遊びの価値を広める「一般社団法人TOKYO PLAY」
協業を呼びかける団体紹介資料の作成でプロボノ支援
一般社団法人TOKYO PLAY
パナソニックグループは従業員が仕事で培ったスキルや経験を活かし、NPO/NGOの事業展開力強化を応援する「Panasonic NPO/NGOサポート プロボノ プログラム」を2011年4月から展開してきました。
今回は5人の従業員がチームを組んで、「一般社団法人TOKYO PLAY」を支援しました。プロボノチームは2022年7月7日から、内部関係者や外部関係者へのヒアリング、文献調査などを重ね、誰をターゲットとした、どんな団体紹介資料をつくる必要があるか議論し、9月6日に中間提案を行いました。これを受けた団体からのフィードバックをもとに、団体紹介資料をまとめ、12月22日に最終提案を実施しました。
子どもたちの遊ぶ環境が整っていない日本
協業や活動資金につながる団体紹介資料が必要に
子どもの「遊ぶ権利」は、国連子どもの権利条約にも謳われている権利ですが、残念ながら日本は、国連が発表したジェネラル・コメントにも示されているように、その環境がまだ十分には整っていません。「一般社団法人TOKYO PLAY」は、あらゆる立場の人々がこの現状について考え、つながり、行動を起こすためのきっかけをつくり、子どもの遊びが大切にされる社会が実現することを目標に活動している中間支援団体です。
「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をビジョンに掲げ、国レベルでの法整備、自治体における施策、地域の活動など、それぞれの場所でアクションを起こす大人を増やし、それらが連動していくことを目指してきました。
ところが、事務局の大野 さゆりさんによれば、「団体紹介資料がなくても委託事業が入ってきていたため、外部の人に団体を紹介するような資料もない状態だった」といいます。
しかし、これからの活動資金を調達するためには、協業先やスポンサーを探し、助成金や科研費などを獲得していく必要がありました。中には、協業を呼びかけてくれる自治体や企業もありましたが、その際に、活動に対する信頼度を高めるためにも、活動概要や実績、団体の社会的なインパクトが伝わる資料をまとめておく必要がありました。
「まずは紙の団体資料をつくることで、私たちの伝えたいメッセージがクリアになったら、そこを土台として、HPなども整えていこうと考えました。とは言え、自分たちだけではとてもできそうにないので、プロボノの力を借りられたらと思い、応募しました。」
ヒアリングから浮かび上がった
中間支援団体としての存在意義を資料に反映
TOKYO PLAYは中間支援団体として活動していますが、その役割が正しく理解されず、ただの「遊びのイベント屋さん」と誤解されることもありました。そこでプロボノチームは、TOKYO PLAYの支援先や共に活動している関係者、子どもを対象とした他の中間支援団体にヒアリングを行いました。TOKYO PLAYの強みや活動に期待すること、中間支援団体の役割と活動の広げ方などについて聞き、TOKYO PLAYの役割や活動の意義、周囲とのつながり、与えている影響を明らかにしました。これをもとに、行政・地域団体・企業の担当者に、TOKYO PLAYの取り組みや実績を10分程度で説明できる10ページ程度の資料をまとめました。
最終提案では、この団体紹介資料について発表を行いました。
資料の冒頭には、TOKYO PLAY代表理事の嶋村 仁志さんが描いたイメージをもとに完成させた「子どもの遊びにやさしい環境」の図を掲載しました。子どもの根っこを育てるのが「遊び」であり、そこから「知性・創造性・人間関係」などの葉が「子どもの豊かな育ち」となって現れてくることを示したもので、そのためには「企業・行政・まちの人たち・子育て支援者」などが協力して育てていく必要があることを強調しました。
続いて、TOKYO PLAYの活動の目的を紹介し、その活動が必要とされる社会的背景として、子育て世帯の減少や「仲間・空間・時間」という「三間」の減少が子どもの孤独感の増幅につながっているという現状があることを、データを用いて示しました。
さらに、TOKYO PLAYが取り組む「子どもの遊びにやさしい東京をつくる活動」として、「遊びをつくる・遊びでつながる・遊びをまなぶ・遊びを伝える」の4つを紹介しました。
・つくる活動としては、身近な道路を歩行者天国にするなどして、公共空間で多世代が遊びを通してつながる機会を提供する「とうきょうご近所みちあそびプロジェクト」があります。
・つながる活動としては、10月1日の都民の日を「とうきょうプレイデー」と定め、都内各地の「プレイデースポット」で、遊ぶことの大切さを啓発するイベントを開催。同時に、各界で活躍する人たちに、遊ぶことの大切さを300字でつづってもらう「よむよむプレイデー」、子どもの目線で撮った写真のコンテスト「フォトフェス」なども実施しています。
・まなぶ活動としては、子どもの遊びに関わる大人の在り方を専門的に学ぶ「プレイワーク」の一般向け講座やワークショップ、英国のスタディツアーなどを行っています。
・伝える活動としては、メディアや書籍、シンポジウム、学会を通して「子どもが遊ぶことの重要性と大人の役割」や「遊びの場づくりの先行事例」などを発信しています。
そして最後に、TOKYO PLAYが提供できる活動メニューと活動実績をまとめました。
プロボノチームからは今後の資料の活用法として、「一部の活動だけでつながっている人に送れば、ほかにもこんな活動があると知ってもらうきっかけになるのではないか」「資料の中にQRコードを入れているので、興味をもった人をWebページに誘導し、どれだけの人を誘導できたのかカウントするマーケティング活動にも活用してほしい」「コミュニティリーダーになって一緒に活動したい人を募り、もっと上流のまちづくりや都市づくりにも、どんどん進出してほしい」といったアイディアも出されました。
最終提案を受けての感想
嶋村 仁志さん(TOKYO PLAY 代表理事)
お忙しい中、貴重な時間を使って、少しずつ積み上げ、ここまで仕上げていただけたことに本当に感謝しています。こちらのフィードバックが遅れて申し訳なく思ったこともありましたが、その間にも「みちあそび」に来てくださったりして、皆さんと一緒につくる、このプロセスが大事だったんだなと思いました。完成したものをいろいろなところに配るたびに、あの時間があったからこそ、今これを配っているんだと思い出しそうな気がします。これでみなさんと会えなくなるのは寂しいので、いろいろな機会にまた皆さんをお誘いできたらと思います。
大野 さゆりさん(TOKYO PLAY 事務局兼コーディネーター)
こんなニッチな業界のことを、こんなにいろいろな方々に真剣に考えてもらえたことが、まずうれしかったです。その過程で、どれだけ自分たちがメインストリームからずれているかも感じました。自分たちの中では共通理解のつもりだったことが、どうやら伝わっていないことに気づけたことも宝となりました。定期的に支援してくれる個人や団体がないことが課題でもあったので、いただいた資料に寄付の依頼を付け加えて、使わせてもらおうと思います。そのための賛助会員の仕組みも、さっそく整備したところです。
正木 麻沙美さん(TOKYO PLAY 事務局兼コーディネーター)
お金を払って外注したら、こうはならなかっただろうと思えるような「顔が見える資料」になっていました。私たちの遊びもそうで、お金じゃないよさは伝わりづらく、本当に手のかかる団体ではありますが、それが「たかが遊び、されど遊び」ということの真髄なのかなと思っています。発足当時は地道な草の根活動だったところから、社会を変えられるんじゃないかという段階に近づいてきていて、その初めの一歩になる資料だと思っています。
プロボノチームの感想
- 寺本 英夫さん
子どもが大きいので、近頃は子どもの遊びについて考えることもなく、現場に2度行かせてもらい、子どもたちと触れ合うことで課題を実感できました。子どもにやさしい社会の副産物として、人とのつながりや街の安全などが生まれ、子ども中心のネットワークがここまで社会を変えることを体感できました。自分と社会とのつながりが広がったこともありがたかったです。 - 寺井 晴子さん
プロボノは初めてだったので不安もありましたが、このプロボノの仕組み自体がよくできていたし、メンバーの寺本さんも上手にみんなをまとめてくださり、TOKYO PLAYさんにもたくさん助けられ、ありがたかったです。自分たちで考えていく中で右往左往することもありましたが、それもいい経験でした。関わってくださった皆さんに感謝しています。 - 秋山 美緒さん
普段は商品企画や営業企画をしていて、商品に関わる社会課題にしか触れてこなかったので、子どもの遊びという課題に初めて触れ、自分の知らなかった世界や自分の考えが広がっていく感覚がありました。ほとんどが大阪のメンバーでしたが、TOKYO PLAYさんの「スラック」を使わせていただくなど、オンラインを活用することで取り組むことができました。 - 武永 かなえさん
私は新宿のど真ん中で育ったので、土遊びも外で駆け回る経験もあまりしてきませんでした。そんな中でTOKYO PLAYさんのビジョンや活動を見て、こういう遊びが子どもたちにどんどん残っていくといいなと思いました。「みちあそび」では、水鉄砲を撃つ子どもたちの顔がきらきらしていて、それを資料に落とし込めなかったことだけが心残りです。 - 前田 博さん
プロボノは6、7回目です。普段の生活の中では考えることのない、でも社会にとっては大事なことにフォーカスを当てて活動している団体さんのことを、どうすれば多くの皆さんに見てもらえるか。今回は、そこを主体として進めました。私だけが名古屋にいて、皆さんとリアルで会えない中でも、いろいろな解決策をTOKYO PLAYさんにお伝えすることはできたのではないかと思っています。
一般社団法人 TOKYO PLAY
「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をビジョンに掲げ、国レベルでの法整備、自治体における施策、地域の活動など、それぞれの場所でアクションを起こす大人を増やし、それらが連動していくことを目指し、「子どもの遊びが大切にされる社会」の実現に向けて取り組む中間支援団体。