認定特定非営利活動法人 フードバンク北九州ライフアゲインの組織基盤強化ストーリー

食料支援ほか、地域の力で貧困の連鎖を断ち切る
2年間の組織基盤強化で運営体制が安定、活動も拡大

認定NPO法人 フードバンク北九州ライフアゲイン

北九州市を拠点に、フードバンクや子育て世帯の支援などを続けてきた「フードバンク北九州ライフアゲイン」。地域の力で貧困の連鎖を断ち切るというミッションを実現するために、2年にわたる組織基盤強化を経て、組織の運営体制を根本から見直した。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第433号(2022年6月15日発行)掲載内容を再編集しました]

北九州市初のフードバンク事業
子ども食堂や無料塾で子育て支援

現在、「フードバンク北九州ライフアゲイン」の理事長であり、牧師でもある原田昌樹さんは2000年頃から里親をしたり、駅前で夜回りをしながら、「人生をやり直したい」と願う人たちと共同生活を送ってきた。
その中で、「小さい頃に家庭が崩壊したり、虐待を受けたりしてできた心の傷は大人になってもなかなか癒えず、精神疾患や依存症に苦しむ人も多い。そうして苦しむ人を一人でも減らすためには、子どもたちの養育環境から安定させていく必要があるのではないか」と考えるようになった。
そんな時、原田さんの活動に共感してくれた近所のスーパーの店長が、まだ十分に食べられる食料のロス品を提供してくれた。「食品ロスという環境問題と、支援を必要としている人たちへの福祉活動は、社会の価値観を変えない限り、どちらも解決にはつながらないと強く感じました」

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認定NPO法人
フードバンク北九州ライフアゲイン
理事長 原田 昌樹さん

その後、テレビ番組でフードバンクの活動を知った原田さんは2013年にNPOを設立し、里親仲間の協力を得て、北九州市では初めてとなるフードバンク事業を立ち上げた。
「支援が必要な親子と、まずは食料支援を通して信頼関係を築きたいと考えました。1世帯への食料配布は半年を目途にしていますが、その後も相談事業でフォローしていきます」
さらに、ファミリーサポート事業として、2ヵ所で「子ども食堂」を始めたほか、オンラインでも授業を受けることができる「無料学習塾」や、経済事情による体験格差を埋めるための子ども会「もがるかキッズクラブ」も運営している。

順調に見える活動の一方で、原田さんには悩みもあった。
「団体が急成長し、ボランティアでかかわる人が90人近くにまで増え、扱うお金や寄贈される食品の量が増えたのは喜ばしいことでした。ただ、その一方で、きちんと人をマネジメントして、お金を管理し、支援者をフォローすることがだんだん難しくなってきて、このままだと組織が空中分解してしまうのではないかという危機感を覚えるようになりました」

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塾と提携して無料学習塾を運営
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「もがるかキッズクラブ」では田植え体験を企画

コンサルタントの伴走で
広報とファンドレイジングを強化

そこで、原田さんは地元のNPOのコンサルタントに組織診断を依頼。組織として何ができていて何ができていないのかをチェック表にまとめてもらった。これをベースとして、本格的な組織基盤強化に取り組むために「Panasonic NPO/NGO サポートファンド for SDGs」に応募し、2年間の助成を受けることとなった。
「1年目の2019年は、組織の質を向上させるために、認定NPO法人格の取得を視野に入れながら、組織基盤の課題となっていた事務局体制の強化に取り組みました。中でも、対外的な信頼にかかわる会員や寄付者、ボランティアの名簿管理と会計事務をしっかり整備しました。さらにファンドレイザーにも加わってもらい、私たちのビジョンとそこに向けたプロセスを明確にしました」

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北九州市・八幡中央区商店街内で行われた「第5回たらふく亭」。約60人の子どもたち、40人のボランティアが参加

続いて、長年の課題だった「ボランティア間の情報共有不足」にも着手。「まずは、ボランティア登録をした時点で必ず面談をして、活動の内容や目的を説明し、希望の活動を聞くようにしました。そして、食品の仕分けや配布など、それぞれの役割ごとにチームを結成し、LINEグループをつくって情報を共有。また、動画を活用して全体の活動状況もわかるようにしたことで、担当作業へのモチベーションアップにもつながりました」

2年目の2020年は、伴走型の支援を行うファンドレイザーに加わってもらい、広報とファンドレイジングを組み合わせる形で具体策へと移行させていった。
「1年目に、『子ども食堂をプラットフォームとして地域の人々や大学や企業をつなぎ、子どもの孤立を防いで、貧困の負の連鎖を断ち切る』という活動方針が固まったので、これを社会に広く伝えながら、個人のマンスリーサポーターを増やしていくことにしました」
具体的には、「ホームページを見ただけで活動の趣旨が伝わる内容にリニューアルしたり、協賛してくれる企業と寄付型自動販売機のラッピングデザインから考え、そこにQRコードを付けて、団体の寄付ページへ誘導するようにしました」。

認定NPO法人化も実現
コロナ禍、1000世帯に食料品宅送

2020年はコロナ禍の影響で、フードバンク事業の支援先が30世帯から100世帯以上に急増した。「毎月の食料支援は半年ほどでいったん中止し、その後はLINE公式アカウントに登録してもらって、私たちから支援情報を発信。希望する世帯に、給食がなくなる夏休みと冬休みの年2回、食料を支援しました。さらなる支援が必要と思われる世帯には、双方向のやり取りができる別のアカウントに登録してもらい、個別に対応することにしました」
この取り組みを広く知ってもらおうと、北九州市が孤独・孤立対策の一環として、児童扶養手当を受給している約1万世帯にチラシを配布したところ、LINEアカウントの登録者は一気に1200世帯増えて1800世帯に。2021年の冬休みにはその中の1000世帯に食料品を届けることになった。
「さまざまな企業の方々や大学の学生さんたちが箱詰め作業を手伝いに来てくださり、食料品を受け取った方からは、たくさんの感謝のお便りが届きました。組織基盤強化に取り組んだことで認定NPO法人格も取得でき、団体としての信頼が培われたからこそ、これだけの協力が得られたのだと思います。今では、行政からも協働の相談があるなど、いい関係を築けています」

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集まった食料品を箱に詰め、
必要な家庭に宅配

さらに、当初1ヵ所だった食料倉庫は4ヵ所になり、寄付額も増え、助成金事業に採択されることも増えたという。現在は7人の職員で事業を回しているが、資金にも余裕が生まれてきたことから、新たな人材の雇用も考えられるようになった。
「今、組織を支えてくれているのは、子どもが巣立ち、仕事をリタイアした経験豊かな世代ですが、もし若い世代がここで働きたいと言ってくれたら、子育て手当や有給休暇を手厚くして、子育てを全面的にサポートしたいと思っています。地域が一つの大きな家族のようになって、そこで具体的な施策が展開されることで、負の連鎖を断ち切っていく。そこまでの道のりに向けて、今やっと第2ステージに立ったところです」

(団体プロフィール)
認定NPO法人 フードバンク北九州ライフアゲイン
「すべての子どもたちが大切」とされる社会の実現を目指し、食べられるのに捨てられている「食品ロス」という環境活動と、経済的に厳しい子育て家庭への支援という福祉活動の両方に取り組んでいる。