DVや虐待に苦しむ女性を自立まで支援。
現状と課題を可視化し、政策提言につなげる資料を作成
認定特定非営利活動法人 オリーブの家
DVや虐待の被害者を支援してきた「オリーブの家」。連携団体とノウハウや課題を共有し、政策提言をしていくための資料をパナソニックグループ従業員によるプロボノチームが作成した。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第475号(2024年3月15日発行)掲載内容を再編集しました]
県内外に保護シェルターを用意
生活の立て直しから完全自立まで
岡山県津山市を拠点に活動する「オリーブの家」の始まりは2011年。特別顧問の山本康世さんは、立ち上げの経緯をこう話す。「私の本業は心理カウンセラーですが、相談者の中に東日本大震災で夫を亡くし、シングルマザーになった方がいたので、仮設住宅ができるまで私の自宅で過ごしてもらいました。そのことが口コミで広がり、DV被害者の相談にも乗っていたことから保護シェルターを運営し始め、2017年にNPO法人を立ち上げました」
現在は、「パートナーからのDVや親からの虐待に苦しむ女性」や「ハラスメントを受けている男性」を対象にメールやLINE、電話、対面で相談に乗っている。「岡山県内には、おもに母子を保護するシェアハウス型と、個人の女性向けのアパートメント型シェルターがあり、さらに遠くへ逃げる必要がある方のために、県外にもシェルターを用意しています」
行政が運営するシェルターの場合、「たとえば子どもの人数が多いと母子が一緒にシェルターに入れず、子どもが児童相談所に保護され、家族がばらばらになってしまうこともある」そうで、民間のシェルターに頼らざるをえない現状がある。
「オリーブの家のシェルターでは心理カウンセリングのほか、シェルターを出た後に再度のDV被害を防ぐためのプログラムを無償で受けることができます。最近では夫や妻、子どもが発達に問題を抱えていて、家庭が機能不全に陥っているケースも多く、病院での受診を勧めることもあれば、夫も含めてファミリーカウンセリングを行うこともあります」
利用者はシェルターにいる間も内職をしたり、連携企業で働くことができる。「シェルターを出る際には居住支援や、住民基本台帳の閲覧を制限する支援措置を受けるための同行支援を行い、出た後も食料支援をしたり相談に乗るなど、完全に自立できるまでサポートします」
しかし利用者が増えるにつれ、他団体からも支援内容を聞かれることが多くなり、「体系的な仕組みやノウハウを説明する資料が必要になってきた」という。一方で資金繰りは厳しく、活動はボランティアに支えられていた。「有給職員は一人もおらず、本来は国の事業として取り組んでもらうことが必要だと考えていて、その提言をしていくためにも資料が必要でした。そこでプロボノに、客観的なデータに基づく資料の作成をお願いすることにしました」
DV問題の現状や課題を提示
対策進む英国・台湾の事例も調査
依頼を受けたプロボノチームの6人は2023年の7月から、「オリーブの家」の職員や支援を受けているDV被害者、連携している団体などへのヒアリングを行い、現状を把握。さらにDV問題に取り組む各国の仕組みを調べ、日本と比較した。その内容を「事業評価プロジェクト報告書」としてまとめ、12月16日に「オリーブの家」が拠点を置く岡山県を訪れ、最終提案を行った。
まずは「日本におけるDV問題の現状」として、相談件数や一時保護者数の推移をデータで見せ、「被害者をDVから守る仕組みの全体像」、財政や地域間格差、加害者対策といった「オリーブの家を取り巻く環境」と「政府が認識している民間シェルターの課題」を提示。また、「オリーブの家」の活動については、医師や法律家とも連携した「専門性」と「多方面からの資金調達」が特徴的であることを示し、事業内容やこれまでの成果を紹介した。
婦人相談所による一時保護者数は減少傾向の一方で、「オリーブの家」の一時保護者数は増加していて、行政で対応しきれていない部分を民間シェルターが補っている現状が明らかになった。同時に、「事業継続に向けた人材の育成」や「民間シェルター同士の連携」「政策提言に向けた情報発信」といった課題も見えてきた。
続いてプロボノチームは「海外の事例」を紹介。DV対策のグローバルスタンダードである「欧州評議会条約(イスタンブール条約)」を批准している英国では、行政機関と民間団体との連携が法的に定められていて、シェルターを束ねる大規模な組織がある。そして台湾では自治体にワンストップの相談窓口があり、DV予防の教育が学校の授業に取り入れられているという。
最後に、「DVは当事者間の問題だけではなく、偏ったジェンダーバイアスを容認する社会の風潮やメディアによる発信など、社会的な背景にも大きな要因がある」として、問題解決に向けた「社会構造のあるべき姿」を図式化して提示。「この資料を社会課題への気づきを促すアドボカシー活動に使ってほしい」と締めくくった。
被害者を生まない予防教育も視野に
当事者間の問題から社会の問題へ
これらの提案を受けて、「オリーブの家」理事の森内忍さんは「第三者の目で課題を抽出していただき、今後取り組んでいくべき方向も明確になりました。諸外国のように、子どものうちからDVについて教育することも大事だと感じました」と感謝を述べた。
理事長の山本礼知さんは、「DVで受けた傷を抱えて生きていくのは大変なこと。被害者を生まないことが必要で、予防にも力を入れていける団体になりたい」と、このプロジェクトを通して考えるようになったという。
理事の砂子浩さんは、「本来は行政がワンストップで対応すべきなのに、ボランティア頼みの民間委託が当たり前になっている。このシステムを変えていきたい」と思いを新たにした。そして特別顧問の山本康世さんは、「海外との比較も調べてくれたので、日本がいかに遅れているかがわかりやすい資料でした。連携団体やこれから立ち上げる団体、新規の支援者とも共有し、政策提言につなげていきたい」と抱負を語った。
プロボノチームのプロジェクトマネージャーを務めた田口晋也さんは、「自分とは関係ない問題だと思っていたDVが、身近なところでこんなに増えているとは知らなかった」、藤井典子さんは、「当事者間の問題ととらえられがちなDVを社会問題としてとらえる視点を得ることができた」と話し、それぞれが学んだことを共有し合った。
さらに川内野恭一さんは、「職場の研修でDV問題について共有すると、数ヵ月前の私みたいな反応が返ってくる。自分が貢献できることは、まずは周囲の人に認識してもらうことだと思う」と、早くもプロボノで得た気づきをアクションにつなげていた。
認定特定非営利活動法人 オリーブの家
DV・虐待・ハラスメント・シングルマザーの悩みを聞き、暴力から離れて自立した自由な生活ができるまで、精神的・社会的・経済的自立をサポート。女性と親子の一時保護シェルターを完備し、専門家による心のケアや個人カウンセリングなどを行う。