志を持つ人との接点に、刺激がつまっている
パンフレットの編集から活動ビジョンの考察までを協働

従業員プロボノ参加者 池原 久恵さん

障がい児とその家族への支援事業を運営する法人や、児童虐待を防止するための活動協会など、さまざまなテーマに関するプロボノに参加した池原さん。その背景には、社会人人生で一度も転職することなく同じ組織で働き続けてきたことから、異なる外の世界で自分のスキルが果たして活かせるのかという不安があったという。プロボノへの参加を通して、志を持って活動するNPOの方々との出会いや、そこから得た池原さんの気づきや学びを聞いた。

会社の外の世界で、自分のスキルや経験がどれだけ役立つのか見てみたい

短大卒業後から三洋電機で働いてきましたが、2011年のパナソニックの完全子会社化による経営統合があり、大部分の事業がなくなり多くの人が会社を去りました。私はパナソニックへ転籍したため雇用は継続されましたが、自分の能力に全く自信が持てず、改めてスキルを再構築する必要を感じていました。その後、パナソニックでの仕事にも慣れて意欲的に取り組む一方、この先訪れる定年後のステージを考える上で、現実の社会に対して自分のスキルや経験が本当に通用するのか、知りたい気持ちが年々強くなっていました。

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池原 久恵さん

そんな折、偶然目にしたのが社内のプロボノ参加募集のページでした。
プロボノの存在は周囲の友達が参加していたため以前から知っていましたが、その当時は興味がなく気に留めていませんでした。
今回は、社内向けウェブサイトの「あなたへのメッセージ」で紹介されていたため、自ら能動的に調べる手間もなく、参加に必要な登録なども比較的簡単にできました。事前の説明会がわかりやすかったこともあり、2017年に初めてプロボノへの参加を決めました。

成果物を作る中で深く向き合うNPOの考え方や課題

プロボノでは、様々な活動プロジェクトに参加してきました。半年ほどの限られた期間の経験ではありますが、共通して感じたことは、目前にある複雑な問題の中から、本当に解決すべき課題は何かを問い続けるプロセスにこそ、プロボノの面白さがあるということです。

初めて参加したプロジェクトは、障がい児とその家族の生活支援を行うNPO法人「ぴーす」のパンフレット制作でした。活動を紹介するパンフレットは既に多数作られていたのですが、活動に対するビジョン、想いをわかりやすく伝えるパンフレットがなく作ってほしい、という依頼でした。団体の発足当時と比べると利用者も年々増えて活動の幅も広がっている一方で、利用者との距離を感じるようになっていました。

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ぴーすでのプロボノ取り組みの様子

これからも活動を続ける上で、改めてぴーすの想いや活動への理解者を増やし、関係者とのつながりを促進するようなパンフレットが必要でした。制作にあたり、障がいのある子どもをもつ職員、ボランティア、利用者、行政、同様の活動を行うNPO法人など、数多くの関係者を対象にぴーすへの期待や現状の課題に関するヒアリングを重ねたんです。そこから見えてきたのは、発足当時からブレることのない“当事者目線の活動”でした。障がい児をもつ家庭に寄り添い、きめ細やかに支援する身近さや親しみやすさこそがぴーすのこだわりであり、周囲の人たちにも共感されてきたことでした。そうした想いを一言にまとめ、代表理事や職員に伝えたところ、「自分たちの活動はまさにこの言葉に凝縮されている」と非常に喜んでいただき、パンフレットのコンセプトになりました。

それから3年後、支援先の代表と話す機会があったんです。コロナ禍での活動の制限、職員の離脱、利用者の減少など、ぴーすにとって厳しい時期を経た後のことでした。その時、「目まぐるしい変化の中でも、当時のプロボノで再確認できた“当事者目線の活動”という自分たちの原点が支えになり、乗り越えられた」と言っていただけて、とても感慨深いものがありました。パンフレットなどの成果物の制作にとどまらず、支援先が抱える根本的な課題と向き合いその解決までを一貫して関わることができる、これこそがプロボノの深みであり醍醐味だと感じました。

プロボノだからこそ触れられた、社会課題と向き合う人たちの生き様

様々なプロジェクトを通じて、普段の業務では接する機会がない方とたくさん出会えました。単に出会うだけでなく、支援先や関係者の方々に発足の背景や活動にかける想いなどを数多くのヒアリングをしました。なぜその活動をするのか、なぜこだわりを捨てずに貫き続けるのか、熱い想いに直接触れることで団体の活動をより深く理解できます。そうしたヒアリングを通じ、一人ひとりの“生き様”を垣間見ることも大変刺激になりました。

私が参加したプロジェクトでは、障がい児をもつ保護者の方々、行き場のない子どもたちや保護者の緊急避難場所を24時間体制で運営する施設の職員、児童虐待防止に取り組む方々、色やアートの力で個性を引き出し医療や福祉の現場に元気を届けようと施設に通う方々など、様々な志を持ち活動する人たちの話を伺いました。

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児童虐待防止協会の皆様と記念写真

どの方も社会課題と真摯に向き合い、強い意志を秘めていらっしゃいました。普段は話さないであろう胸の内を私たちに語ってくれるのは、プロボノを介して出会っているからこそです。個人的に出会ってお話を伺おうとしても、その人の生き方や信念までを聞き出すことは難しいと思います。熱く語ってくれた生き様や胸の内の数々は、私自身の心の奥にも残り続けています。

素直なこころで向き合うことで、プロボノの醍醐味をぜひ感じてほしい

プロボノは本業の仕事と並行して活動するため、プロジェクト参加中の約半年間は、定時後や休日の時間を使ってどっぷりと活動に漬かることになります。なぜそこまでするのかと問われたら、それは何より楽しかったからです。分業制によって一部の業務だけを担当するのではなく、支援先に成果物を納品するまでの間、課題解決の全てのプロセスを体験できることは、プロボノの醍醐味だと感じます。活動には様々な役割があり、楽しみ方のバリエーションがあることも魅力です。参加するなら、支援先の活動や社会課題に真摯に向き合っていただき、プロセスの面白さや自分たちの活動成果がお役にたち喜んで頂けた時の達成感を感じてもらいたいです。参加への不安があっても、一つひとつの新しい経験をチームで楽しむことができればきっと大丈夫です。

支援先の人たちや社会課題の当事者が本当に求めているものは何か、解決すべき本当の課題は何か。目の前の人たちと正面から向き合い、真剣にやり抜くことで初めて感じられるプロボノの面白さがあると、池原さんは語ってくれた。その挑戦の機会をどう楽しむか、その方法は人それぞれ。年齢やキャリアを問わず参加できるからこそ、その時々で自分が経験してみたい業務に挑戦してみたり、飛び込んでみたい分野に身を投じてみたりすることも、プロボノの楽しみ方の一つだ。

池原さんが参加した主なプロボノプロジェクト

団体のステークホルダーへのヒアリング調査を重ね、同団体が直面している課題を整理・検討。その上で、より多くの寄付や協力を得るためのセールスシートのコンテンツを作成し広報活動のサポートをしました。

障がい児とその家族の生活支援を行う団体の活動に対するビジョン、想いをわかりやすく伝えるパンフレットパンフレットを制作を支援