3-4. 真の創業

真の使命を知った以上、一刻も早く使命に基づく経営に入らなければならない。そのためには全店員に松下電器の真の使命を心から自覚してほしい----。そう考えた幸之助が大阪の中央電気倶楽部に全店員168名を招集したのは昭和7年5月5日のことである。幸之助は、宗教団体の見学で、その繁栄ぶりに感嘆し、宗教の使命の聖なるを痛感したこと、ひるがえって自分たち生産人の使命について深く考えたことを順を追って話した。そして、水道の水のごとく、すべての物質を無尽蔵たらしめようではないかと訴えた。創業者は、使命達成のための、250年にも及ぶ壮大な事業計画を語りながら、限りない喜びを感じていた。ついに事業の究極の目的を確信した喜びであった。

「思えば過去十五年間は胎児の時代であった。それが今日ここに、呱々(ここ)の声を上げ、世にまかり出たのである」

幸之助が話を終えたとき、会場は言いようのない感動に包まれていた。その後行われた所感発表では、上席店員も新入の者も、老いも若きも壇上に上がろうと列をなした。感きわまって、しばし無言の者。武者震いする者。制限時間が3分から2分、2分から1分となっても店員たちの興奮は、とどまるところを知らなかった。幸之助は自分の考えが正しかったことを確信した。そしてこの日、真の松下電器が誕生したのである。