涙ながらに感謝されて気づいた、
自分の価値観。
自己と地域社会への視野が広がった
プロボノ経験

従業員プロボノ参加者 村社 智宏さん

「誰もが自分らしく活躍できる社会を実現したい」を理念に、ハンディキャップを持つ人の支援を行なうNPO法人『フェロージョブステーション』とのプロジェクトに参加した、村社さん。依頼された営業資料を納品した際、支援先の人たちから掛けられたある言葉をきっかけに、自身の内面に潜んでいた価値観が明確になったという。村社さんの自身への気づきと、プロボノを通じた学びを聞いた。

得意なことを別のフィールドで。視点をずらすと広がるキャリアの可能性

コロナ禍で在宅勤務が増えた時、それまで通勤に使っていた時間を何かに活かせないかと考えていたんです。そんな折、ある書籍を通じて「ライフピボット」という、自分のキャリアの可能性を広げるための考え方を知りました。新しい仕事に挑戦する時、全く経験したことがない業種・業界に飛び込むのではなく、どちらか一つの軸足はそのままに片方だけを変えることで、活躍できる場所が少しずつ増えていくという考え方です。会社ではプロジェクトリーダーを担当することが多いのですが、仕事で培ったスキルを活かしてプロボノに参加できるのなら、苦手なことを0から始めるよりも挑戦しやすいと感じましたんです。持っているスキルを会社と異なる分野で試せるプロボノは、まさに「ライフピボット」の考えを実践できる場だと思い、参加を決めました。

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村社 智宏さん

私が参加したプロジェクトでは、障がい者の方の個性や技能を引き出し、社会で働くためのサポートを行なうNPO法人『フェロージョブステーション』への支援を行いました。その団体は、障がいのある子どもたちの描いた絵を商品化して販売する「Poche(ポシェ)」という事業を行なっているのですが、事業拡大のための営業資料の作成が私たちへの依頼内容でした。以前、障がいを持つ方と会社で働いたことがあるのですが、障がいが壁となって就職が困難になったり、自分の持つ能力を発揮しにくかったりと、障がいがある方が置かれている状況にもどかしさを感じて、自分にも何かできないかという想いもあり、このプロジェクトを選択しました。

プロボノでは、自分が得意とするプロジェクトマネジャーの役割で参加したので、持っているノウハウがかなり役立ちました。例えば、コロナ禍により、基本的にオンラインで業務を進めていたため、プロボノのチームメンバーや支援先の人たちと上手くコミュニケーションをするためのアイデアが必要でした。そこでプロボノチームでは、「ソーシャルスタイル診断」という、人のコミュニケーション特性を4タイプに分類できる診断を活用し、メンバー一人ひとりの得意な伝達方法を共有したんです。プロジェクトが始動する前に行なったので、発言が苦手なメンバーの声もきちんと汲み取れるチーム体制を作れました。また、「Poche」を売り込むための営業資料作成のために、支援先とプロボノのチームメンバー間の認識をあわせようと、オンラインワークショップも実施しました。

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チームづくりに活用したソーシャルスタイル診断

支援先の人たちに話を聞いてみると、ブランドに対する想いや、目指したい方向性が一人ひとり微妙に違うことが分かったんです。それぞれの想いを持つこと自体に問題はないのですが、チームでものを売るために「なぜこのブランドを売りたいのか?」を団体として明確にしておかないと、営業資料の制作を先に進めることは難しかったんです。メンバー全員の意見を集約して団体として伝えたいことを明確にしたことで、営業資料の内容が整理されてプロジェクトが一気に進みました。自分が得意とするプロジェクトマネジャーというスキルを活かしながら、これまで取り組んだことのなかった「障がい」というテーマに関わる経験ができました。

ぼんやりしていた自分の価値観が確信に変わった

プロボノが始まる前、自分の価値観を知るためのワークショップに参加したことがあるのですが、私は「成長」「感謝」「つながり」の3つを大事にしたいという結果が出ました。その時はなんとなくそう感じている程度だったんです。しかし、支援先から依頼されていた「Poche」の営業資料を納品した時、支援先の人が「営業資料以上に、あなたたちと出会えたことが何より嬉しかった」と、出会えたご縁そのものに涙ながらに感謝してくれたことが深く心に残ったんです。その後も長く続く出会いが生まれ、中にはプロボノ終了後も自主的にアフターサポートを継続しているメンバーもいました。やってよかったと心から思えたと同時に、「成長」「感謝」「つながり」に貢献できることこそが、自分にとってのやりがいであることに気づきました。

プロボノ参加後、この経験を忘れないように自分の価値観を改めて言語化したんです。「成長と感謝があるつながりを作り、幸せでハッピーな世界を実現する」という言葉で整理したとき、「少し先の未来をあなたと一緒に変えたい」という会社の風土改革活動の理念に通ずる部分が多いと気づいたんです。自分と会社の仕事の価値観が重なっていることを再認識したことで、仕事へのモチベーションもグッと上がりました。

仕事と家庭に加わった、「地域社会」という居場所

これまで仕事と家庭を行き来するような生活を送っていましたが、プロボノに参加したことで私の人生に「地域社会」という3つ目の世界が加わりました。地域の役員などを担当したことはあっても、踏み込めないまま日々を過ごしていたんです。支援先との関わりを通じて、自分が日々行なっている仕事も、家庭で子育てをすることも、地域社会とのつながりがあってこそなのだと再認識し、自分の視野が以前より広がったように感じます。

障がいのある人たちと直接関われたことも、自分の視野を広げてくれた経験の一つです。障がいの有無に関わらず働きやすい環境を作れるよう、マイノリティの人たちの声を大切にしたいと考えるようになりました。

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フェロージョブステーション訪問時の記念写真

会社に聴覚障がいのある方もいるので、社内で行われるオンラインイベントでは手話や字幕などを用意することを心がけるようになりました。同じ聴覚障がいがある人でも、手話が理解しやすい人もいれば、字幕が理解しやすい人もいますし、そもそも障がい者として接されることを望まない人もいます。そうしたことに以前より気が付くようになったのは、プロボノで障がいがある人たちや、彼らを支援する人たちと触れ合い、自分の中に他者の視点が増え、多様性を肌身で感じたからなのではと感じます。

サポートがあるから思い切り挑戦できる

私が参加したプロジェクトは営業資料を納品するタイプでしたが、他にも支援先の業務フロー設計や事業評価など、様々なタイプがあります。パナソニックグループの社内プロボノでは、プロジェクトのタイプごとにそれぞれ基本的な進め方や必要資料のフォーマットなどがデータとして用意されているため、0から構築する負担が少なくハードルはかなり下がりました。また、プロボノメンバーはそれぞれ得意なことを持ち寄って集まっている上、同じ会社の従業員なので根底にある価値観が似ているメンバーが多く、コミュニケーションがしやすいと感じました。週3~5時間という限られた時間の中で成果物を作り上げ、さらに自分の価値観の再発見までできたのは、プロジェクトを進めるためのサポートと頼もしい仲間のおかげです。社会貢献に関心がある人だけでなく、自分の価値観や将来の方向性を探りたい人にもプロボノをぜひおすすめしたいです。

支援先の人たちに涙を流して感謝された経験を通じて、「成長と感謝があるつながりを作り、幸せでハッピーな世界を実現する」という言葉で自身の価値観を言語化した村社さん。プロボノは、自分ですら知らなかった一面を発見できるとともに、地域社会とつながり、積極的に関わる第一歩にもなりそうだ。