特定非営利活動法人 はちのへ未来ネットの組織基盤強化ストーリー

子どもの成長を地域で見守るネットワークを設立
組織基盤強化で認知度を高め、協力者を増やす

NPO法人 はちのへ未来ネット

青森県八戸市で、子どもと親を支える地域づくりに取り組む「はちのへ未来ネット」。組織診断と組織基盤強化を経て、会員間でミッションを共有し、認知度を高め、活動を未来へとつなげる道を探った。その取り組みについて聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第430号(2022年5月1日発行)掲載内容を再編集しました]

多団体が連携して柔軟に活動
組織診断でミッションを再構築

2006年に設立された「はちのへ未来ネット」は、八戸市で子どもや若者に関する活動をしている個人や団体が連携し、柔軟に協力し合うネットワーク組織だ。代表理事の平間恵美さんは、1998年から子どものための観劇会「はちのへ子ども劇場」を運営。その経験から、福祉や教育といった分野を越えて地域の支援者が力を出し合うことで、「より子どもや若者たちのためになる事業」ができるのではと考え、連携を呼びかけた。

ゆるやかなネットワークとして立ち上がった「はちのへ未来ネット」は、八戸市から妊娠・乳幼児期の子育て支援センター「こどもはっち」の運営を受託したのを機に、11年にNPO法人化。

写真
NPO法人 はちのへ未来ネット
代表理事 平間恵美さん

以降、小学生の「放課後子ども教室」や、高校生にボランティアの場を提供する「どり~むキャンパス」、不登校・ひきこもり相談、子育て中の女性が手づくりの玩具や手芸品を販売する「おもちゃハウスくれよん」など、幅広い年齢層に向けた事業を運営してきた。
「長く続けているので、成長した子どもたちがお父さん・お母さんになって、子どもを連れて戻ってきてくれることもあります」
しかし組織が大きくなるにつれて、「多分野で活動する会員とミッションを共有できていないため、それぞれの活動をつなぐネットワーク組織としての機能が十分ではない」「事務局の若い職員が育っていない」「存在が市民に認知されていない」といった課題が浮き彫りになってきた。そこで、平間さんらは2014・15・17年に「サポートファンド」の助成を受け、組織基盤強化に取り組み、地域の中で果たすべき役割を再検討した。
助成1年目は、コンサルタントの助言を受けながら組織診断を実施。団体の役員や職員、会員、市民などにアンケートを行ったところ、「会員からの信頼は厚い一方で、市民の認知度や活動への関心は低いこと」が明らかになった。
「まずは団体の中で話し合って、『ネットワークの力で子どもと親の育ちを応援する』というミッションと、『子どもと親が希望と安心感をもって幸せに暮らせる地域を創る』というビジョンを再確立しました。
次に、多岐にわたる事業を3つの部門に分類し、ミッションとビジョンにそって、3・5・10年の中期事業計画を立てました。これを会員と共有することで、ネットワークの一員としての意識を高めていきました」

ブログやLINEなどで情報発信
会員1.5倍、支援企業15社に

2年目は認知度を高めるために、リーフレットとホームページを作成し、ブログを始めた。「その後、メルマガからLINE、LINEでの子育て情報動画配信などへと発信手段を広げていきました」
さらに、近隣の市町村から先進的な活動に取り組む団体を招いての学習会や、会員同士でノウハウを共有し合う勉強会を実施して支援力の底上げに取り組むと同時に、市民にチラシを配って映画上映会を開催したりもした。多い時には100人以上が参加し、会員も1.5倍に増えた。

「もともと八戸市には子育てサロンや子育て広場が各地にあり、ボランティア同士も活発に交流しています。子どもたちのために何かやりたい市民が多く、勉強会をきっかけにたくさんの方が私たちの活動につながってくれました。地域の住民は長いスパンで日常的に子どもたちを見ている存在なので、地域の誰が、いつ、どこで何ができるのかというところまで落とし込むことができるのが強みです」
また、これまで手つかずだったファンドレイジングにも着手したことで、15社もの企業が寄付や物品を提供してくれた。

写真
ゲストを招いての研修も実施

3年目の17年は中期事業計画を実行に移し、その第一弾として、市内の中心街に新しい活動拠点を開設。「組織運営体制の確立にも取り組みました。新しい事務局長を迎え、事務局体制も立て直しました」
3年間の助成を通して、「メディアに取り上げられる機会や団体への問い合わせが増え、教育・福祉・まちづくりの分野で、行政の総合計画にかかわる場面も増えてきました。実績が評価されて、15年度には内閣府が主催する『子供と家族・若者応援団表彰』も受けました」と、平間さんは成果を振り返る。

コロナで、子ども食堂は食料配布に
形は変えても活動を次代につなぐ

一方で、コロナ禍によって、形を変えざるをえなくなった活動もある。「公民館で月に1、2回、『パクパクルーム』と『モグモグルーム』という子ども食堂を開催し、同時に学習支援や教育相談も行っていたのですが、コロナ禍で休止となり、20年5月に食料配布に切り替えました」
政府の備蓄米や、企業、寺、個人からの寄付や食品を活用し、米5kg、缶詰め、レトルト食品、菓子などをセットにして、事前に申し込みのあった50世帯に取りに来てもらう。「生活状況が気になる家庭が多いので、状況確認の意味も兼ねていて、1ヵ月の様子をできるだけ詳しく聞くようにしています」

写真
コロナ禍でスタートした食料配布

利用者を対象にしたアンケートからは、「ひとり親家庭が4割。両親そろって働いていても世帯年収が300~400万円という家庭が珍しくないこと」が見えてきたという。
「昨年1月からは県の社会福祉協議会が中心となって複数の団体でネットワークを作り、2ヵ月に一度、市内10ヵ所で食料配布を始めたため、そちらにも協力しています。それでも行政からの要請を受けて緊急支援をすることが増えてきました」
過去に児童館長を6年務め、困窮する多くの家庭を見てきたという平間さんは、「家に親がいなくても、お米さえあって、子どもが自分でご飯を炊ければ飢えずにすむこと」を経験から学んだ。そのため配布する食料には、お米とともに「子どもだけでも簡単にできるレシピ」を必ず入れるようにしている。

助成当初に課題だった後継者の育成も「世界の動きは私たちの予想をはるかに超えていて、新たな課題が次々と出てくる中で、今の活動をそのまま引き継いでもらうことは難しい」と気持ちが変わったという平間さん。と同時に、「ミッションさえ伝えていけば、社会の情勢に合わせて形を変えながら、活動は次の世代につないでいけると確信して手ごたえを感じています。助成を通して、自分たちの存在意義を見いだし、活動に携わる会員が育ったことは、私たちにとっての何よりの財産だと思います」とも語った。

(団体プロフィール)
NPO法人 はちのへ未来ネット
青森県八戸市及び近隣地域で、子ども・若者のために活動している個人や団体が福祉や教育の垣根を越えて結成したネットワーク。子どもと親が希望と安心感をもって幸せに暮らせる地域を目指し、一団体では実現できない幅広い事業を展開している。