認定NPO法人 エンパワメントかながわの組織基盤強化ストーリー

子どもや恋人への暴力を防ぐワークショップ
組織基盤強化で担い手の育成を図り、全国展開へ

認定NPO法人 エンパワメントかながわ

子どもへの暴力を防ぐプログラムを提供してきた「エンパワメントかながわ」。業務の複雑化と財政危機を解消するために、組織体制と財源を見直し、新たなプログラムも開発した。立ち上げから20年、今、その活動は全国へと広がっている。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第455号(2023年5月15日発行)掲載内容を再編集しました]

暴力から自分を守るCAPプログラム
活動内容が多様化し、業務は複雑化

「エンパワメントかながわ」は、子どもがいじめ・虐待・性暴力などの暴力から自分の心と身体を守るための「CAPプログラム」を学んだ16人が、神奈川県を拠点に2004年に立ち上げた団体だ。「米国で生まれたこのプログラムの理念を活用して、自分たちで暴力防止のプログラムを開発し、提供したいと思いました」と、理事長の阿部真紀さんは語る。

現在はプログラムも増え、中学生・高校生・大学生・教職員向けの「デートDV予防プログラム」や、小学1年生向けの護身法「すきっぷプログラム」、知的障がいのある子どもへの暴力を防ぐ「ほっとプログラム」、子どもへの虐待の早期発見と親のエンパワメントを目的とした「虐待予防のための保育士研修」などを展開している。

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認定NPO法人
エンパワメントかながわ
理事長 阿部 真紀さん

「意見を出し合ったり、一緒に劇を考えたりしながら、自分は大切な存在であることや、相手と対等な関係を築くことの大切さに気づいてもらえるようなワークショップを行っています。参加した子どもたちは『楽しかった』『安心した』と言ってくれます」
さらに、電話とチャットで相談できる「デートDV110番」は全国30人以上のリモート相談員が担い、啓発活動などは全国の学生サポーター約30人によって支えられている。

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高校生を対象としたワークショップ

そんな「エンパワメントかながわ」にも、存続の危機が訪れたことがあった。
「以前は事務局実務を担う専従者がいなくて、メンバーが当番制で担当していましたが、プログラムが増えて業務が複雑になると、それらすべての把握は困難だと訴える担当者も出てきました。行政委託事業として、神奈川県内の学校で実施していたCAPプログラムも、2006年をピークに依頼が減少。県との協働事業『デートDV防止のためのシステム構築事業』も5年の期限が迫っていました」

組織診断で優先課題を明確化
新たな財源となるプログラムを創出

そこで、阿部さんらは「Panasonic NPO サポートファンド」に応募し、2013年から15年にかけて組織基盤強化に取り組んだ。「最初の半年間は組織診断によって優先課題を明らかにし、外部コンサルタントと解決策を話し合いました。その中で、CAPプログラムを今後も続けながら、新たな財源となるプログラムも増やしていくことにしました」
たとえば独自に開発した「デートDV予防プログラム」は、実施できる人材を全国で育成するために、14年に「中学生向けデートDV予防プログラム実施者養成講座」を開催し、高校生向け、大学生・教職員向け、相談対応専門研修……と、毎年講座を増やしていった。
「県との協働事業は終了し、CAPプログラムの依頼は減少しましたが、この10年間、収入は安定しています」
事務局については事務局長を雇用するとともに、人件費の7~8割を占めていたワークショップ実施者への報酬の一部を、事務局で働くボランティアへの謝礼に充てることで体制を強化。「それまではワークショップ実施者だけを正会員としてきましたが、実施者・正会員・ボランティアのそれぞれの役割を明確にして募集することで、会費収入を増やすことを目指しました」
さらに収入バランスを安定させるために、認定NPO法人を取得して、SNSやクラウドファンディングで情報を発信し、寄付を増やしていった。「それによって、学校の負担をなくし、無料でCAPプログラムを提供する“1万人の子どもにCAPを届けるキャンペーン”を展開できました」
子どもたちには、「会ったこともない人たちが、みんなのことを大切に思ってお金を出してくれたんだよ」と話し、寄付者にお礼の手紙を書いてもらった。「子どもたちが大人になった時、今度は寄付をする側に回るプラスの循環が生まれたら」と願ってのことだった。14年から始まったキャンペーンは今年の2月に、目標だった1万人への提供を達成することができた。

全国ネットワークの設立呼びかけ
DV防止法も視野に

「3年間の助成を終えて1番変わったのは、私たちは社会を変えていくNPOなんだという意識が生まれたこと。『寄付なんて、とてもお願いできない』と言っていたスタッフたちが『社会を変えたいので寄付してください』と言えるまでに変わっていきました」
そして18年には阿部さんの呼びかけで、すべての子どもにデートDV予防教育を届けることを目的とした「デートDV防止全国ネットワーク」が設立され、「エンパワメントかながわ」は、その事務局を担っている。「デートDV防止全国ネットワークのホームページ『notAlone(ナタロン)』をつくる際にも、クラウドファンディングの経験を活かして資金を集めることができました」

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様々な啓発ツールも制作

エンパワメントかながわの実態調査によれば、交際相手からの暴力は10代のカップルの3組に1組で起きているという。「このカップルがそのまま結婚すれば、暴力は名前を変えてDVになり、子どもが生まれれば虐待になる可能性もあります。しかし、啓発活動によって10代の子どもたちのDVを未然に防ぐことができれば、暴力の連鎖を断ち切ることができます。『暴力はダメ』と言わなくても、『あなたは大切な人。暴力を受けていいわけがない』と伝え続けることで、子どもたちは『暴力はふるいたくない』と思える人に変わっていきます。私たちが20年に18ヵ国25件の研究結果から推計した“DVでマイナスになる社会的コスト”はGDPの1.2~2%でした。日本に当てはめてみると6.6~10.9兆円で、国家予算の1割弱に相当します」

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各地から参加者が集う
「デートDV防止全国ネットワーク」の
スプリングフォーラム

そこで阿部さんらは社会的インパクト評価の手法を使って、デートDV予防教育の効果測定調査を行い、その重要性を国にも訴え続けてきた。
「内閣府は20年に『性犯罪・性暴力対策の強化の方針』を出し、21年には文部科学省が就学前から高校生までを対象に、発達の段階に応じた『生命の安全教育』の教材をつくり、その中にデートDVの項目も含まれています。エンパワメントかながわでも教員向けの実践セミナーを始めました。一方で、デートDVについてはまだDV防止法のような法律がなく、これについても声を上げていきたい」と阿部さんは言う。組織についても新たな目標が見えてきた。
「設立当初は、小学生の子どもをもつ女性たちがCAPプログラムの実施やボランティアに来てくれましたが、今は就業する女性が増えて、力を借りることは難しくなりました。次世代の育成が課題ですが、約30人いる学生サポーターの中から“ここに就職したい”という声が上がった時に、雇用できる財政基盤をつくっていきたいと思っています」

(団体プロフィール)
認定NPO法人 エンパワメントかながわ
暴力のない社会を目指し、暴力防止ワークショップの提供や相談窓口の運営を行っている。令和4年度「子供と家族・若者応援団表彰」の子供・若者育成支援部門にて内閣総理大臣表彰を受賞。

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