社会を元気にする視点を、個人と会社にも活かす。
行動を変えるには、複数の活動に取り組むこと

従業員プロボノ経験者 前田 博さん

2013年から7回にわたってプロボノに参加した前田さん。約半年間かけてNPOと協働することで、支援先団体の運営の視点で社会課題と向き合う経験をし、自身と社会課題の距離が縮まったり、広い視野で物事を捉えるようになったりと、さまざまな変化があったという。プロボノを通じた前田さんの学びを聞いた。

運営の視点からNPOと関わり、社会課題がより身近なものに

プロボノに参加する以前に、地域の自治会の役員をしたことがありました。役員業務の一環で、ワード資料に情報をまとめたり地域の行事予定をエクセルシートにまとめたりしたら、意外にもそのスキルが重宝されました。その時、自分が普通にやっていることが役に立つこともあるのだと感じたんです。そんな折にプロボノの社内説明会があり、自治会活動での気づきと繋がるところもあってか、まずは一度やってみようと思い参加を決めました。

一方で、NPOと接点のない生活を送ってきた自分にとってはどんな世界なのか想像がつかず、参加前は不安と期待が入り混じっていました。

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前田 博さん

NPOが主催するイベントに参加したり募金という形で関わったりすることとは違い、プロボノは約半年間にわたってNPOと協働し、彼らが抱える課題に向き合い解決策を提案します。だからこそ、NPOや社会課題のよりリアルな部分まで見ることができたと感じます。初めて参加したプロジェクトでは、フィリピンと日本の貧困をはじめとした社会課題の解決を目指す「NPO法人アクセス−共生社会をめざす地球市民の会」に向けて、団体の今後の方向性を考えるための事業計画立案を行いました。その団体は、メンバーの大部分が大学生のボランティアで構成されているため、メンバーの入れ替わりの速さや人員不足という課題も抱えながら日々奮闘されていました。このような運営の課題にまで触れることができたのは、プロボノという形で実務に関わったからこそだと感じます。

プロボノに参加したことで、頭でしか理解していなかった社会課題がより自分ごと化された感覚もあります。2回目に参加したプロジェクトでは、「NPO法人さをりひろば」への支援を行いました。その団体は「さをり織り」と呼ばれる織物を通じて、社会的に弱い立場の人々の生活向上を目指すNPOです。このときに、精神的な要因で仕事ができなくなった人への支援に向き合う経験をしたことから、職場でも会社任せにするのではなく、自分からも誰もが安心して働けるような工夫をしたいと思うようになったんです。大変そうにしている人の仕事を手伝ったり、「大丈夫?」と意識的に声かけをしてみたりしました。“社会課題”という言葉はどこか遠いもののように感じてしまいがちですが、自分の身の回りでも起こりうることなのだと再認識しています。

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さをりひろばとのMTGの様子

NPOに学ぶ、長い時間軸で物事を捉えながら課題を導き出す視点

はじめてNPOと関わった自分にとっては気づきの連続でしたが、中でも2022年に参加した「一般社団法人TOKYO PLAY」への支援プロジェクトは、NPOの課題の導き方という点で学ぶことが大変多かったプロボノ経験です。その団体は、子どもの遊び環境が整っていない日本の現状を踏まえ、遊びの環境をつくる大人をあらゆるセクターで増やすために活動する中間支援組織です。彼らは、子どもの遊びの権利や環境が制限されている現状が、世の中にある様々な社会課題の根源になっているのではないか、という視点を持っていました。例えば、他者との遊びの中には必ずコミュニケーションが発生します。しかし、もし子ども時代に誰かと遊ぶ経験が少なかった場合、大人になってから人とコミュニケーションを取ることが苦手になる可能性があります。それがさらにエスカレートすると、人に悩みを相談できずにひとり命を絶ってしまうような深刻な事態に繋がってしまうかもしれません。このように、大人になってから顕在化している社会課題の中には、子ども時代に原因があるものがあるのでは、という仮説です。

企業が作る商品やサービスも、誰かの課題や悩みを解決し、生活をより豊かにするために生み出されています。その中には、即時的な効果を発揮するものや、効果が目に見えやすいものもあります。一方NPOでは、より普遍的な社会課題に向き合い、活動の効果がいつ現れるか定かでないこともしばしばあると思います。企業で働く身としては、かなり長い時間軸の中で、社会全体に関わる課題の原因を導き出すNPOの視点がとても新鮮で、学ぶことが多かったです。そんな人たちと出会い時間を過ごした経験は、自分にとっての財産になりました。

活動の幅が視野の広さにつながり、興味を持つ対象が増えた

参加前は、仕事とプロボノの両立に不安がありました。しかし、プロボノの活動内容そのものや、一緒に活動するメンバーと会って話す時間が自分にとって楽しく充実した時間になっていることにふと気づき、「プロボノの時間も確保するために仕事をどう進めるか?」という視点で考えるようになりました。

最近ではワークライフバランスの大切さは一般的になりつつありますが、何事もバランスが大事だと改めて感じたんです。何か一つのことで全ての時間が支配されていると、そのことしか考えられなくなって視野が狭くなってしまいます。一方で、複数のことに取り組んでいるときは色んなことに興味が湧き、視野が広くなる感覚がありました。さまざまな社会課題やその解決に取り組むNPOと出会ったことで、自分の目に見えない場所でも色々なことが起きているのだと、世の中への想像力が広がった感覚があります。視野や興味を広げてくれるプロボノが自分にとって大切な時間だからこそ、仕事の優先順位を整理して以前より効率よくタスクを進められるようになり、会社の業務にも良い影響がありました。

一方で、今ある生活に何か新しい活動を加えることは時にハードルが高いものです。その点、“社内”プロボノは新たな一歩を踏み出すきっかけとして自分に上手くハマったと感じます。一般的なプロボノでは所属関係なく集まった人たちとプロジェクトに取り組みますが、社内プロボノでは同じ会社に所属する人たちと取り組みます。社内で応募して参加できるという点は、新しい挑戦への心理的ハードルを下げてくれたように感じます。

自分のやりがいを見つけると、プロボノはもっと面白くなる

一緒に仕事をしたことがない会社のメンバーや支援先団体の人たちなど、プロボノを通じて出会った人から刺激をもらえることが、自分のモチベーションにつながっていました。社内のメンバーでは、岡崎さんとの出会いが印象的でした。私自身、「考えるより、まず行動!」という性格であると自負していたのですが、岡崎さんは私よりももっと行動スピードが早く、それでいて大事にすべき本質はぶらさない姿勢を持っていました。また、支援先団体の人の中では、1回目に参加したプロジェクトで関わったNPO法人アクセスの野田事務局長が印象的です。大学生のボランティアメンバーと日々活動していることもあってか、考え方がとても柔軟で、非常にアクティブな方でした。自分にできることは何でも積極的に取り組み、一方でできないことは「助けて!」とハッキリ声を上げる野田さんの姿勢から学ぶことは多かったです。

プロボノはチームで取り組むからこそ、アイデア出しが得意な人もいれば、情報整理が得意な人もいます。それぞれの得意を持ち寄れる点も魅力です。チームの中で自分ができることは何か、どんなことにやりがいや楽しさを感じるか、そんな点を意識して参加してみるとプロボノがより充実する時間になると思います。

会社の外にも活動範囲を広げ、刺激や学びを得る時間を作った前田さん。0からのスタートで何かに挑戦することはハードルが高いが、少しだけ背伸びして臨める社内プロボノという形は、自分のフィールドを広げる一歩目には最適の場かもしれない。

前田さんが参加した社内のプロボノプロジェクト

フィリピンで貧困や人権侵害に直面する子どもや女性を対象に、子どもに教育、女性に仕事を柱とした活動を続けている「認定NPO法人アクセス-共生社会をめざす地球市民の会」。長い歴史の一つの節目として、法人の本当の価値や現状を外部の視点から見直し、これから先の方向性を改めて定義する事業計画立案に5名の従業員で取り組みしました。

さをりの活動を通して、障がいのある人や高齢者他、社会的に弱い立場の人々の社会参加や生活向上に寄与することを目的に設立された「NPO法人 さをりひろば」 さをり織りにどんなニーズや期待があるのか、6名の従業員でマーケティング基礎調査に取り組みました。

子どもの遊びが大切にされる社会が実現することを目標に活動している中間支援団体の「一般社団法人TOKYO PLAY」に5名の従業員が、団体紹介資料の作成で支援しました。TOKYO PLAYの役割や活動の意義、周囲とのつながり、与えている影響を明らかにし、行政・地域団体・企業の担当者向けに取り組みや実績を10分程度で説明できる10ページ程度の資料にまとめました。