中海(なかうみ)・宍道湖(しんじこ)の自然と水辺の暮らしを再生
地域からの評価と期待を次の事業戦略につなげる

認定NPO法人 自然再生センター

中国地方に位置する中海と宍道湖の自然の再生を目指して、2006年から活動している「自然再生センター」。地域市民からの共感度や、どのような活動を信頼・期待されているのかなど、パナソニックの従業員5人によるプロボノチームが調査分析に取り組んだ。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第449号(2023年2月15日発行)掲載内容を再編集しました]

海藻を畑の土壌改善として循環させる
オゴノリング大作戦が交流を生む

島根県と鳥取県をまたぐ、海水と淡水が入り混じる汽水湖の中海・宍道湖。「自然再生センター」は、その自然を再生するために2006年に設立された団体だ。副理事長の小倉加代子さんによると、戦後中海で始まった干拓淡水化事業が、2000年に住民と大学の専門家らの反対運動によって中止に至ったのだという。
「これほど大規模な公共事業を中止させたのは、日本では初めてのことでした。その後、開発により損なわれた自然を再生するために、研究者と住民らが自然再生推進法のもと、法定協議会“中海自然再生協議会”の設立を計画しました。その事務局を担うために設立されたのが自然再生センターでした」

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認定NPO法人 自然再生センター
副理事長 小倉加代子さん

中海ではかつて、オゴノリなどの海藻を刈り取って、土壌改善として畑にまき、農作物を育てていた。しかし化学肥料が台頭してオゴノリは放置されてヘドロ化し、水質が悪化。そこで自然再生センターでは、地域住民とともにオゴノリを刈り取って、畑で大豆やサツマイモなどを育て、最後に味噌をつくるなど“オゴノリング大作戦”を実施。「その中で、高齢の方が若い人に畑のことを教えたり、また、学生さんが将来のことを相談したり……。水に触れ、土に触れながらの作業をしていると、不思議と心を開き安心感から、深い対話が生まれる。自然を通して、お金には代えがたい価値が循環していくのがわかります」と小倉さんは言う。

このほかにも、「漁獲量が落ち込み、復活を目指している伝統食材の赤貝(サルボウ貝)などを食しながら多様な人々と交流する食の会」や「中海と宍道湖につながる天神川に繁茂する水草を刈り取って、土壌改善として循環させる活動」「小学生と地元漁師さんとの交流を通して、中海の豊かさを知ってもらう年6回程度の出前授業」などに取り組んでいる。このように、住民・企業・行政・専門家が連携して、自然だけでなく、「かつての水辺に親しむ暮らし」まで包括的に再生することを目指してきた。

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オゴノリを畑に投入し、大豆やサツマイモ栽培
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伝統食材を食べながら交流を深める
「食の会」
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小学校での環境教育も実施

計75人にアンケートとヒアリング
団体内部と外部の認識のずれを検証

そして2015年と16年は、Panasonic NPOサポート ファンドの環境分野で助成を受け、組織基盤強化に取り組んだ。「さらに次のステップに進むにあたり、これまでの活動が外部からどう受け止められ、どこに向かっていくことが求められているのか、今後の事業戦略を練るためにも、第三者の手で客観的に調べてほしいと思い、今回はプロボノの力を借りることにしました」と、小倉さんは振り返る。
そこでプロボノチームは22年7月5日から、中海自然再生協議会にオブザーバー参加し、天神川の水草刈りなどの活動にも参加。イベント参加者や活動支援者など64人と、理事をはじめとする団体関係者11人にアンケートや個別ヒアリングを行い、その分析結果を同年12月13日、オンラインで自然再生センターに最終報告した。
団体の強みについては、理事とそれ以外の関係者のいずれも「活動目的がはっきりしていること」「研究者と一緒に活動していること」を挙げる人が多く、認識が一致していた。さらなる希望としては「中海の環境がよくなっていることを実感できるイベント」や「複数の学校が参加できる環境保全や環境学習のイベント」の開催を望む声が多く聞かれた。また、団体が中海自然再生協議会の事務局であることを知っている人の割合は8割にのぼったが、5年ごとの計画立案まで知っている人は半数にとどまった。
団体からの情報はFacebookやホームページから得ている人が多いが、団体からはほぼ毎日、情報を発信しているにもかかわらず、週に一度の頻度で見る人が多く、特に見てほしいメッセージは目立たせる必要があることがわかった。総じて、イベント参加者の学習意欲は高いものの、コロナ禍の影響で、遠方からのイベントへの参加を断念している人も多く、イベントの開催方法を考えていく必要があることも今後の課題として挙げられた。
さらに、関係者の属性ごとの評価ポイントを分析すると、「地元の人や研究者との交流やかかわり」「環境保全にかかわれること」を評価する会員に対し、活動支援者は「組織運営の在り方」、行政関係者は「取り組みの幅の広さ」や「センターと市民の一体感」を評価する傾向が見られた。これらの調査結果を、今後の事業戦略に役立ててもらうためにまとめた。

風景や人に寄り添った情報整理
若い世代への情報発信も課題

この最終報告を受けて、自然再生センターの小倉さんは、「大企業のみなさんと地方のNPOが一緒にやっていけるのか、初めは不安でしたが、団体の実態を深掘りし、充実した資料に仕上げてくれて感謝しています」と謝辞を述べ、専務理事の田中秀典さんは、「今後の情報発信の仕方として、若い人たちに向けて、Twitterなども検討していきたい。今回の調査結果をもとに、センターのスタッフと今後どうしていくかを議論する場を設けて、方向性を決めていきたい」と展望を語った。
さらに、プロモーション担当理事の坪倉菜水さんは、「中海・宍道湖の風景や人の心に寄り添った情報の整理の仕方が新鮮でした。SNSに動画をもっとたくさんアップするなどして、子どもたちにも参加を呼び掛けていきたい」と、さっそくTwitterでの情報発信を開始した。
プロボノメンバーの西堀圭さんは「プロボノも、NPOに触れたのも、今回が初めてでした。当初は、私たちが団体を評価する方針でしたが、団体の希望を聞いて関係者からの聞き取りへと変更し、満足いただける結果になっていれば幸いです」と、これまでの経緯を振り返った。
社会人4年目で、プロボノは初めてという青木瑞紀さんは「ヒアリングを通して、地域の方々が思いをもって参加しているのを感じました。データ分析をしたり、スライドをつくったりしたのもいい経験で、これからの社会人生活でもきっと役に立つと思います」と話し、山田敬治さんは「天神川の水草刈りを体験し、中海・宍道湖の美しさに感動しました。NPOから学んだことを、地元の淡路島でも活かして行きたいと思っています。これから青年海外協力隊に挑戦するので、今回の経験をエネルギーに変えていきたい」と、プロボノで影響を受けたことを教えてくれた。

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最終提案を終えたプロボノメンバーと自然再生センターのスタッフ
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現地訪問でのワークショップ

認定NPO法人 自然再生センター

住民・企業・行政・専門家等と連携し、中海・宍道湖流域の自然環境の再生と、かつての湖と人々の親しい関係を再構築するために「オゴノリング大作戦」事業、中海・宍道湖の食を広めよう会、天神川の水草刈り&生き物観察会、次世代につなぐ環境教育などを行っている。