社会福祉法人 日本国際社会事業団の組織基盤強化ストーリー

養子縁組、国籍取得、面会交流、難民支援
年間4000件、国籍を超える福祉相談
老舗団体が発展を目指し、財源と組織体制を強化

67年間、国境を超える福祉の相談に応じてきた「日本国際社会事業団」。長く活動を続けてきたゆえの、社会への発信不足、活動支援者の高齢化など課題があった。それらの課題に向き合った2年間の取り組みを聞いた。
[THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 第357号(2019年4月15日発行)掲載内容を再編集しました]

国境を超えた養子縁組、
ルーツ探し、国籍回復支援も

日本国際社会事業団(以下ISSJ)は戦後、米軍兵士と日本人女性の間に生まれた子どもを、主に米国の家庭に養子縁組する団体として1952年に設立された。常務理事の石川美絵子さんは、「1955年に国連の諮問機関でもあるInternational Social Service(ISS)の日本支部となり、1959年には社会福祉法人として認可されました」と話す。

日本国際社会事業団
石川 美絵子さん

現在は「養子縁組支援」と「外国とつながりのある家族の支援」を主な事業としている。スタッフの重藤裕子さんに話を聞くと、電話やメールを含む相談は年間4000件以上。中東やアジア出身者からの相談が増え「日本や海外でソーシャルワークを学んだ社会福祉士やフィリピン、ベトナム、タイ出身のスタッフが、弁護士や児童相談所、大使館などと連携しながら対応している」という。
「養子縁組」では、日本の乳児院や児童養護施設で暮らす子どもを日本在住の日本人または外国人夫婦の家庭に迎え入れる支援をしている。「いろいろな背景をもつ子どもたちなので、新しい家庭に落ち着くまで3年は見守ります」 

日本国際社会事業団
重藤 裕子さん

養子になった人からのルーツ探しの相談も毎日のように届く。「本人確認後にカウンセリングをして、ルーツを知りたい理由や動機を聞いてから情報提供の仕方を考えます。ISSJが仲介している場合は過去の記録に当たり、それ以外のケースも手がかりを頼りに支援します」 「外国とつながりのある家族の支援」としては、日本で生まれ無国籍状態にある子どもの国籍を回復する支援や、ハーグ条約に基づき、国際結婚した両親が離婚後も子どもと会えるよう支援する「面会交流」、UNHCR のパートナー団体として、日本に逃れた難民・難民申請者のカウンセリングや定住支援などを行っている。  ※ 国連難民高等弁務官事務所

写真:これまでの取り組みを紹介する写真の数々

スタッフ全員参加で
8回のワークショップ
不安が危機感の共有に変わった

「養子縁組やルーツ探しなどは対価をいただいていますが、財源の多くは寄付金。役員の高齢化や内部の意思決定のプロセス、会計管理にも課題があったことや、財政と組織運営の体制を整えたくてNPOサポートファンドに応募しました」と石川さんは話す。
ISSJの運営は昔からの支援者や寄付者によって支えられている。30〜40年継続して応援している人も多く、年2回の映画会とバザーには700人近くが訪れる。
「支援者が固定化されていたため活動がルーティン化し、成果報告も積極的ではなかった。ところが、支援者の高齢化で寄付金は減少。代わりに助成金を増やしたところ、活動に制約が増えてスタッフも苦しくなりました」

写真:(左)石川 美絵子さん、(右)重藤 裕子さん

そこで助成1年目は、役員や評議員も加わって「財政基盤強化」と「事業の見直し」という二つのプロジェクトチームを結成し、外部のコンサルタントと共に組織診断を進めた。その結果、「役員とスタッフのコミュニケーション不足」、「発信力が弱く、世間に認知されていない」、「これらが原因で支援が少ない」という問題が明らかになった。
1年目を終えた2017年には社会福祉法の改正もあり、理事がほぼ全員入れ替わった。また、ISSJには「国境を越えて愛の手を」というモットーはあったが、「究極的な目的は言語化されていなかった」という。「そもそもミッションやビジョンが大事だということに気づかされました」

さらに、社会の変化に伴い現場の支援が複雑化する中で「現場スタッフが感じている不安や孤立感を役員が共有できているのか」という疑問もあった。そこで助成2年目の2018年には、理事も含めた全員参加のワークショップを8回実施。アンケートやプレゼン、ディスカッションなどの手法を採り入れたグループワークを毎回、半日かけて行った。
「それぞれ正直な意見を言えたことで、スタッフが感じていた不安が運営に対する危機感の共有に変わり、担当の分野を超えて自由に意見が言い合え、風通しがよくなりました」と重藤さん。石川さんもまた、「お互いが何を大事にしているかがわかり、相互理解が進んで仕事がやりやすくなった」と感じている。
「この2年でISSJの方向性を定め、3年間の『中期目標・中期計画』の試案をまとめました。2019年度から実行に移していきます」

家族のドラマ、難民の夢
支援現場のできごとを伝えたい

そして、これまでニュースレターや事業報告書のみを送付していた会員や映画会の参加者に、寄付を呼びかけるチラシを配布。寄付者管理のデータベースをつくり、過去の寄付の経緯や映画会への参加を一元化して管理できるようにした。「呼びかけたあとは寄付が増え、効果があることを実感しています」
さらに昨年度から、会計管理の方法を一新。会計の効率化と透明性の改善に取り組み、ホームページの刷新も進めている。

日本国際社会事業団 石川 美絵子さん

ISSJの支援の現場では日々、いくつものドラマが生まれる。
たとえば、4歳の男の子りょう君(仮名)は実母が未婚で出産し、育てることができず、乳児院に預けられた。ISSJのソーシャルワーカーは児童相談所と連携して実母の自宅と乳児院を訪問し、りょう君との面会や聞き取りを行い、りょう君は日本で暮らす米国人の家庭に養子として受け入れられることに。養親は3人の子どもを連れて乳児院で実習を受けた。今では、りょう君はお兄ちゃんと自転車で走り回ったり、プールに出かけたりして毎日を楽しんでいる。

写真:新しい家族とともに

「ほかにも、民主化運動の中で父親を殺害されて夫も連行され、22歳の時に一人で日本に逃れてきたアフリカの女性、難民認定を受けて夜間中学を卒業し高校に通いながら母国料理のレストランの開店を夢見ている青年などがいます。支援でかかわる一人ひとりにドラマがあるのに、個人への影響を恐れて、ほとんど何も伝えてこなかった。どう工夫すれば、彼らの置かれている現状がうまく伝わるのかを考えていきたいと思います」

大学や市民に向けた講義の依頼も増えた。「2019年度は研修にも力を入れたい。今や福祉の専門職の方で、外国にルーツをもつ人とかかわらない人はいないと思う。彼らの業務に役立つように、体験的に知っていることを話していきたい」と、石川さんは意欲を見せる。
「外国の人の問題が急にクローズアップされてきたわりに、社会的なインフラは整っていません。ほかに相談できる場がない人のためにも、自主事業の部分を強化し、ノウハウをもっとオープンにして、日本社会全体の底上げにも貢献できればと思っています」

写真:(左)重藤 裕子さん、(右)石川 美絵子さん

(団体プロフィール)
社会福祉法人 日本国際社会事業団
(International Social Service Japan)
人々が国境を超えることで生じるさまざまな福祉の相談に応じる民間団体。ISSの各国支部を始め、病院、保健センター、児童相談所、学校などの関係機関と連携しながら、ソーシャルワーカーがひとりひとりの相談に応じている。