で、サポーターの収入を上げたいと思っています。外部の利用者を内部に変えていくことで、料金が高いという概念自体を覆すようなうねりをつくりたい。そのためにも理念を浸透させ、共感を得て、自分たちが地域をつくっていくんだという仲間意識に発展させていけたらと思いました。
坂本 恭子さん(a little理事)
この半年間、内部や外部の方々と話す中で、自分たちのミッションやビジョンに、こんなに迷いがあったことに気づかされました。正解のない価値を創造している活動だからこそ、皆さんと正解のないことを話す時間がもててよかった。すばらしい資料をもとに、これから、いろいろな方に語りかけていけることを楽しみにしています。
プロボノチームの感想
- 中谷 将也さん
今回、プロボノを通して、産前産後の女性や特にひとり親の方が家事に苦労している現実を知ることができてよかった。いまの資本主義は、みんなではなく、お金をもっている人だけが幸せになるシステム。私たちが幸せを感じている裏には、不幸になっている人がたくさんいることを意識しないといけません。そこに、社会を変えるきっかけが生まれてくるのだと思います。 - 菊池 祐貴さん
私にも1歳の子どもがいますが、男性は仕事を口実に子育てから逃げることもできる。だけどSDGsに代表されるように、自分さえよければいいという考え方から世の中は変わりつつあります。a littleが向き合う社会課題と活動が社会に伝われば、今までの「当たり前」も変わってくる。家事サポートの価値も認められ、料金も上がっていくのかもしれません。 - 寺尾 篤司さん
サポートを受ける側のリスクを考えると現時点で実現するのは難しいかもしれませんが、将来的に、サポーターを男性や大学生が担っていくのも可能性としては面白いと思います。日本では、男性が育児に参加する風潮が、まだまだ高まっていないと感じています。“日本を変える”なんていう大きなことは、一朝一夕にはできませんが、a littleのような小さな単位で成功事例を作っていくことはできるのではないかと思います。今回のプロボノでは、そのお手伝いということで、個人的にも貴重な経験をさせて頂き、大変勉強になりました。有難うございました。 - 赤岩 夏海さん
営業資料をつくる中で、a littleの活動が行政にどんなメリットをもたらすか考えた時、それが、その街で暮らす個人にとってもメリットになることに気づきました。自分も含めた大きな輪の中で、いろいろなものが活性化されて循環していくことで街や社会や国がよくなる。そのための第一歩は自分の中で完結させず、コミュニティと関わっていくことなのだと気づかされました。
NPO法人 a little
2015年に子育て世代の女性たちが集まって活動を始め、2019年にNPO法人化。
地域の中で助け合える関係をつくることで、すべての人が自分らしく生きられる社会を目指し、女性が抱える日常の困り事を分かち合い、自立を応援する活動を行っている。