企業人だからこそ、見える視点がある。
NPOとの対話で学んだ、「なぜやるのか?」を問うことの大切さ
従業員プロボノ参加者 東原 翔平さん
これまで7回にわたってプロボノに参加し、現在も活動を続ける東原さん。支援先で出会った数々の代表者やスタッフ等との対話を通して、俯瞰して物事を捉えることの重要さを学んだという。現在は電気自動車用部材の設計開発部署に身を置く東原さんの、プロボノにおける学びの変遷を辿った。
東日本大震災の報道から考え続けた、ボランティアのあり方
プロボノにはじめて参加したのは、社会人2年目の頃でした。振り返ってみると、参加の後押しになった出来事が2つあります。一つは、重度の障がいを持つ姉の存在。周りの視線を浴びて、姉は生きづらさを感じる場面もたくさんあったと思います。一方で、養護学校の先生はとても優しく接してくれて、僕自身も支援を必要としている人の力になれないかと考えたことがありました。もう一つは、東日本大震災のボランティアのあり方に疑問を抱いたことです。当時、大学生たちが、大学を辞めて被災地でボランティア活動を行なっている様子が報道されていました。もちろん、マンパワー不足を補うために力仕事で貢献するやり方もあると思うのですが、大学で学んだ知識を活かしたボランティアのあり方はないのだろうかとも思いました。
プロボノの存在を知った時は、そんな二つの思いが重なり「これだ!」と思いました。社会人としてのスキルや知識を活かせる上に、社会課題の解決に取り組む団体のお役に立つことができます。
ちょうどその頃、英会話教室に通い始めたりビジネス本の購読を始めたりと、仕事以外のことに挑戦したい気持ちも沸々と湧いていたんです。まずは短期で関われる「プロボノ1DAYチャレンジ」に参加してみることにしました。
外からの視点を持ち込むことで見えてくる、団体が抱える本当の課題
「プロボノ1DAYチャレンジ」を経験してからは様々なプロボノに参加したのですが、当初の依頼内容と最終的な納品物がプロジェクトの過程で変わったことが何度かあって、自分なりにそれで良かったのかどうかを考えることがありました。団体が感じている課題が本当に解決すべきものなのかを問い続けると、より本質的な課題が浮き上がってくるんです。
「ココルーム」というNPO法人を支援するプロジェクトは、その一例です。その団体は、日雇い労働者のまちと言われている大阪府西成区釜ヶ崎で、アートと社会の関わりを探求し、表現を媒介に自律して生きられる社会に貢献することをミッションに掲げて活動しています。
彼らの活動の一つが、ゲストハウスの運営。当初の依頼は、ゲストハウスの集客数アップのために、広報のあり方を考えることでした。しかし、現場スタッフと対話を重ねた結果、広報のあり方がネックではなく、本当の課題はゲストハウスの予約システムにあると気付きました。調べてみると、宿泊を希望する人の声は多かったんです。しかし、予約の受付方法が電話しかないため、電話が取れなかったら予約を取りこぼしてしまうという状況だと判りました。その課題に気づいてからプロジェクトの方向性を急遽変更し、オンライン予約を可能にするためのシステム開発に専念したんです。スタッフの不在時や電話に出られない時間帯にも予約を受け付けられるよう、Googleカレンダーを活用した予約システムを制作し、予約の取りこぼしを減らすことができました。
外の視点が入ることで本質的な課題を発見できることは、プロボノの面白さの一つだと思うんです。プロボノは、課題の解決に向けて支援先の方々と密に対話をしながら進めるので、時には「頭の整理になって助かった」と感謝の言葉をいただくこともあり、とても嬉しかったです。自分が作ったものを受け取ってくれる人と直接対話しながら進めるプロセスは新鮮でしたし、やりがいにもなりました。
誰の、どんな困りごとを解決するのか。俯瞰の視点は、仕事の原動力につながる
本質的な課題を発見するためにも必要なことですが、プロボノでは一貫して俯瞰して物事を考えることが大事だとつくづく感じました。というのも、プロボノでは支援先の団体の代表者と対話する機会もあり、団体や活動の存在意義について議論する機会が多いんです。
「ママの働き方応援隊」というNPO法人とのプロジェクトは、俯瞰する視点の大切さを学んだ活動の一例です。その団体は、子育て中がメリットになる働き方をつくるをミッションに出産を機に仕事を辞めた女性の社会復帰の支援に取り組んでいてお店に子どもを連れながらでも働くことができるお弁当屋さんを運営しています。そのお弁当屋さんをフランチャイズで展開するために、現場スタッフ用の手順書が必要でした。編集内容を代表者と相談した際、「うちはただの弁当屋じゃない、ということが伝わる手順書にしたい」と熱く語ってくれたんです。作業内容だけでなく、活動の背景や意義も説明した手順書を作りました。活動の背景や意義を理解することは、「誰の、どんな困りごとを解決するのか」を理解することであり、現場スタッフが自分たちの仕事の価値を再確認することにつながります。俯瞰して物事を捉える視点は、原動力も生み出すのだと、このプロジェクトを通じて感じました。
編俯瞰の視点は、私自身の仕事にも良い影響を生んでくれました。プロボノに参加した後、組合の執行役員や新規事業を立案する部署のメンバーになり、経営理念や事業の意義について考える機会が増えたのですが、ここでも俯瞰して物事を考える視点がとても活きたと感じています。
プロボノで社会課題の実態に接し、企業として出来ることを考える
プロボノを通じて、社会課題に対する感度も上がりました。都心から地方への引越しを何度か経験しているのですが、引っ越し先の地方では病院や電車が廃止になったり、小学校が統廃合になったりと、まちの中にある様々な課題を身近に実感しました。ただ、こうした社会課題は、都会に住んでいても知ることはできるはずなんです。プロボノで様々な社会課題に直に触れたことで、自分にできることがないかを考えるようになりました。
そもそも、社会課題を解決するには、ソフトとハードの両面からのアプローチが必要だと思います。主にサービスなどのソフト面を担うのがNPOなどの非営利団体だとしたら、主にインフラなどのハード面を担うのが企業ではないかと思うんです。ヨーロッパでは、企業で働いていても社会課題や社会貢献に関心を持つことはもはやスタンダードになりつつあると言います。プロボノで社会課題に直に触れ、その学びや体験を会社に持ち帰り、企業としてできることを考える、そんなサイクルを生み出せたらとも思うんです。
セミナーや研修など、会社の外で学ぶ手段は色々とありますが、プロボノはその最適手段ではないかとさえ感じています。プロボノは課題について考えるだけでなく、実社会で活きる成果物まで求められます。自己研鑽したい人にとって、そこで得られる経験はとても大きいと思います。
様々な社会課題に立ち向かう団体の代表者たちとの対話を通じて、俯瞰して物事をとらえることの大切さを学んだ東原さん。現在は、自身の持つ人脈も活かしながら、地域のコミュニティづくりにも関心を寄せているという。プロボノで学んだ俯瞰の視点は、支援先への貢献だけでなく、東原さん自身の仕事にも良い流れを生み出した。
東原さんが参加した1DAYプロボノチャレンジ
プロボノ1日体験企画「プロボノ1DAYチャレンジ OSAKA」に、パナソニックグループの従業員14名が参加し、パナソニックグループ従業員チームで2団体を支援しました。