多様な人が共創することで生まれる価値に気付いたプロボノ。
ワークショップデザイナーとして、共創の価値を引き出す生き方へ
従業員プロボノ参加者 坪倉 秀基さん
高齢者の食事を取り巻く課題に取り組むベンチャー企業への支援プロジェクトに参加した坪倉さん。プロボノを通じて社内の別の部署のメンバーと協働した経験が、自身の価値観やその後の生き方に大きな影響を与えたという。坪倉さんの学びや参加前後の変化を聞いた。
注目していたベンチャー企業への支援プロジェクトを見つけて参加を即決
2019年にパナソニックに転職したことで、それまで触れることがなかった新しい情報や社内の活動的なメンバーたちに出会い、感化されて、自分も新しいことに挑戦したいと考えていました。また、パナソニックには会社の仕事以外でも、自分の興味があることに果敢に挑戦している従業員もいて、憧れる気持ちを抱いていました。当時は、何か社会にいいことがしたい気持ちがあって、色々な機会を探していたのですが、その折にプロボノと出会いました。
私が参加したプロジェクトでは、高齢者の食事に関する課題に取り組むベンチャー企業「ギフモ株式会社」への支援活動を行いました。その企業は、家族の中に摂食嚥下障害(食事や水分などをうまく食べられない・飲み込めないような症状)のある人がいてもみんなで同じ食事を食べる喜びをかなえられる社会を目指し、見た目は普通食と同じでそのままにやわらかく食べやすい介護食に加工する調理器「デリソフター」を提供していました。プロボノチームでは、デリソフターを利用する方の悩みに向き合って解決するためのユーザー参加型コミュニティの立ち上げを提案し、そのコミュニティの運営フローを作成しました。
実は、私がこの支援先企業と初めて出会ったのは、社内のビジネスコンテストでのことでした。ビジネスコンテストで、私は介護にまつわる課題をテーマとして取り上げていたので様々な専門家の方にヒアリングを行っていたのですが、その中で紹介してもらった一社です。
ある関係者へのヒアリングから、加齢により食べ物を噛む力や飲み込む力が衰えてくると、食べたい食事を食べられなくなるだけでなく、口の中の細菌が食べ物や唾液と一緒に気管支や肺に入ることで生じる「誤嚥性肺炎」という病気に繋がることもあると知りました。ギフモ株式会社はまさにその課題を解決しようと奮闘している会社でした。一度彼らのプレゼンを聞く機会があって、涙ながらに話していた姿がとても印象的で、世の中には社会を本気で変えようとしている人がいるのだと実感したことを覚えています。ビジネスコンテストでの挑戦は残念ながら終了していましたが、そんなギフモ株式会社に向けた支援プロジェクトがあることをプロボノの募集要項で知り、また彼らに関わりたいという想いから参加を決意しました。
生き方に影響を与えた、「多様な人が共創しアウトプットを出す」経験
プロボノで一緒に取り組む社内のメンバーは、持っているスキルも参加したきっかけも人それぞれで多様性に富んだチームでした。普段の仕事では、業務に関する共通言語を持った人たちと働くことが多いので、コミュニケーションにも難しさを感じることは比較的少ないです。その点、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーと協働するプロボノでは、チームの足並みを揃えることの難しさを感じる場面もありました。一方で、それだけ多様なスキルや経験を持つ人たちが協力して力を出し合えば、良いアウトプットを生み出せるのだということも同時に実感しました。この経験は、自分にとって大きなターニングポイントとなっています。
この経験が、ワークショップという手法に興味を持つようになったきっかけの一つになっています。ワークショップは、複数人が集まって互いに関係性を作りながら(相互理解)、協力してアウトプットを生み出す(合意形成)手法のことです。
イベントやセミナーなどで使われることが多いですが、これは「社内で、部署間の連携が取れていない課題を解決したい」「皆で共通の目標を定めたい」というような、会社の業務にも活かせるシーンが多々あります。プロボノを通じて異なる他者が混ざり合うことの価値を感じたからこそ、自分自身が質の高いワークショップを提供できる人になりたいと思うようになり、専門的に学ぶための講座を受講しました。現在は「ワークショップデザイナー」という肩書きを掲げながら、社内外で活動しています。
ワークショップデザイナーになり、コンプレックスが強みに変わる
ワークショップデザイナーとして活動を始めるまでは、何にでも興味を持ってしまう性格から、自分が本当に好きなものが何か分からないという悩みも抱えていたんです。しかし、ワークショップはあらゆる分野に生かせる手法であり、一連のプロセスで様々な人と関われるからこそ、幅広くものごとに関心を持てる方が楽しめる側面があります。それまで抱えていた悩みはむしろ強みに変わり、自分が心から楽しんで取り組めることに出会うことができました。
また、ワークショップデザイナーとして活動したことで、自分が伝えたいことを発信するためではなく、夢を持って活動する人の想いを届けるためのワークショップをしたいことにも気づきました。例えば、仕事で疲弊する人や組織がたくさんいる中で、“働き方”だけではなく“休み方”についても考えるべきではないかという想いを伝えるために、参加者同士で休息に対するイメージや具体的に行っている行動をシェアし、一人ひとりの休息に対する考え方の違いに気づくことで、休息の概念を拡大するためのワークショップを設計したことがあります。
世の中を見渡してみると、何かのノウハウやメッセージを伝えるためにワークショップという手法を活用したい人はたくさんいるものの、やり方がわからなかったり、付け焼き刃でやって上手くいかなかったりするケースも多いようです。そんな人たちの助けになれたらと思い、現在は認定ワークショップデザイナーの資格試験にも挑戦しています。
自分は何が本当に好きなのかが分からず悩んだこともありましたが、自分が心からやりたいと思える仕事と出会えたことは、プロボノで得た大きな財産だと感じます。
夢を語る起業家たちから学んだ、自分のやりたいことを言葉にする大切さ
ワークショップデザイナーとしての活動以外にも、プロボノに参加してから自分のやりたいことを積極的に行動に移し、発信するようになりました。その甲斐あってかパナソニックに入社して一番関わりたかった新規事業立案の部署にアサインしてもらえたり、プロボノで障がいのある人と関わった経験から社内のダイバーシティー&インクルージョンの推進活動に参画したり、イベント制作のノウハウを学ぶために「モデレーター&ファシリテーター」という講座を受講したりしました。
これだけ自分の気持ちに忠実に行動するようになったのは、プロボノをはじめとした様々な活動で出会った起業家の人たちの影響が大きいです。ギフモ株式会社の人たちと、デリソフターのユーザーインタビューを行うイベントに同行すると、会場には高齢者の方を取り巻く課題にさまざまなアプローチで向き合う人たちが参加していました。支援先企業を含め、彼らが自分たちの夢を当たり前のように語り、本気で世の中を変えようとしている眼差しが印象に残っています。そんな彼らを見ていたら、自分もやりたいことを突き詰めるような生き方をしたいと思うようになりました。この変化は、プロボノで本業以外の場所にも参画し、様々な人と出会う経験ができたからこそ生まれたと思っています。
一方で、会社以外の場所でやりたいことを見つけて飛び込むことへの不安や心理的ハードルもあります。その点、パナソニックで実施されているプロボノプログラムは同じ会社に所属するメンバーと一緒に取り組める社会貢献活動です。初めの一歩目を探している人には、安心して踏み出せるプロボノはぜひおすすめしたいです。
多様なプロボノメンバーと協働し一つのアウトプットを生み出す経験を経て、ワークショップデザイナーという自身の生き方の軸までも見つけた坪倉さん。プロボノのように、今いる環境とは別のところに身を置いてみることで、自分のコンプレックスが強みに変わる場所を見つけられるかもしれない。
坪倉さんが参加したプロボノプロジェクト
普通食の見た目はそのままにやわらかく食べやすい介護食に加工する調理器「デリソフター」を通じて、摂食嚥下障害を持った人が家族と同じ食事を食べる喜びをかなえられる社会を目指すギフモ株式会社に対して、ユーザー参加型コミュニティの立ち上げ提案とコミュニティの運営フローの作成に取り組みました。