途上国で挑戦を続けるNGO代表との出会いが、キャリアを見つめるきっかけに。
プロボノで再認識した、一歩踏み出すことの面白さ

仕事をしながら、2児の母として日々子育てにも励む北原さん。父親を胃癌で亡くした経験もあり、発展途上国を中心に活動する「胃癌を撲滅する会」に支援を行うプロジェクトに興味を持つ。支援先での一人の女医との出会いが、北原さんの生き方や働き方に大きな影響を及ぼした。プロボノに参加したことによる心境の変化や気づきを聞いた。

きっかけは、癌の「当事者家族」としての意識と挑戦したい気持ち

私は父を胃癌で亡くしています。胃癌と診断された頃、胃癌経験者のブログを読んで病気のことを調べると、経験者ならではの情報が役立ちました。どのような治療をするのか、どのくらい体に負荷がかかるのかなど、切実に知りたいことが詳しく書かれていて救われた思いでした。その経験があったので、自分も「当事者家族」として何か役立てないかとぼんやり考えていました。プロボノと出会う約10年前のことです。

しばらくの間は仕事や育児に忙しく何もアクションを起こせなかったのですが、ある時、社内で「胃癌を撲滅する会」という団体へ支援を行うプロボノの募集を見つけたんです。

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北原 沙央里さん

その団体は、胃癌が多発しているアジアの発展途上国を中心に、医療従事者への技術支援や胃癌に関する教育活動を通じて、胃癌の撲滅を目指していました。当時、育児休暇を終えて職場復帰してから1年が経過し、生活リズムが整ってきていたこともあり、思い切って説明会に参加してみたんです。元々はプロボノにすごく高いハードルを感じていて、専門能力のある人だけが参加するものだと思っていました。しかし、経験者からプロジェクトの進め方や実際に使うツールなどの具体的な話を聞いたことで少しずつプロボノのイメージが湧いてきて、心のハードルは少し下がりました。

参加を後押ししたのは、昔から海外ボランティアに興味を持っていたことも関係していると思います。短期の海外ホームステイや2ヶ月間のバックパッカー経験もあり、元々英語に苦手意識はありませんでした。何より、そうしたやりがいのあることに挑戦するのが好きでした。仕事や育児が忙しく、なかなか新しい挑戦ができていなかったのですが、プロボノを見つけたときに「そういえば、こういうの好きだった!」と思い出してプロボノへの参加を決意しました。仕事や育児に加えてやっていけるのかと不安もありましたが、ワクワクする気持ちが勝りました。

生き方について考えるきっかけをくれた、NGOの代表の熱意

プロボノでの出会いは自分にとって大きな財産になったと感じていて、中でも支援先団体の代表理事を務め、医師でもある鴨川先生との出会いは、自分にとって大きな出来事でした。とにかく、熱意に溢れる方で実現したいことに対して、どうしたら実現できるかを常に考え続けて、努力を絶やさないんです。例えば、旦那さんのご出身であるオーストリアで医師として働こうとした際、元々持っていた医師免許が日本でしか使えないので、鴨川先生はオーストリアでもドイツ語で試験を受け、医師免許を取得されました。

そんな鴨川先生との出会いをきっかけに、自分自身もキャリアや生き方について見つめ直すようになりました。

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場所も時差も乗り越えて行うヒアリング

医師としての仕事だけで忙しいはずの鴨川先生がさまざまなことにチャレンジされている姿を見て、自分も現状維持しているだけではいけないと思うようになったんです。現在は、自分のキャリアに関する可能性と視野を広げられるよう、キャリアストレッチセミナーにも参加しています。子育ての日々も決して暇ではないのですが、同時に少し保守的な生き方になっていた自分自身にも気づいて。育児のことを考えると難しそうだな、とハードルを感じて手を引いてしまうことも多くなっていました。何か実現したいことがあるとき、障壁があるから諦めるのではなく、鴨川先生のように「どうしたら実現できるか?」という問いを持ち続けたいなと思っています。

萎縮するのはもったいない。入社2年目でも10年目でも発揮できることがある。

ボランティアという形だからこそできる経験や挑戦があることも、プロボノの一つのやりがいだと思うんです。プロボノの活動中に、ブータンの医科大学の学長に英語で約2時間半インタビューをする機会があったのですが、得意としていた英語にもブランクがあった上、独特のアジア訛りのイントネーションについていくのも難しくて。結局、そのインタビューは普段から英語を使って仕事をしているメンバーがほとんど進めてくれたので、自分は何の役にも立てなかったと少し落ち込んでいました。しかし、チームメンバーから「せっかく応援したいと思って参加しているのだから、結果を気にしすぎて萎縮してたらもったいないよ」という言葉をかけてくれたんです。もちろん、支援先の人たちの期待にこたえるための努力は必要ですが、未熟だからといって挑戦しないのはもったいない。そう思いました。

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鴨川代表とプロボノメンバー

それに、プロボノでは思いもよらないスキルや視点が活きる場面が多いんです。実際、支援先の団体から「一般的な感覚を教えてほしい」と言われる場面が何度もありました。例えば、ホームページや助成金の申請書について、わかりやすい文章にするための意見を求められたことがあったのですが、支援先の方々は、論文などの独特な言い回しや、医療用語を含む文章に普段触れているため、一般の人が理解できる文章になっているかどうかを気にされていました。企業で働いている私の意見がこんなにも重宝してもらえるのかと驚きました。

そういう視点から考えると、プロボノは年齢も問わず参加できるものだと思っています。私たちのチームにも入社2年目の方が参加していましたが、デジタル技術に関する知識や視点では彼が一番長けていました。他にも経理やITなど多様なスキルを持つメンバーが協力しあって、結果的には当初求められていた業務フローの設計にとどまらず、ホームページの改善や運営資金獲得のための協力も行いました。若くて未熟だからと萎縮する必要は全くなく、その時々に各々が持つ視点や知識が活かせるのがプロボノの面白さだと思います。やらないよりは、やった後悔の方がいいはず。迷っている方にはぜひ挑戦してほしいです。

父親を胃癌でなくした経験と海外ボランティアへの興味が導いた、プロボノへの参加。飛び込んだ先で北原さんを待っていたのは、人生を見つめるきっかけになるような人との出会だった。プロボノは、分野も業務もさまざまだからこそ、北原さんのような子育て世代にも、仕事を始めたばかりの若手世代にも、それぞれにとっての発見や面白さがある点も魅力の一つだ。