認定NPO法人 アジアキリスト教教育基金(ACEF)の組織基盤強化ストーリー

バングラデシュで子どもの教育支援に30年
危機乗り越え、現地NGOと新たな関係性をつくる

認定NPO法人 アジアキリスト教教育基金(ACEF)

30年にわたってバングラデシュの子どもたちを支援してきた「アジアキリスト教教育基金(ACEF)」。財政危機を乗り越えるために、組織のあり方や現地NGOとのパートナーシップを見直した結果、新事業も生まれた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第456号(2023年6月1日発行)掲載内容を再編集しました]

低識字率、教育の必要性を意気投合
青空教室から、レンガ造りの校舎へ

「アジアキリスト教教育基金(以下ACEF)」は1990年、保健・医療NGOでバングラデシュを支援していた牧師の舩戸良隆さんによって設立された。当時のことを副理事長の河見誠さんはこう説明する。
「当時は特に女性の識字率が低くて、薬の注意書きも読めない人が多く、病気の予防や衛生教育には基礎教育や初等教育が必要だと痛感し、現地の医師ミナ・マラカールさんと意気投合しました。マラカールさんはバングラデシュに子どもたちへの教育を目的とするNGOを創設し、ACEFはパートナー団体として支援していくことになりました」
「寺子屋を贈ること」と「アジアの問題に取り組む若い人材を育てること」を目標に掲げ、「マンゴーの木の下にござを敷いただけの青空教室から始まった寺子屋は、村人たちが屋根をつけ、壁をつくり、徐々にサイクロンに強いレンガ造りの校舎へと変わっていった」という。

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認定NPO法人
ACEF
副理事長 河見 誠さん

「初めのうちは、『農業の大事な労働力が奪われてしまう』『女の子はいつか結婚するのだから』と否定的な親もいましたが、寺子屋で教育を受けた世代が親になると、自分の子どもにも教育を受けさせたいと願う人が増えていきました」
現在は、就学前のプレスクール、5年間のノンフォーマル小学校(正規の学校教育の枠外)、そして職業訓練校の運営を支援。「卒業生の中には、ダッカ大学院に進んで国営銀行の支店長まで昇進した女性や、日系企業でエンジニアとして働いている男性、日本の大学に留学中の女性もいます」

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ダッカ市内の学校で
初等教育を受ける子どもたち

さらに、これまでに800人以上の日本の高校生や大学生にスタディツアーの機会も提供してきた。前事務局長の小田哲郎さんは、「現地の暑さや匂いを感じ、スパイシーなカレーなどを実際に味わいながら、貧困の現実と、その中で生きる子どもたちや農村の人々の姿を目の当たりにする中で、自分との対話を深めてほしい」と話す。参加者の中には、国際開発研究の道に進んだり、国連やユニセフで働いたり、医師や牧師、ジャーナリスト、開発コンサルタントになった人もいる。

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認定NPO法人
ACEF
前事務局長 小田 哲郎さん

組織診断で課題を明確化
当事者意識を生んだワークショップ

一方で、ACEFの運営は20年近く、危機的な状況にあった。
「2000年代に入ってから、バングラデシュはめざましい経済発展を遂げ、ほぼすべての子どもが初等教育を受けられるようになってきた状況でも、私たちは当初と同じ活動を続けていました。運営を支援する学校は2004年頃には90校に達し、予算も5000万円を超えましたが、これをピークに支援できる先は減少していきました。それだけの予算を維持できなくなってきたからです」と、河見さんは当時を振り返る。
小田さんは、ACEFの存続が危ぶまれた2019年から2022年にかけて事務局長を任された。
「設立当初から活動を支えてくれていた1000人を超える会員が高齢化。私たちは収入の8~9割をその方々からの会費と寄付に頼っていました。また、対等な関係だったはずの現地のパートナーNGOも、ACEFからの送金に95%依存するなど“縦の関係”になっていました。スタディツアーは2016年に首都ダッカの飲食店で起きたテロで一時中断し、そこへ2020年からのコロナ禍が襲いました。ACEFはもう一度、組織を立て直さざるをえない段階に来ていました」

そこでACEFは「Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs」に応募し、2020~2021年にかけて組織基盤強化の助成を受けた。
「1年目は外部協力者に伴走いただき、組織の課題を明らかにする組織診断に取り組みました。目に見えている問題と直接的な解決法を提示するのではなく、それぞれの問題の根底にある原因がどうつながっているかを構造的に理解し、新たな変化を生み出す“システム思考”を用いたワークショップ形式にしたことで、みんなが当事者意識をもつことができました」
ワークショップは理事と評議員、会員、事務局のスタッフに、ボランティアなどでかかわっている学生も加わって、毎回20~30人規模で行われた。「途中からオンラインに切り替えたので、遠方の方も参加でき、私たちが何を目的としていて、それは現実的にうまくいくのか、掘り下げた議論ができました」と、河見さんは言う。

コロナ禍にはオンラインを活用
若い世代からの関心や寄付が増加

2年目は、組織診断によって導き出された組織課題の解決に取り組んだ。その一つが、パートナーNGOとのコミュニケーション不足だった。2020年3月、小田さんはバングラデシュを訪れ、パートナーNGOとのワークショップを開催した。
「NGOのスタッフを全員集めて、ACEFの厳しい現状を率直に伝え、意見を出し合ってもらいました。その後も双方の理事会がオンラインで対話を重ねたことで、新しい方向性についての共通理解が生まれ、自分たちで取り組みたいことを提案してくれるようになりました」
そんな中から生まれた新しい事業が、教育を目的とした女性グループへのマイクロファイナンス(小口融資)だ。「現地NGOが保護者や教師に小規模のお金を融資して、小さなビジネスを始めてもらい、その利益の中から子どもたちへの教育費を出す仕組みです。
さらに、新しいパートナーとして、現地の日系企業とつないだり、バングラデシュ政府の助成金を模索してもらうなどして、ACEFへの依存率を5年後には半分にすることで合意しました」
ワークショップでの対話を経て、「一人ひとりの尊厳が大切にされる」を新たなキーワードとしたACEFのビジョン・ミッションも策定された。「これを総会や会員フォーラムで共有し、理事や評議員が教員として勤める学校の授業にも、尊厳について学ぶプログラムを採り入れてもらいました」

もう一つの課題だった理事の世代交代も進んだ。「ジェンダーバランスを考えて、女性の割合を半分まで増やしました。現地NGOも事務局長が交代し、女性スタッフの雇用が増えたことで風通しがよくなり、コミュニケーションの質が変わってきました」
さらに、コロナ禍でスタディツアーに行けない間も、ボランティアの高校生や大学生がオンラインでクラウドファンディングやセミナーを展開してくれたことで、若い世代からの関心や寄付が増したと河見さんは言う。集まったお金は、ノンフォーマル小学校に図書室を贈る活動や奨学金などに役立てられた。「日本の幼稚園や小学校の子どもたちにも、動画や手紙の交換を通して、バングラデシュの子どもたちと友達になってもらう取り組みを進めているところです」

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コロナ禍では日本の大学生たちが
オンラインを活用して情報発信

(団体プロフィール)
認定NPO法人 アジアキリスト教教育基金(ACEF)
キリスト教精神に基づいて、バングラデシュのNGOと共に、現地の子どもたちの初等教育と職業訓練を支援。アジアの社会課題に関心をもつ日本の若者の育成にも取り組んでいる。

関連情報

Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs
2023年募集
受付期間 2023年7月18日(火)~7月31日(月)必着
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