特定非営利活動法人 Piece of Syriaの組織基盤強化ストーリー

シリアの魅力を伝え、“また行きたい国”にしたい
組織基盤強化で、国内外スタッフの力を最大化

NPO法人 Piece of Syria

内戦が続くシリアの子どもたちに教育を届ける活動をしてきた「Piece of Syria」。組織基盤強化を通じ、1年目は活動を支えるプロボノやボランティアの人たちが力を最大限発揮できる組織づくりに、2年目はファンドレイジングにも取り組む。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第432号(2022年6月1日発行)掲載内容を再編集しました]

平和で豊かな生活、内戦で激変
シリア難民に話を聞いて回った

現在「Piece of Syria」の代表理事を務める中野貴行さんが、初めてシリアを訪れたのは2005年のことだった。「英国留学中にトルコの友人を訪ねた後、エジプトのピラミッドが見たくなって陸路で移動する途中にシリアを通りました。2003年のイラク戦争から間もなくて治安が心配でしたが、夜でも安全。街を歩いていると呼び止められ、お茶をごちそうになるなど、おもてなしと治安の良さに驚きました」

2008年には青年海外協力隊として再びシリアへ。「2年の任期の間、現地では多くの方から家に招いてもらい、親切なもてなしを受けました。当時のシリアは医療費も教育費も無料。昼の2時まで働いたら、あとは家族との時間で、物価も安く、月に100ドルか200ドルの収入があれば家族8人を養えるほどでした。平和で豊かで、治安も日本の20倍いいというデータもありました」

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NPO法人 Piece of Syria
代表理事 中野貴行さん

中でも、特に思い出深いのが、12歳の女の子との出会いだった。
「彼女はアラビア語や女性たちの暮らしぶりを僕に教えてくれました。将来の夢を尋ねたら、『子どもたちの夢をかなえる学校をつくりたい。そして、そこで育った子どもたちに次は誰かの夢を応援してほしい。大人たちは無理だと言うけれど、あなたができるよって応援してくれたから、私は夢をもつことができた』と話してくれました」

ところが、中野さんが任期を終えて帰国した1年後の2011年3月、シリアで内戦が始まった。「すぐに終わると思い、日本の学校でシリアでの体験を話す活動をしていましたが、内戦は終わらず、シリアにも入れず、女の子の村も過激派組織『イスラミックステート(IS)』に占領され、ネットで検索すると、小学校の校庭に処刑場ができていました」

居ても立っても居られなくなった中野さんは2015年から、ヨルダンやトルコ、スウェーデンなどの周辺諸国や欧州に避難しているシリア難民に話を聞いて回った。そこで何度も聞いたのが、「子どもたちの未来のために教育だけは受けさせたい」という言葉だった。
その旅の最中にトルコで出会ったのが、シリア国内に教育を届ける活動をしているシリア難民の青年だった。「『子どもたちの夢を叶える学校を作りたい』と、シリアの少女と同じ夢を持つ彼に共感し、2016年から二人三脚でクラウドファンディングをしながら、シリアの中で最も支援の届かない地域に教育を届ける活動を始めました」

シリアの幼稚園とトルコの補習校
2千人の子どもたちをサポート

活動を始めた頃は毎日のように勢力図が変わるほど不安定だったシリアも、今はISの勢力が衰退するなどして膠着状態。イスラエルやトルコによる攻撃が時折あるが、治安は比較的落ち着いてきたという。
「ただし、国は完全に分断され、物価は10倍にはね上がり、燃料も不足していて、電気の供給は1日1~3時間。出稼ぎや難民として国外に住む家族からの送金で、何とか暮らせている状況です」
そんな中で、現地のパートナーNGOと協力しながらサポートしているのがシリア北西部アレッポ郊外にある幼稚園だ。「遊びだけでなく、母語のアラビア語、英語、算数などの教育や心のケアにも力を入れています。シリアの子どもの中には、爆撃音を聞いても恐怖心を感じなくなってしまった子もいるのです。学費は無料で、教育の機会を奪われた、困窮した家庭の子を受け入れています」

そしてもう一つが、シリア国境に近いトルコ南部にある補習校だ。「現在、トルコで暮らすシリア難民の子どもたちはトルコの学校には入れますが、トルコ語についていけなかったり、いじめに遭ったり、働かないといけなかったりして、35%が学校に通えていません」

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シリアの幼稚園で困窮家庭の
子どもたちの教育を支援

そこで、この補習校では、「トルコの学校に通うためのトルコ語や、いつかシリアに帰った時に困らないためのアラビア語を学ぶ場、シリア人とトルコ人の交流を促すアクティビティの場」などを提供している。
これまで、教師の給料や光熱費、筆記用具やソーラーパネルなどの支給を通して、2校合わせて約2千人の子どもたちをサポートしてきた。

 同時に、日本国内では「シリアをまた行きたい国にする」というゴールを掲げ、シリアの歴史や文化、本来もっている豊かさを伝える活動を続けている。

コンサルタントの伴走で課題を抽出
組織体制と役割分担を整理し可視化

しかし、「Piece of Syria」には課題もあった。活動にフルコミットできているのは中野さんだけであり、ほかに本業をもつプロボノメンバーや学生ボランティアチームによって活動が支えられていた。
「全員でミーティングをする機会もなく、どうすればかかわってくれている人たちの力を最大化できるかが悩みでした」
そこで2020年、任意団体のまま「NPO/NGO サポートファンド for SDGs」に応募し、2021年から組織基盤強化に取り組んだ。
「コロナ禍の影響でオンライン会議が普及して、いろいろな国にいるメンバーやパートナーNGOとも活発に会議や相談ができるようになりました。非営利活動について熟知する外部のコンサルタントに伴走してもらったおかげで、組織の課題を抽出でき、改善を重ねることで団体をNPO法人化することもできました」
さらに、オンラインと対面のハイブリッドによる1泊2日の合宿を実施し、「組織体制と役割分担のあるべき姿」を話し合った。その中で、学生ボランティアとのかかわり方を「体験」から「アウトプット」まで段階ごとに整理して可視化、「学生ジャーニー」という表にまとめた。

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オンラインも活用し国内外のメンバーが
顔をあわせた組織基盤強化合宿

また、「海外事業のプロジェクト管理の脆弱性」が明らかになったことから、「プロボノで活動に参加したい」と手を挙げてくれた在米コンサルタントを交えて、月に一度はパートナーNGOとのミーティングを実施、現状を把握して共有することにもなった。
「2年目の今年は、認定NPOの事務局長経験があるスタッフも加わり、ファンドレイジングをより強化します。事業規模を大きくし、さらなるインパクトを生み出していきたいからです。シリアでは、現地の人々が10年後、どんな未来をつくりたいのかを聞き取る“ビジョンワーク”にも取り組んでいて、その未来の実現に向けて寄り添うのが、僕たちの役割だと考えています。また、日本語の話せるシリア人ガイドとネットをつなぎ、シリアの首都ダマスカスから生中継をしてもらうオンラインツアーも始めました。『シリアをまた行きたい国にする』ことを目指し、新しい挑戦を続けていきます」

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シリアと日本の子どもたちが
ネットを通じて交流するイベントも開催

(団体プロフィール)
2016年に任意団体として設立。2021年7月、NPO法人化。復興の主体であるシリアの子どもたちが、自らの力で未来の平和をつくるために、現地パートナーNGOと協力し、国連や国際NGOからの支援が届かない地域の子どもたちに教育を届ける活動をしている。